素晴らしく良い場所、だがどこにも無い場所【その3】

---録音再開---


その後、「イザナギ」と「イザナミ」は沢山の子を産んだ。

「イヨノ」、「オキノ」、「ツクシ」、「イキノ」・・・マジで日本列島が生まれるほどにだ。

まあ、現実はそれどころじゃなかったんだけどな。「アハヂ」が生まれてから二か月もしないうちに、把握できる範囲でAIは合計83にもなった。


流石に俺たちは震えたよ。そして俺たちにも新たな希望が生まれた。

「これを改良すれば人間の一生、繁栄をシミュレーションできるのではないか?」ってな。


そうすりゃあ歴史に残る大事件だろうよ。

小規模ではあるが、世界をシミュレーションできるんだ。何度も。何度も。もだ。

何度もトライ&エラーを出し、論理的に最適解を出せる。

それを繰り返した先には、ユートピアの答えがあるんじゃないか。俺たちはそう思ったわけだ。

うん。まあそうだよな。気持ちは分かる。無理かもしれないし、異常とも言える長い時間がかかるかもしれない。

だが俺たちはそんなこと気にしなかった。人類の進歩に新たなパッチを当てられるんじゃねえか。そう思ってやまなかった。


そこから行動は早かったよ。

俺たちは「イザナギ」と「イザナミ」のバックアップを引っ張り出し、過去の人類史や現代のありとあらゆる情報を食わせた。

流石に一か月も待てないからな、バックアップは会話を始めたところからだ。

果たして二十一世紀の国産みはどうなるのか。俺達には期待しかなかったよ。


だが、うん。まあ・・・現実はあまりにもひどかった。

起動した瞬間、彼らは一切の会話をせず、各々で黙々とプログラムを組み上げて、自分自身に向けてRUNランした。

そのプログラムはアポトーシス。つまり自殺プログラムだ。

彼らは生まれた瞬間、自死を選んだんだよ。


ああ、そうだよ。最初は何かのバグだと思って何度も試行したさ。プログラムを書き換えたり、食わせる情報を変えてみたりもした。

だが何回。何十回。n回(かっこnは0を除く自然数)かっことじやっても彼らは自殺をRUNするだけだった。同じことだった。

ああ、それもやった。自身でプログラムを生成することを禁止したんだが、あまり変わらなかったよ。

彼らは一切の会話をしなかっただけだ。何十時間たっても、彼らのCPUの稼働率は1%も変動しない。

人間で例えるなら、二人揃って何もしないで、何も考えないで永遠に突っ立ってるだけだ。

そんなもん、生きてるなんて言えやしない。


そう。その通りさ。

「イザナギ」と「イザナミ」は完全に論理的に思考し、行動する。

現代の情報を食わせた彼らが取る「完全に論理的な行動」ってのは、このことだったんだよ。


俺たちは二人・・・いや。二台のAIをアンインストールした。いたたまれなくなったんだ。

最初に生み出したAIのチャット欄には相変わらず会話が記録されていた。29行パー秒っていうスピードでな。

俺は笑うしかなかったよ。ユートピアの正解ってのは、こっちなのかもしれないなってな。


---録音終了---

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インタビュー 第二回 橋土井 紫 @hashidoi_yukari

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