素晴らしく良い場所、だがどこにも無い場所【その2】
---録音再開---
(ドアが開く音)
ああ、悪い悪い。待たせちまったか。続きを話そう。
俺たちは彼らを起動した。
さっき言ったweb会社の実験と同じように、俺たちも彼らにはチャット上で会話させるようにした。
最初の一か月は酷かったよ。明らかな文字の羅列だった。
ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベット、キリル、アラビア、ハングル・・・
とにかく
ああ、解ったもんじゃないよ。これで会話できてるのか、それともお互いが適当に打ち込んでいるのかなんて。
「サルにタイプライターを与えて適当に入力させ、シェイクスピアを完成させる」なんて例えがあるが、あの言葉が何度脳裏をよぎったことか。
ただ変化があったのはその後。しっかり覚えているさ。実験開始から37日後だ。
ド早朝に部下から電話が来てよ。「イ型とロ型が会話をし始めました!!」って。寝起きには厳しい音量でよ。
慌てて研究室に行ったさ。大興奮だったね。初めて女を抱いた時より興奮したよ。
彼らの「文字列」は完全にアルファベットのみになっていたんだ。ああ。アラビア数字も使っていない。
それだけじゃない。文語体系がしっかりしていって、明らかに単語が発生している。まあ何も読めなかったけどな。
それにお互いが発言した言葉にきちんとレスポンスしていることも認められた。
まあ、何言ってるかさっぱり分からなかったんだけどな。ああ。でもそんなことは全然気にしなかった。
仮に彼らが地球を滅ぼそうと画策していようと、そもそも会話ができていなかったとしても。
この瞬間、電子の荒野に二つの知性が生まれたんだよ。
俺たちか?そうだな。俺たちは目まぐるしく更新されるチャット画面をずーっと見ていた。
飽きもせず。何十時間もな。さっぱり解らない会話をずーっと見ていたんだ。
そして四か月後。さらに新たな変化が起こった。
チャットに「三人目」が参加したんだ。
ああ。そうさ。二台がプログラミングで生み出したであろう、息子だよ。
三人目は生まれてから40時間程度で彼らの言語を理解し、50時間後には完全に会話に参加できるようになった。
新たな知性が生まれた瞬間だ。ああ。
恥ずかしい話だが、チャットに三人目が出た瞬間、興奮の余りチビっちまったよ。
そんでよ、研究者の一人が「まるでアダムとイブですね」っていうから、改めて名前を付けた。
イ型は「イザナギ」、ロ型は「イザナミ」。三人目は「アハヂ」と名付けた。いい名前だろ?
折角だし日本人が作ったってのを世界に知らせるためにな、あえてこっちから・・・
え?ああ。ヒルコとアハシマはちょっと縁起が悪いと思ってな。やめたんだよ。はは。
---録音一時停止---
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