抗う犬の嘘と、そのケジメ…

低迷アクション

抗う犬の嘘と、そのケジメ…


抗う犬の嘘と、そのケジメ…


 外に鳴り響く非常警報は、周りに座り込む仲間達の“鋼鉄の体”に否応なく反響していく。

それを見ながら、俺こと“赤目(アカメ)”は、自身の装甲の耐久数値を確認する。


示す数値は100%が平常値換算で97。この分なら、高速ライフル弾だって、ロケット砲だって、充分に耐えきれる装甲の“筈”だった…


最新の軽素材を使い、機動力を上げ、常人の3倍の戦闘力を出せると言われる、

人体装着型ハードアーマー“ウォー・ギア”確かに戦闘力は上がった。しかし、装甲は

通常の防弾アーマーと大差なく、1週間の戦闘で仲間の9割は戦死する。


今は、残存部隊を都内ビル群の一角に陣取らせ、最後の戦いに備える最中だ。ここまで来て

わかる事はただ一つ。


“俺達はハメられた”


それだけだ。指導者であり、我が部隊の象徴、いや、俺にとっての女神“彼女”は皆を

だまし続けていた。


疲弊し、無言で佇む仲間の1人に歩み寄り、傍に立て掛けられてあった突撃銃を

拝借する。弾倉に弾が入っている事を確認し、ビルの屋上を目指す。そこに彼女がいるのだ。


治安部隊達の出方を確認するため、屋上に登ったアイツに全てを問いただし、

“ケジメ”をつける。階段や廊下のいたる所には散らばった銃弾、

空薬莢に血痕、鉄骨の破片、


包帯や薬瓶が転がる中を進む。正に敗北、終わりの風景。美学なんてモンは何もない。

自身のスーツがとても重く感じられる。一体、何だったんだ。俺達の戦いは?


何の意味があって、こんな事を?全ては…まったくの無意味な行為だったのか…?

ふいに聞こえてきた爆音に頭が一気に沸騰し、足を早めた。


飛びあがるように段を駆け上がり、屋上へのドアを蹴破る。


「何故だ?」


思わず出た言葉に値する光景、脱出手段は無いと言われていたビル、その屋上に

小型のヘリが止まっていた。乗り込もうとしているのは、


風になびく長髪を上手にくゆらせ、白い肌に人形のように整った顔を持つ“彼女”だ。

怒りと同時に上げた咆哮が言葉になる。


「見捨てるのか?俺達を?ここまで戦わせて。何故だ?何故なんだ?理由を教えろ?」


突撃銃の安全装置を外し、ヘリに向けた。一度こちらを振り返る彼女は口元に、

笑みを浮かべ、何か、言葉を発する。とても、とても短い言葉だ。


しかし、それはヘリの爆音に掻き消され、聞き取る事は…………………できなかったし、

俺は銃を撃つ事もしなかった。


そして屋上を離れていくヘリをボンヤリと見つめ、階下で聞こえてくる治安部隊の

突入音を無気力に聞いていた…



 「お前が赤目か?噂には聞いていたが、なかなか出来そうな面構えだ。彼女の事で

伝えたい事がある。」


廃墟の中にある隠れ家に突然、現れた“軍曹(グンソウ)”と名乗る男は、そう言って、

俺の顔を覗き込む。


その言葉が3年前の戦いの記憶を鮮明に思い出させていく。


そう遠くない世界の話だ。元々、大国の属国だった我が国の暮らしは、

5年前に完全に崩壊した。


人口減と高齢化で機能を失った社会は、汚職に保身に塗れた腑抜けの政府、

行政連中の素敵な仕事ぶりで何にも手つかず、そして何も声を上げない国民性で


世界から見放された。輸出は途絶えないから(モノを売る国としてはそれで利益を得るからである。)見た目は変わらない。だが、モノを買う金を確保するために、

土地や人間を売りさばき、


国内の土地所有者は全て外国人。行政、公務員といった、社会を維持できるギリギリの

ラインを保守する人間以外は外国への労働派遣、


臓器提供や人身売買が“仕方ない”の一言で“合法化”された。

モノを買う金のために国民が商品とされた。


しかし、完全な合理化社会となった世界を誰も疑問に思わないし、声も上げない。

狂ってるのに、誰も不満を言わない、そんな、完全萎縮強制社会に成り下がった我が国で


「俺達だけは違った」…


“抗犬(こうけん)”と呼ばれる反社会組織、公共の敵となり、あらゆる手段で

暴れまくった。外国駐留軍に対するテロ活動、海外に売られる同胞達を助け、


役人や公共関係の代表者を攫い、逆にそいつ等を売りとばしてやったりもした。

そんな事で世の中は変わらないと言った奴等もいる。だが、俺達には確信があった。


“彼女”という優れた指導者がいたからだ。暴れ回るだけの犬共と違い、作戦を立て、

資金も調達し、他国で開発中だった、最新鋭のボディアーマー


“ウォー・ギア”も提供してくれた。だから、3年前のあの日…俺達は首都の政府関係者を

拘束し、新政府を立ち上げる争乱…


今では“首都血戦”と呼ばれる大規模テロを行ったのだ。結果は誰もが知っている。

提供されたスーツは待ち構えていた治安部隊に全くの無力、逆に死体の山を築かされた。


人は苦しみの中で、少しの希望を与えられれば、それを糧に、

またしばらくの苦しみを耐え抜ける。俺達はその手段として、彼女と国家に利用された。


政府に対し、抗う存在は、ある程度までを泳がせ、国民達に希望のツールとして、利用し、

最後には落とす。人々に夢を見させ、結局、全ては無駄だと教え、


その残り香で、またしばらくの苦役を、彼等の利益を稼ぐ、存在として、

奴隷に解放の甘い夢を見させると同じ事に使われたのだ。


熾烈な残党狩りから生き延びた俺を待っていたのは、治安部隊の追及と、密告し、

自身の生活の少しでもの“安定”に繋げようとする馬鹿な市民共の密告だった。


味方も救いの手もなく、ただ逃げ続けて3年、最初は自分達を裏切った彼女を探す事を

考えた。だが、それは諦めた。諦める理由があったからだ。


そうやってさ迷い疲れ、最早、戦う理由も見いだせない自分は、

手元に残された銃を額に口に咥え、自殺を考える日々。


そんな時に、この男が現れた。“軍曹”の存在は抗犬時代から知っていた。

世界中の紛争地域で暴れる傭兵であり、暴力だけはいっちょう前…


だが、武器や実際の戦闘を知らない俺達に、彼女を通しての戦術指導をしてくれた。


「会うのは初めてだよな。軍曹。だが、今更だな。あいつからのメッセージ?

俺達を裏切った女の伝言なんて聞いて、どうなる?今の現状が変わるとでも。」


「残念ながら、そうはならない。お前は恐らく、追われるままだ。」


「っざけんな!そんな事なら、わざわざ聞く意味はねぇ。」


そう捨て置き、廃墟の奥に身を翻す俺に軍曹の言葉が刺さる。


「まぁ、そうなるよな。別に、俺は構わねぇ。だが、知りたくないか?

お前等の部隊が壊滅したあの時、本当は何が起こっていたのかを?」


足が止まった。戦いの記憶が蘇る。ハリボテ同然のスーツを着て、座り込む仲間達。

屋上に鳴り響く爆音、銃を向けた俺に振り返る彼女の笑顔、あれは歓喜じゃない…


哀しみだ。


動きを止めた自分に、こっちの気持ちを汲んだ、いや、核心をついた台詞が被さった。


「更に言えば、赤目。お前の実力なら、彼女に復讐だって出来た筈だ。

だが、それをしなかった。理由があるんだろ?それにも明確な動きを示せる話だぞ。

これは。」


心は決まった。どのみち、目的もこの先のアテもない。

軍曹に振り返り、近くの錆びたイスに座る。了解と見たのか、


相手も同じように目の前のテーブルに腰を落ち着け、静かに語り出した…



 「事の始まりは、彼女がこの国を変えようと動き始めた所から始まる。

俺は旧知の仲だし、そーゆう活動をする奴等への協力や支援は惜しまない。

そしてお前等が出来た。そうだったな?」


頷く俺の頭に彼女との出会いが投影されていく。人身売買で連れていかれた友人を助け、

治安部隊を半殺しにして、逃げ迷う自分を、あの人は拾ってくれた。


とても、暖かく、かつ強い眼差しをこちらに向け、


「共に戦おう。」


そう言ってくれた彼女の言葉を…だが、それだからこそだ。何故、アイツは俺達を…


握った拳が強まり、血が滲み出る。それを見てか、見ないかはわからないが、軍曹の言葉は

非常に冷静な様子を崩さずに続く。


「戦いは本当にイイ感じまで進んだ。ウォー・ギアも手に入れたしな。


ちなみに、あれをこっちに流したのは知り合いの武器商人だ。近代的な戦闘は

無人兵器が主流になりつつあるが、最終確認は、人間でないとどうしても駄目だ。


だからこそ、人様の柔い肌を守り、機動力を持ったスーツが必要だった。その先行量産機を

お前達に試供した。実際の戦闘で試すのが、一番いい。


だが、これが問題だった。肝心の商人達も気づかなかった事だった。」


「?」


「お前達の首都血戦が始まった日、俺の元に商人から連絡が入った。

“ウォー・ギア”自体の問題点というより、試供した側の問題をな。」


「どういう事だ?」


「元々は政府軍が使うスーツ。つまりは反政府勢力と戦うために調整された代物だ。

しかし、それを初めて着たのは、よりによって反政府側のお前等だった。」


「・・・・・」


「開発陣は出来るだけ、着用者個人の移動に問題がなく、尚且つコストが、かからない

軽素材を用意した。それは反政府側が使う、銃弾、爆薬に適した素材、


つまり政府側に使う銃弾、本来、味方になる筈の武器には全くの無力。

通常の防弾チョッキと大差ないモノだった。


驚いた俺は商人に、代替えのアーマーなり、武器なりの手配を指示し、彼女に連絡をした。」


「・・・・・」


だから、彼女は俺達に“外に出て、徹底抗戦”ではなく、“立てこもり”

を指示したのか…


本来ならウォー・ギアを身に纏い、銃弾の雨を問題なく進む事を出来た筈の戦術を捨て、

被害を最小に抑えようと…


黙り込む俺の姿勢を“話の続行”と受け取った軍曹は言葉を続けていく。


「彼女は焦っていたよ。戦闘は既に始まっていたし、被害も甚大。何とかビルの一つに

籠城したが、殲滅は時間の問題。増援は来ない。言い訳に聞こえるが、それで結構。


あの時、俺は商人から武器を受け取って、この国へ急いだが、

政府側の妨害とそれに付随する戦闘のおかげで。到底、間に合う事は出来なかった。


だから、彼女はその身を持って“嘘”をついた…」


もうほとんど理解できた。だが、今後に必要な“これから俺のとるべき行動”に必要な話を

聞いておかなければならない。


「あの日、お前が見たヘリは“救出用”ではない。言うなれば“拘束用”だ。

彼女は戦いを進める上で、政府の一部と交渉をしていた。


新政権樹立のための準備をな。そこに連絡をとり、自身の身柄を差し出す代わりに

お前達、抗犬の命を助ける事を提案した。政府はそれを受理し、彼女は捕まった。」


全て繋がった。あの時、本当の事を言えば、彼女の言葉を、俺は理解していた。

軍曹達の戦術レクチャーで、激しい戦闘の際、音は聞こえなくても、口の動きで内容を


理解する術を得ていた。彼女の言った言葉はとても短く、簡潔


「生きて…」


ただ、それだけだった。しかし、俺は守らなかった。やけっぱちのように銃を撃ち、

治安部隊と戦いを繰り広げ、敵にも、味方にも大変な被害を出した。


答えを見出し、黙り込む俺に軍曹が続ける。


「拘束されてからの彼女がどういう目に遭うかは想像がつくだろう。この国のテロリストに対する扱いは、飼い主である大国と同様、残酷で非道なモノだ。


それをわざわざ説明する必要はないな。俺達は救出の機会を探り、


そして、3年目の今日、ようやく準備が整った。まぁ、つまりだ。彼女は生きている。」


軍曹が黙り、俺を見詰める。言いたい事はわかっている。だが、それに従う気はない。

無言の拒否を見て取った彼は少し目を伏せながら、喋りを再開した。


「救出部隊はよく訓練したし、俺も行く。軟弱な治安部隊に負けるつもりはない。

だが、あともう一手。もう少しの手助けが必要だ。


だから、赤目、お前に声をかけた。俺達と彼女を救いに…」


「断る。俺にはもう何にも関係ない事だ。」


「しかし、いいのか?彼女は…」


「助ける?冗談じゃない。遠回しな事をしやがって、おかげで俺は

3年間、地獄を味わった。投降するなら、皆に、それをハッキリ伝えてくれりゃぁいい。


俺達が彼女を守って徹底抗戦したって?冗談じゃねぇや。あん時は誰だって助かりたい、

死にたくない一心だった。喜んで投降したさ。俺達をそんなに買いかぶるなよ。軍曹殿!」


一気にまくし立て、座っていた椅子を蹴り上げ、そのまま奥に踵を返す。

後ろから、軍曹の静かな言葉が聞こえてきたが、馬耳東風並みに聞き流してやる。


「どうやら俺はお前達に期待をかけすぎだようだな。仕方ない、まぁいい。

この話はなかった事にしよう。後、3時間で行動を始める。


ここで逃せば、彼女を救う機会はもうない。」


俺は何も答えないし、そちらを見る事もしない。遠ざかる彼の足音、

出口に向かう軍曹の足音が途中で止まり、言葉が聞こえてくる。


「実は、ここに来たのは、もう一つの事を確認するためだ。首都血戦から、しばらくの後、

ウォー・ギアに関しての質問と装甲の改善点に関する問い合わせが商人、開発陣の方に

何件も来た。


お前等の活躍で中止となったスーツだ。最後の手土産に色々答えてやったそうだ。

その、たびたび変わる連絡先や場所を特定し続け、ここに辿り着いた。何か心当たりは

あるか?」


「・・・・」


「そうか、本当に邪魔をしたな。」


軍曹の消えた後、俺は彼の居た場所に視線を映し、軍曹が残した彼女の居場所と

攻撃時間の記された紙片を手に取った…



 ここで、俺は謝らなければいけない事がある。自分も嘘をついた事にだ。

彼女にも、軍曹にも、そして、これを読んでいる人達にもだ。


まぁ、ここまでの流れで大体わかっているかもしれないが…


瓦礫や家具で埋め尽くされた中を進み、棺桶のようなトランクケースを空ける。

中から出したウォー・ギアは新品そのモノだ。長年の整備と完了の賜物が


実際の形となって繋がってくるのは良い事だ。


あの時、階下に降りた俺は、仲間達に彼女の示した“投降”を指示した。

勿論、全員納得しなかった。狂暴な連中だ。戦い足りないのは目に見えている。


そして、簡単な武装解除では、政府も国民も納得しない。


犠牲が必要だった。自分達が壊滅したと見せかけ、地下に潜るためには…


“彼女を救い、再び戦いを始めるためにだ”


最後の戦闘により、半分は死んだ。生き残った半分は各地に散り、治安部隊の追撃と

移り代わりの激しい無力な国民達から身を隠し、


俺達の守るべき世界は彼女と自身、それだけしかないと学び、

確信をするための時間となった。


やがて、3年の月日が経った。彼女の居場所がわからず、

疲弊しきった俺の前に軍曹が現れた。情報源を持った最高の存在。


だが、コイツ等に加わる気はサラサラない。


戦いも救出も全て俺達だけでやる。恐らくあの野郎はそこまで察しているのだろう。

構わない。俺は、ただ、俺達はケジメをつけに行くだけだ。


何度か、試しに身に着けた以外は、実に2年ぶりのスーツに身を通す。無機質な色と

鉄の臭いが戦いの記憶を呼び覚ます。俺達はもう、世の中を変えたりはしない。


ただ、自分のために、好きな女を救うために戦うのだ。そのために出る市民の被害なんざ

知った事ではない。


恐らく、こんな考えを、あの軍曹殿も世間も認めない。いや、助けに行く彼女ですら、

認めないかもしれない。かつては義賊の抗犬、


だが、これからはただの人殺し、目的遂行のためなら、何でもする狂犬になるのだ。


覚悟を決めた表情を頭部スーツのマスクで覆う。変わる視界は俺達が変わる合図となる。


数か月ぶりの廃墟から外に出る。人口の少ない町では、この恰好でも目立たない。もっともすれ違う奴を生かす理由もないが…そう思い、

俺はゆっくりと彼女のいる場所に向けて進め始めた…



 燃え盛るビル群に血まみれで倒れる人は

全て俺達と生き残った仲間、数十体のウォー・ギアの仕業だ。


首都のあちらこちらに分散し、破壊と混乱を起こしながら、

彼女が囚われている施設を目指す。独自の連絡方法で集まった抗犬の残党達は、


今や狂喜を剥き出しに、携えた武器を駆使し破壊を繰り返す。


「くそっ」


治安部隊の隊員達が立ちはだかり、突撃銃を俺に撃つが、こちらにダメージはない。

3年前から“何も変わっていない装備”に負ける理由がないのだ。


開発陣から得たデータをだけでなく、あらゆる方面で独自の改修をそれぞれに施した

俺達のウォー・ギアを止める敵はいない。瓦礫と廃材で作った棍棒を振りかざし、


隊員達の頭を全て砕いた俺は、歩みを進める。周りで聞こえる人々の悲鳴は一切無視だ。

この3年間、誰か一人でも、俺達を救ったか?答えは否。


ハラワタと肉片を晒せばいい。


目的の建物が見えてきた。飛び交うヘリは、全て落とした。

装甲車輌はあり得ないくらいに捻じ曲げ、使用不能にしてやった。


混乱のせいで増援はこない。全て計算通りだ。卑屈と憎しみを増幅させ、

廃墟に籠って立てた計画は、そう簡単に崩れはしない。


目的の施設内入口に立つ影がある。見れば銃を構えた軍曹だ。その表情は怒りに満ちている。

涼しい声をかけてやる。


「どうした?ヒドイ事を見たような面だぞ?」


「赤目、お前がここまでやるとは思わなかった。」


「そこをどけ、目的を、俺達のケジメをつける。」


「彼女を助けるのか?そのために町を壊し、人々を殺すのか?」


「これから、もっと、もっと!もっと!!殺す。彼女を指導者としてな。」


「そんな事を、あの人が望むとでも?こんな光景をするために戦う

とでも思っているのか?」


「なら、アンタも、彼女も、俺達を騙したのか?共に戦おうと、けしかけ、

いざとなったら捨てる。俺達を助けるために

自身を犠牲にした“優しい嘘”をついてってか?


そんなの、こっちの事を何も考えねぇ、テメェ勝手な嘘じゃねぇか。只の自己満足だよ。

誰かを救うため?違うね。自分の心を正当化するため、救いたいだけなんだよ!

どいつもコイツも!」


本当は一緒に連れていってほしかった。彼女が行く道なら、どんな地獄だっていい。

結局、俺はあの人の傍にいられるだけで満足だったんだな。だから、それを叶えにいく。


この答えに辿り着くまで、随分かかった。派手にやったんだ。


もう偽る事も出来ないし、その必要もない。軍曹が叫び、銃を撃つ前に、

その喉元に棍棒を刺し込む。血を拭く彼を投げ飛ばし、室内に入った。


警備の兵達は全て引き裂き、1階ロビーの端末から、彼女の居場所を知る。

進む我が道の足元に何かが転がる。


手榴弾。軟弱な国の無能連中でも、これくらいの装備はあるようだ。

爆発が足元で起こり、少し体が浮くが、外傷は何もない。


「やったか?」


の声と共に進む特殊部隊の恰好をした隊員の1人を掴んで、そのまま潰す。

悲鳴と同時に四方から銃弾が撃ち込まれる。その雨を掻い潜り、


1人1人を丁寧、確実に解体していく。


「止せ、止めろ!」


唯一残った隊長格が両手を上げ、降伏の意を示すが、お構いなしにその片足を最大重の加重をかけ、文字通り、踏みつぶす。悲鳴を上げ、のたうち回る男を、しばらく眺める。


今まで、“自分達は大丈夫”と安全圏でふんぞり返ったクズ共を潰すのは、

本当に気分がいい。


役人面お得意の


「法律で決められていますから。」


の一言もなく、ただ痛みと恐怖を叫ぶ、嘘偽りのない真実の姿を晒してくれる。

こういった時にこそ、人間の本当の姿を見る事が出来るのかもしれない。


“納得”というように頷いた俺は、隊長格の頭を軽く削ぎ、トドメを刺した後、目的地に

向かった…



目的の部屋のドアを蹴破り、実に3年ぶりに彼女の前に立つ。


やつれた顔に白い拘束衣は頂けないが、間違いなく彼女だ。よ・う・や・く・見つけた。

出来るだけ優しく、冷静に声をかける。


「長い間、お待たせしました。もう大丈夫です。一緒に行きましょう。」


機会の手を差し出す俺に


彼女は拒否するようにイヤイヤをする。


「何故だ?」


まさか、長い拘束生活で喋れない?それとも、拷問の影響か?

焦る俺は自身の手、そして体を見比べ、気づく。


赤黒い肉片に、血痕、スーツの影響でほとんどしないが、凄まじい腐臭と残骸にこびりついた俺の姿はさながら悪鬼といった所だろう。


しかし、それくらいは覚悟の上の筈だ。ウォー・ギアなんていう化け物じみた武装を用意し、国家の転覆を謀ろうとした俺達なのだから。


(結局、その程度の覚悟。やっぱり俺達を騙していたんだな。この人は)


怯える彼女を見つめ、絶望に近い感情が芽生える。この3年間、地獄を耐えてきたのは

何のため…いや、この考えはもう止めよう。3年前と同じ展開には飽き飽きだ。

もっと明るい考えを持つ事にする。


チャンスは目の前にあるのだ。愛しの彼女に崩壊寸前の首都。俺達の勝利は近い。

彼女もきっとわかってくれる。理解してくれなければ、


わ・か・ら・せ・る・ま・でだろう。


俺達を騙し、ここまでさせた責任を取ってもらう事にしよう。


「行きますよ。」


無造作に言い放ち、嫌がる彼女の髪を掴み、そのまま連れ出す。死体の転がる廊下を

お構いなしに引きずって歩く。


悲鳴を上げる彼女と外の爆発音が俺の耳に、非常に心地よく、かつ楽しく流れ続けた…(終)






 

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