徘徊怪異“ハイカイ”動き始める狂念… 

低迷アクション

徘徊怪異“ハイカイ”動き始める狂念… 

徘徊怪異“ハイカイ”動き始める狂念…



 ホラー映画や小説を読む中で、幽霊や怪異が出現する場所は“固定パターン”のような

お決まり、納得の要素があると思います。例えば


“壊れた祠や無縁仏のあった場所で無念の霊が出る”

“峠で事故死したバイカーがその場所で並走してくる”

“学校のトイレで自殺した女生徒の霊が出る”


これは読み手や視聴者でもある我々の中にもある“固定意識”が原因です。曰く


“女子トイレにいるのは、花子さんか女の子の幽霊”

“祠があったら、それが原因で何等かの怪異が起きる”

“自殺者が出る部屋は絶対に障りがあるだろう”


と決めてしまいがちです。勿論、“地縛”的要素を含む怪異はそこに留まり続けるでしょうから納得かも?ですが、宗教観、固定された考えや生き方に乏しい我が国の

ある意味では“好ましい風潮”から言うと何だか“?”を感じてしまう自分がいます。


これは実際に霊が“いる”と仮定した時の話ですが、

霊体や怪異になるほど、強い恨みや想いを持つ存在が、一つの所に留まったままでしょうか?我々のように歩き回り、


“呪いをかける獲物や伝えたい相手を探して場所を変える”事はないのでしょうか?


憎しみや情念は、そのまま、そこに留まり、燻り続けるのでしょうか?


どうしようもない怒りや恨み言をずっと同じ場所で留めておける程、

生やさしい感情は、果たして“地縛”と言えるのでしょうか?


今はメディアも発達し、ドローンのような空撮や、ストリートビューのように、そこに

行かなくても、情報を集めたり、自身が行ってきたような“疑似体験”が容易な時代です。


「建物の中に入らなきゃ大丈夫。車から撮れば、問題ないよ。望遠レンズ持ってきてるし!」


「心霊スポットギリギリ接近ナウ!ハハッ」


なんてカメラをちらつかせ、黒い携帯端末を弄り回す連中を、彼らは黙って帰す程、

穏やかな存在なのでしょうか?


めまぐるしい技術発展、法整備によって次々に変化していく昨今ですが、

変わるのは私達だけでしょうか?


時代に対応し、己の欲を満たすために発展するのが、我々人間の常です。

ならば、それに対し影響を与える“モノ達”が何も変化しないとは思えません…

そんな“現状”を色濃く反映し、


決して“そうではない”という一例をお話ししたいと思います…



 「釣りですよ。“Tさん”魚が釣れなければポイントを変えます。あれと同じです。」


白目になり泡を吹いて痙攣した一人を抱え、混乱する学生風の男女二人。すぐ横で何処かに電話をかけている一人と蹲って震える肩を抱きしめている三人…その光景を車窓越しに

眺め“F氏”が静かに喋りかけました。友人Tの体験です。


春も近づいたある夜の事でした。彼はサークルで(心霊モノを扱う同人サークルです)

知り合ったF氏と廃校になって間もない小学校に忍び込む予定で軽トラを走らせました。


F氏は40~50代の立派なヒゲを蓄え、夏でも冬でも黒いコートを羽織り、黒い手袋を

しっかり嵌めた紳士風の人物です。漫画や映画にそのまま出てきそうなキャラクター性に加え、職業も不詳な方ですが、怪奇サークルには打ってつけのキャラクターという事もあり、

Tは親交を深めていたそうです…



「忍び込むと言っても、ちゃんと業者から依頼のあるモノでしてね。ほら、鍵も

持っていますよ。残したままの教材とか、椅子に机、生徒がコッソリ隠した残留品も含めて

チェックしていきます。それらを各担当の引き取り先や解体先に

数や種類を報告するのが、今回の仕事の一つでしてね。Tさんに手つだってもらうのは

悪いですが、夜中の学校はホラー好きにとっては、たまらないでしょう?」


F氏の説明にTは笑って頷きました。最近では、廃墟や心霊スポットと呼ばれるような

所はだいたい警備会社の監視カメラや


「カメラが設置しています」


的な看板を設置しています。何処までホントに設置しているかわかりませんが、だいたいの奴は(Tも含め)それで尻込みして帰ります。おかげで“心霊スポット巡りご無沙汰”な

彼としてはF氏の好意は、とてもありがたいモノでした…


車が、山奥の入口にある学校に着く前の土手では、夜桜見物の飲み客の姿が多くありました。それを横目で見ながらハンドルを切るF氏はTに念を押すように喋りかけます。


「これから行く学校は廃校になって、まだ4ヵ月です。市の方でも施設としての再利用か、解体かを決めかねているようなので、警備も入っていません。もしかしたら、今みたいな

夜桜見物の客が悪戯心を起こして、校内に入っているかもしれませんが…」


「了解です。まぁ、春先は皆、気分が浮かれますからね。自分達みたいに。」

「そうですね。」


微笑んだF氏は車のスピードを上げ、5分程で目的の学校に到着しました。山を背にした

校舎と広い運動場が立派な、昔ながらの学び舎と言った学校の様子に、

Tは懐かしい想いになりました。


「おや?本当に先客がいるようですね。」


F氏の声に前方を見れば、一台の車が止まっていて、そのライトが校舎の正門を照らして

いました。明かりが時々動く様子から、数人の人物が、車の周りで動いている様子です。


車を下りたF氏とTはその一団に近づいていきました。どうやら、学校内を探検してきたグループが待機していたメンバーに中の様子を話しているようです。民家も少なく、静かな夜に響かせるように話す内容は、二人にも全部聞こえる程でした。


以下は彼等の会話です…


(校内を探検してきたリーダー風の一人が声を荒げています。

立ち位置からして、中に入ったのは四人、待機しているメンバーは三人のようでした。)


リーダー風の男性:「だから、言ってるだろ?俺達が入って、3階の教室を順繰りに

歩いてたんだよ。そしたらカズヤが(よく見れば、一人の男性が二人に

両肩を抱えられています。)何か聞こえたって言って、急に走りだしたんだよ。」


待機していた女性:「それで、何があったの?カズ、そんなになって…泡吹いてるよ。」


リーダー風の男性:「最後まで聞けよ。お、俺だってよくわかんねぇよ

(震え、怯えた様子が遠くからでもわかったそうです。)ただ、突き当りの理科室みたいな所にカズヤが入っちまって、皆で追いかけたら、いたんだよ…」


待機していた男性:「い、いたって何が?」

リーダー風の男性:「・・・・・」


待機していた女性:「いたって、何がいたのよぉぉ!(最早、悲鳴に近い声で)」


中に入った一人:「真っ黒だ…(押し殺したような声で)」


待機していた全員の表情:「?」


リーダー風の男性:「全身真っ黒な、まるで火事にあったみたいな、男だか、女だかわからない奴が教室の中に立ってたんだよぉっ!!(半分泣いたような声で)…

        しかも、しかも、そいつは…」

中に入った一人:「笑ったんだ…」


待機していた女性:「笑った?」


中に入ったもう一人:「そうだよ!笑ったんだよ。先頭で入ったカズヤと俺達を見てよ。

全身真っ黒なのに、そこだけ妙に明るい色の黄色い歯を見せて、

笑ったんだよぉぉぉ!ま、まるで“カモ見つけた”って感じで!

嬉しくて堪らねぇってみたいによおぉっ!」


リーダー風の男性:「カズヤが変になったのは、それからだ。早く、救急車を呼ぼう。急げ!」…



興奮する彼等はT達が来た事にも気づかなかった様子です。状況が状況なだけに、

同じように心霊スポット巡りをする彼としても、何か出来る事はないかと動こうと

しました。


「今日は止めときましょう…Tさん。」


そんなTをやんわりと、ですが強い様子でF氏が止めました。疑問に振り返る彼を、

F氏は、車へ半ば強引に乗せました。普段の氏とは何処か違う様子です。助手席に乗った

彼の、少し不服そうな表情に答えるように、F氏が話し始めました。(最初の件(くだり)に戻ります。)


 「Tさんも言っていましたね。最近では心霊スポット巡りも楽じゃないと…

なかなか入れないと…確かに管理する側からすれば、土地が荒らされるのを黙って

みているのは良しとせずで、イイことではないですからね。でも、それはそれで

問題になってくるかもしれないです!こ・れ・か・ら・はね…」


「はぁ…?…」


「あくまでも一例の話として聞いて下さい。勿論、それ以外の要因も大いにあります。

絶対にね!ですが、今回の件に関して言えば、間違ってないと思います。あの人達の会話を聞いて、Tさんはどう思いましたか?」


「どうって…」


「ただ、怖いだけでなく、疑問に思いませんか?聞いた話を総合すれば、彼等が見た

“黒いモノ”は我々のようなホラーマニアから言わせれば、焼死した幽霊のようなモノで

しょう。それが何故?廃校に?この近くで凄惨な火事の事件はありません。


ここ何年もですよ。かつて、この学校に通っていた思い出からの出没も考えられますが、

人をあんな様子にする霊障は、強い憎しみを持った情念が、思い出だけで、ここに

留まっているとは、到底思えません。」


「では、一体何故?」


F氏は深いため息をつき、自身の手に嵌めている手袋を少しずらします。やがて、こちらに向けた表情は、思わず“ゾっと”するような怖いモノでした。


「先程も言いましたね。“釣り”ですよ。 Tさん。強い情念や憎しみを持ったモノ達は

“移動”を始めたんです。自分達の想いをぶつける、呪いをかける“相手”を

探してね。何故って?


“相手が、誰も訪れなくなったからですよ。”


貴方も言ってましたね?最近じゃぁ警備が固くて、そうゆう場所にも滅多に入れないって…!彼等がそれを仕方なしとして、ずっと同じ場所にいると思いますか?私はそうは

思いません。怪異になるくらいの存在です。黙って誰かを待つなんて悠長な気構えじゃ、

絶対にあり得ないと思います。獲物が来なければ、自分から探しに歩く。


“誰も来ないでくれという想い”の怪異なら、まだしも…誰彼構わず、この痛みを!

怒りを!誰彼構わず、ぶつけたいっていうモノだって絶対にいます。例えば、

“焼身自殺をして、なかなか死ねなかった奴”とかね。」


「じゃぁ…目の前で起きている事は…」


「あくまで、一例です。ただ、これからネットや投稿怪談で増えるかもしれません。

“トイレに出る白装束に藁人形を持った霊”とか“廃工場で走り回る首なしの子供”

みたいな“何故?そこに”と言った怪異体験がね。彼等はもう誰かが来る事を…

待つのをやめたんです。暗く、澱んだ廃墟や空間を探して、呪う相手を探して

徘徊する存在達…いや、これからは明るく人の多い場所だって、もう関係ないの

かも…」


「Fさんは…」


憑かれたように話すF氏を遮り、Tは言葉を発しました。これだけは、どうしても

聞きたい事だったそうです。


「?」

「何か経験があるんですか?そこまで詳しく話すって事は…?」


F氏が言葉を発する前に、若者の一団に変化が起きていました。皆が廃校の窓を指さし、

叫んでいます。車内の事で、先程ほどクリアに聞こえる事はできませんが、断片的に

聞こえる内容は


「…黒いのが…」

「…こっちに来る…」


という単語です。Tが反応する前に…


「行きましょう。」


F氏が車のエンジンをかけました。キーを手早く回し、バックして校外に出ます。

若者達がどうなったのか?その後をTは知りません。


ただ、ハンドルを握るF氏の黒手袋が、少しだけズレていて、中身を見る事ができました。

その手は何かに“メチャクチャに引っかかれたような”赤い皮膚がいたる所で露出する、

とても“コワい”手でした…(終)




 

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