時は流れて

時の流れはなんと早いものか。


俺は風の便りに聞いた。石本先生が亡くなられたと。

享年79歳。病死。

それ以上の詳細はわからない。



俺はとっくに大人になっていた。



聡とは、高校を卒業するまで度々会った。

その後、それぞれの道へ進んだ。


バブル期はよく電話で話した。聡は派手に遊んでいたようだ。

はじけた後、一度だけ会ったが、その後連絡先が分からなくなった。

それが、ずっと気がかりだ。



子供の頃を振り返る。

その時はわからなかったが、今はわかる。


俺は大人が『幸せかどうか』に関心があった。


幸せでいてほしかった。

何故なら、幸せな大人と接して安心したかったからだ。



小学校を卒業して24年。

それなりに色々な経験をした。


新しい家族もできた。



今、石本先生のことを考える。


時代の流れは、思った以上に変化をもたらした。


『先生は、その変化にどのように対応したのだろう』

『そもそも対応できたのだろうか』

『定年後は、どのように過ごしたのだろう』



石本先生が俺に残した印象。

大人になった今、それがわかった。




【孤独】




厳しさの裏にあった孤独。


俺はそれを感じていたのだ。




俺が石本先生に問いたかった事。


今なら言葉になる。

とても単純な言葉に。



『先生は幸せですか?』



大人になって俺は知った。


幸せは『穏やかさ』の中にあることを。



確かに人は、時に激しさと刺激を求める。


でもホラー映画を見て、その内容が自分の身に起きることを誰も望んだリはしない。

遊園地でジェットコースターに乗り、スピードとスリルを激しく味わった一日。でも家族や恋人と行く遊園地は、それ自体が穏やかな日常だ。



『全ての事が穏やかであること、平和であることが望ましい』


俺はそう思っている。



『本当の穏やかさは、孤独な心を救うから』



石本先生の人生は穏やかだったのだろうか。


それとも、あのドライブのように、発進と停止を繰り返す激しい人生だったのだろうか。



俺は……

石本先生の人生が穏やかであったことを心から願う。





おわり

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発進と停止は穏やかに @yomekawarimono

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