子供の心を大切にしてほしい
@yomekawarimono
小鳥のムク
近所の空き地に鳥の巣が落ちていた。
風で飛ばされたのか、カラスが持ってきたのだろう。
側には雛の死骸が数羽。
ピーピーピー
『あれ?一羽だけ生きているぞ!!』
僕は家に連れて帰った。
雛鳥は、3時間おきに擂り餌を食べさせなければならない。
子供の僕は頑張った。
夜も起きて、雛に擂り餌を与えた。
毎日、夜中に起きて、雛に擂り餌を食べさせる僕を見て、母が感心する程だった。
それだけ一生懸命育てた。
ムクドリの雛だと勝っ手に思い、僕はムクと名付けた。
結果ムクドリではなく、スズメくらいの大きさに育った。
鳥の種類は分からなかった。
僕は毎日ムクの世話をした。
毎日遊んだ。
籠から出して、肩にのせて家の中を歩いた。
かわいくて、かわいくて、僕の最高の友達だった。
※
ある日の事。
父親が「鳥を連れて散歩に行こう」と言った。
父親は勝ってにムクを肩にのせて外に歩き出した。
ムクは、ちょっとくらい外に出ても逃げないくらい慣れていた。
でも、『散歩にいくなんてありえない』
そう思って、心の中では猛反対していた。
常日頃、母親から「お父さんが言う事は絶対」という教えを受けていた。
だから何も言えなかった。
家の裏はJRの線路だ。
父親は線路の方に向かい、線路と平行に狭い車道を歩いた。
僕は心から祈った。
『どうか電車よ来ないで。どうかムクが飛んで行かないように』
もう生きたここちがしなかった。
父親の肩にいるムクをひたすら見つめていた。
パーーーーン
警笛のおとがした。
そう……電車が来たのだ。
ムクは……
電車の音に驚き、飛んで行った。
「アッツ」父親は一言だけ口にした。
僕はムクが飛んで行った方向をしっかり見た。
『電車が来たら飛んで行くに決まっているのに。分からないのか、大人なのに』
そう思った。
電車が通り過ぎた後、その方向に走った。
踏切を渡り、民家の屋根にいるムクを見つけた。
『いた!!』
『これできっと連れて帰れる。お父さんがきっと民家の人に話してくれて、ムクを捕まえてくれるに違いない』
そう思った僕が馬鹿だった。
父親は、民家の屋根にいるムクを見て
「もうだめだ、帰ろう」と言って歩き出した。
僕は何も考えられなかった。
父親の言動にショックを受けすぎて、頭が真っ白になってしまった。
『子供の僕が、一人で民家を訪ねる勇気はないし、何て言えばいいのか分からない。だって、インコとか、カナリアとかじゃないんだもん。見た目、野生の鳥と同じなんだもん。それに……子供の僕が何かを言ったところで、大人は信じてくれないだろう』
何秒か、何分かわからない。ただ家に帰る父親の後を、無言で歩いた。
僕は思った。
『こんなのって、絶対におかしい』
僕は思いなおして走った。一目散に、民家に向かって。
『どうなってもいい、理解されなくても、怒られてもいい』
『とにかくムクを失いたくない』
『僕が育てたムク』
『僕の友達ムク』
『大親友のムク』
民家に着いた。
屋根にムクはいなかった。
『でもどこかにいるかもしれない』
垣根の外から家を覗いた。
そこで見たのは、小鳥を口にくわえた猫だった。
くわえられ、首が垂れて死んでいるのは、間違いなくムクだった。
信じたくなかった。
「あれ……鳥を捕まえたのか、まったく鳥なんかくわえて、この猫は」
民家から声が聞こえた。
僕は家に帰った。
日頃、感情を出さない僕だが
大泣きした。
僕が泣いている目の前で、父親は夕食を食べていた。
もくもくと、何事も無かったように。
一言も言葉を発しなかった。
そこには、母と、祖母と、姉がいた。
でも、だれもムクに触れなかった。
声もかけてくれなかった。
いったい皆、何を思い、感じていたのか?
それとも何も感じていなかったのか?
子供の心を大切にしてほしい @yomekawarimono
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