子供の心を大切にしてほしい

@yomekawarimono

小鳥のムク

近所の空き地に鳥の巣が落ちていた。


風で飛ばされたのか、カラスが持ってきたのだろう。


側には雛の死骸が数羽。


ピーピーピー

『あれ?一羽だけ生きているぞ!!』


僕は家に連れて帰った。


雛鳥は、3時間おきに擂り餌を食べさせなければならない。

子供の僕は頑張った。

夜も起きて、雛に擂り餌を与えた。


毎日、夜中に起きて、雛に擂り餌を食べさせる僕を見て、母が感心する程だった。

それだけ一生懸命育てた。


ムクドリの雛だと勝っ手に思い、僕はムクと名付けた。


結果ムクドリではなく、スズメくらいの大きさに育った。

鳥の種類は分からなかった。


僕は毎日ムクの世話をした。

毎日遊んだ。

籠から出して、肩にのせて家の中を歩いた。


かわいくて、かわいくて、僕の最高の友達だった。




ある日の事。


父親が「鳥を連れて散歩に行こう」と言った。


父親は勝ってにムクを肩にのせて外に歩き出した。


ムクは、ちょっとくらい外に出ても逃げないくらい慣れていた。

でも、『散歩にいくなんてありえない』


そう思って、心の中では猛反対していた。


常日頃、母親から「お父さんが言う事は絶対」という教えを受けていた。

だから何も言えなかった。


家の裏はJRの線路だ。

父親は線路の方に向かい、線路と平行に狭い車道を歩いた。


僕は心から祈った。

『どうか電車よ来ないで。どうかムクが飛んで行かないように』


もう生きたここちがしなかった。

父親の肩にいるムクをひたすら見つめていた。



パーーーーン

警笛のおとがした。


そう……電車が来たのだ。


ムクは……


電車の音に驚き、飛んで行った。


「アッツ」父親は一言だけ口にした。


僕はムクが飛んで行った方向をしっかり見た。


『電車が来たら飛んで行くに決まっているのに。分からないのか、大人なのに』

そう思った。


電車が通り過ぎた後、その方向に走った。


踏切を渡り、民家の屋根にいるムクを見つけた。


『いた!!』 


『これできっと連れて帰れる。お父さんがきっと民家の人に話してくれて、ムクを捕まえてくれるに違いない』


そう思った僕が馬鹿だった。


父親は、民家の屋根にいるムクを見て

「もうだめだ、帰ろう」と言って歩き出した。


僕は何も考えられなかった。

父親の言動にショックを受けすぎて、頭が真っ白になってしまった。


『子供の僕が、一人で民家を訪ねる勇気はないし、何て言えばいいのか分からない。だって、インコとか、カナリアとかじゃないんだもん。見た目、野生の鳥と同じなんだもん。それに……子供の僕が何かを言ったところで、大人は信じてくれないだろう』



何秒か、何分かわからない。ただ家に帰る父親の後を、無言で歩いた。


僕は思った。

『こんなのって、絶対におかしい』


僕は思いなおして走った。一目散に、民家に向かって。


『どうなってもいい、理解されなくても、怒られてもいい』


『とにかくムクを失いたくない』


『僕が育てたムク』

『僕の友達ムク』

『大親友のムク』


民家に着いた。


屋根にムクはいなかった。


『でもどこかにいるかもしれない』


垣根の外から家を覗いた。


そこで見たのは、小鳥を口にくわえた猫だった。


くわえられ、首が垂れて死んでいるのは、間違いなくムクだった。


信じたくなかった。


「あれ……鳥を捕まえたのか、まったく鳥なんかくわえて、この猫は」

民家から声が聞こえた。



僕は家に帰った。


日頃、感情を出さない僕だが

大泣きした。


僕が泣いている目の前で、父親は夕食を食べていた。

もくもくと、何事も無かったように。

一言も言葉を発しなかった。


そこには、母と、祖母と、姉がいた。


でも、だれもムクに触れなかった。

声もかけてくれなかった。


いったい皆、何を思い、感じていたのか?


それとも何も感じていなかったのか?


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