偽……そして本物へ

 鏡の中の自分は反射しただけの、自分に姿が似た【偽物】である。

 自分がそれを自分だと認識すれば、鏡の【偽物】が、自身の中で本物になってしまう。

 嘘をついている自分が周りから本物の自分だと思われる。でも、それは鏡の自分同様、【偽物】である。


 本物を知られれば、一度本物になれば、【偽物】にはなれない。


 俺が発したあの言葉。


『ゆづなのお前らを思う嘘くらい、見破れよ!』


 その言葉で、今までの木之瀬さんが【偽物】であったことが、クラスメイトに理解されたようだ。必死すぎて木之瀬さんを下の名前で呼んでいたことに今更気づき、恥ずかしくなる。


「今まで本当に、申し訳ありませんでした……! 嘘だったとはいえ、様々なご無礼を……」


 結果を言うと、木之瀬さんは鏡の世界から出ることが出来た。そして今、壮大な土下座をしている。

 クラスメイトは今までとはまるで違う彼女に、若干困惑しながらも、あたたかく迎えてくれた。

 

 人がピンチになった後から助ける。

 調子のいい奴らめ。


 俺はと言うと、ぼっちになった。学校一人気男子にまで昇りつめたのが嘘みたいだ。

 覚悟していたことだし、いいけど。


 と、思っていた。


「なに木之瀬さんばっかみてるんだよ~。やっぱ春季、あの子のこと好きなんだ?」


 山崎が、俺に話しかけてくる。意味が分からない。

 俺は何一つ飾らず本音を吐くことにした。


「うっせーな。黙れ」


「うぉ。怖え~!」


「山崎、ビビりすぎ。僕は今の高塩の方がすきだな」


「え? 桜岡まさかの男に告白!?」


「……青葉、馬鹿なの?」


 は?

 何だこれ。


「なになに? 何話してるの~?」


 相沢さんが、俺たちの所に割り込んできた。

 おかしい。どう考えてもおかしい。


「あのさ、俺、お前らの事嫌いって言ったんだけど、聞いてなかったわけ?」


「いやいや、だったらさー」


 山崎は、軽い口調で相沢さんと目配りする。


「ことりたちの嫌いなところ全部教えてよ!」


 はあ……?

 俺は怪訝しそうな顔をしながらも、悪い気はしなかった。こいつらが、

バカすぎて笑えてくる。

 全校生徒の前で暴言吐いた俺に、こんな性格の悪い俺に、なんで突っかかってくるんだろ。


「好きな女の子のために、本気で叫ぶ姿、かっこよかった。それがことりのためじゃなくてもね」


「一人になんてさせないからな!」


 いつもみたいに笑う皆の姿が、なんだか可笑しくて、俺もいつの間にか笑っていた。


 ああ、俺がやってきたことは、無駄ではなかったんだ。

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嘘という鏡の世界で、君は叫ぶ ぐみねこ @gumineko

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