声
「相沢小鳥さん、ありがとうございました。立候補者、高塩春季さんお願いします」
相沢さんの推薦発表が終わった。
俺に対する熱烈なPRをしてくれたところだが、俺はそれを……全部壊す気でいる。
発表を終えた相沢さんが、俺のいるステージ裏へ向かってくる。
「春季っ! ことり、上手くできたかな?」
「……」
「春季?」
相沢さんは、何も言ってこない俺に違和感を感じたのか、探るように俺の顔を覗き込む。
「なあ小鳥……いや、相沢さん。俺たち別れよう」
「え……」
「多分俺、相沢さんの望んでるような男じゃねーし……他に好きな人もできたから。というか、ずっとあの子のことが好きだった」
相沢さんは、言葉を失っている。さっきまで喋っていた他の生徒会立候補者と推薦者たちも、会話を途切れさせた。場の雰囲気が、一気に暗くなる。
告っておいて数日で振るなんて、最低男もいいところだ。
「じゃあな。相沢さん。今までの俺」
相沢さんと嘘の自分に、最後の別れの言葉を言うと、俺はステージに立った。
目の前には、俺が今まで嘘をついてきた、大勢の生徒がいる。
文化祭や体育祭の実行委員もやったし、そもそも学級委員をやっていたから、ステージで何かを話すことは何回かあった。
でも今から俺がすることは、今までの俺がしてきたことじゃない。
「俺は、生徒会の立候補を辞退する」
最初に俺が発した言葉に一番に反応したのは、やっぱり俺の所属するクラス……2年A組だった。
体育館中がざわざわとした声で溢れかえっている。
「俺は嘘をついてきた。その場の雰囲気に自分を合わせて、それでいて他人と仲良くなっている風にして。でもな」
俺は体育館が静かになるのを待つ。
これは、今まで積み上げてきた”学校一人気の男子生徒”という肩書き捨てる行為だ。
けど、それでいい。彼女を助けられるなら、どんなになっても。
そもそも俺は、ずっと一人だったんだ。だから、何を失っても、怖くない。
「俺は、誰も友達だと思った奴はいない。俺の心は、真っ黒で、壊れている。嫌いな奴はクラスに何人もいるし、彼女だってただ陽キャラだから付き合っただけ。今思うと、あんな性格の悪い連中とばかりつるんでいる自分がばかばかしいって、笑えて来たよ」
体育館が一層にざわついてきた。先生たちはステージのマイクを切り、俺の方へ迫ってくる。
けど、一番近いはずのステージ側からは、誰も来なかった。
そこには、先生を必死に抑える相沢さんの姿があった。
「春季っ! 言いたいことあるんでしょ! マイクなんてなくても大丈夫。今ならまだ間に合う!」
さっきの発言は訂正。相沢さんはただの陽キャラじゃなかったようだ。
俺は、出せる声を全部出し切って、2年A組にぶつける。
「大切なクラスメイトを! いないものにして、居場所をなくして! 何がクラスの雰囲気だ! 空気だ! そんなもん、全部壊れろ! ゆづなのお前らを思う嘘くらい、見破れよ! 表面ばっかで人と付き合ってるんじゃねえ!」
そうして俺は、駆け付けた先生たちに囲まれ、職員室でこっぴどく叱られる羽目になった。
なんだか、不良時代を思い出すなあ。
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