「武装して心霊スポット」

低迷アクション

「武装して心霊スポット」

よくホラーで、廃墟とか心霊スポットに行く話があります。このジャンルって、

小説でも映像でも、海外でも!!定番のネタですよね?閉鎖された病院、炭鉱後、

廃ホテル、アミューズメントパーク、ETC、ETC。面白半分?もしくは、大きな目的

ありき(お宝とか?)で向かった御一行が幽霊、怪物に遭遇!ひどい目に遭うって

奴です。そこで常々疑問に思うのは、行く人が何も「武器」を持っていかない事です。

銃大国のアメリカですら「懐中電灯一本」なんて事もありますよっ!?可笑しいと

思いません?これを、人に話すと


「幽霊には効かないからね。」


なんて、したり顔で言いますが、危険があるかもしれない場所に身一つで向かうってのは

どうでしょう?もしかしたら、自身の命、今後を決める最悪?最狂の出会いがあるかもしれないじゃないですか?(まぁ、前文で上げた面白半分の連中に、これは当てはまらないかもしれないですが…)そんな所に手ブラってどうよ?と思います。読んでる貴方様も

同じ思いを持って頂ければ幸いです!せめて、


「極東の島国特有!御用達グッズ!魔除けの塩!!」


とか!


「だいたいの奴は、これで殴れば黙るぜ!一撃必殺の(時々、数撃)バットでも!!」


と思います。非日常の行いをする訳ですから、これくらいの物持っていっても、損はないと思います。とこんな具合にですね!のたまってたら、実行した奴がいました。

それも塩とかバットじゃなくて

「サバゲーの恰好」でね!!…


 友人のTの話です。彼は根っからのオタクで、自分で萌え系同人誌描いて、

即売会(夏コミ!冬コミ!)参加したり、ご当地のお祭りにコスプレで乱入したり、

サバゲーやったりと、何だかいつも楽しそうな野郎です。ホラーも、ろんもち大好きで、ネットの恐怖映像を観ている時に、よく


「銃があれば問題ねぇぜ。」


なんて、うそぶく馬鹿っぷりです。まもなく、奴さんはそれを実行しました。最初は

神奈川の山奥、次は八王子の廃墟、長野の病院跡…メンバーは4人、それが映画とかに

出てくる特殊部隊の恰好で(アメリカのシューティングゲームに出てくる兵隊さんを

イメージして下さい。)デカい玩具のライフル持って、夜中の廃墟を歩き回るっていうんです。ちょっと凄い光景ですよね?人が見たら、実際何度か見られたらしいですが、

通報もんの光景だと確信を持って言えます。ところで、ここまで話をすると…


「そもそも幽霊に銃が効くのか?(まぁ、玩具ですしね。)」


と読んでる方々は当然の疑問を持つと思います。私も同じ事を言いました。そしたら

Tの野郎は、いつも自信満々のドヤ顔でこう言い返します。


「効くとか、効いたかじゃなく、どうせ、呪いとかでとり殺されるっていうなら、

一矢報いてぇだろ?」


そんな無謀&何かの犯罪に誤解されがちな、彼等の心霊スポット巡りですが、大抵は何も起こらず、適当に撃ちまくって終わりっていう事が多いみたいです。T自身は


「こっちの恰好が物騒だから、幽霊さんもビビったかな?」


なんて笑ってましたが、それでも

よくよく聞いてみりゃ、変な事はあったみたいでしてね…


 12月の寒い夜でした。いくつかのスポットを車で回ったT達は、最後に山奥の

病院跡へ行ったそうです。問題の場所は山道の脇にヒッソリと佇んでいました。周りは

立て直しの予定があるのか、工事用の建材とフェンスで覆われていて、唯一の入口は

長い鎖と鍵で厳重に塞がれています。道路に設置されたオレンジ色の光を放つ街燈が

病院を、彼等的に言えば“イイ感じ”に照らしています。T達は車を離れた所に止めて、装備品を身に着け、その“彼等にとっておあつらえ向きの場所”へと向かっていったそうです。鎖の間をくぐると(車では無理ですが、人なら容易に抜けれるものでした。)

建物入口には“監視カメラ設置”の看板がありましたが、大抵はダミーという事も、

これまでの経験でわかっていました。ここで、蛇足な補足説明なんですが、


彼等が持って行った銃を紹介します。

まず、リーダー格のTともう一人がアサルトライフル型の電動ガン

(電気の力を用いBB弾を連続&高速で撃ち出すものです。)を持ち、

残り2人がエアーショットガンと電動ハンドガン(空気圧で弾を発射するものです。

ショット(散弾)の名称通り、3発の弾を一度に発射ができます。結構重宝します。

電動ハンドガンは電動ガンとほぼ同じ性能のものですが、小型という利点があります。)

を用意していました。因みにTの電動ガンは映画「ランボー」でも有名な“AK-47”

というものでした。これだけのゴツイ装備で武装した彼等は、落書きだらけの施設内を、

銃と頭に付けたライトで照らしながら、二手に分かれて進んだそうです。


3階建ての階層をそれぞれ廻りましたが、期待したような事はなく、屋上前で合流して(屋上は入口が廃材と瓦礫で埋まり、猫くらいしか入れそうにない、すき間が覗くだけで、行けなかったそうです。)後は下に戻るだけでした…


 「なぁ、ちょっと止まってくんねぇか?…」


2階まで下りて、しばらく廊下を進んだ時、一番後ろの一人“ショットガン持ち”が

呟きました。全員が歩くのをやめ、彼の方に振り返ります。


「何か聞こえないか?…」


ライトを照らされた友人がショットガンを構えて、喋ります。映画とかならカッコいい

場面ですし


「ようやくの見せ場!たるい前半パートは、おさらば。盛り上がり!~」


ですが、正直!現実ではあまり嬉しい事態ではありません。全員が、耳を澄まします。

歩いてくる時は、こちらの装備品や会話、慌ただしい靴音で気づきませんでしたが、

確かに、さっき自分達が下ってきた、3階の階段を何かが下りてくる音がします。その

何かはわからないモノは、全体を擦りながら、一段、また一段と階段を下りてきます。

時折、乾いた金属音を交えながらずり落ちてくる…そんな音でした。誰彼が示し合わせた訳でなく、階段の降り口にライトが集中します。下りてくる場所は廊下の角に当たる訳ですから、素早く正体を確かめるには、その角まで行く必要がありますが、誰も

動きません。音が大きくなるにつれ、それがもう少しで姿を現すのがわかるからです。

全員がまるでお守りのように銃を構えていました…


 それは何の前触れなく、ライトで照らされた地面にベタッと張り付きました。

大きな黒が、勿論、床の模様などではなく、真っ黒で、かつ肉感のある人の腕が、

床に張り付いています。その手には赤黒く錆びたメスが握られていて、奇妙な金属音の

正体を物語っていました。


「何だ…あれ?」


一番後ろ、つまりは黒い腕に最も近い“ショットガン持ち”が呟きます。ようやく絞り出したといった声は震えていました。誰かが、何かを答えようとする前に、今度はもっと別の大きな音が3階から響きました。


(ドタン、バタン、ガシャッ、ガシャンッ!ガシャガシャーン!!)


まるで重い物や邪魔になる物を、片っ端から放り投げているような感じです。


「ウ、ウウウウーッ」


そのうち、もどかしさを抑え切れないといった感じの、イラついた唸り声まで

響いてきました。


「屋上だ…廃材と瓦礫をどかしてんだよ…」

「どかすって一体誰がだよ?」


“アサルトライフル持ち”に“ハンドガン持ち”が上ずった声で叫び返します。見れば

屋上の音に合わせて、手が小刻みに振動しています。その動きに全員が押し黙り、

魅せられたように動けません。やがて、屋上の音が静かになっていき…代わりに大きなものが狭い間を無理やり抜けるような、布が擦れるような音が響きわたり、そして…


(ダンッ!!)


屋上にいた“何かが”階段に移動した事を知らせる音が大きく響きました。

全員が息を吞んだ瞬間、Tが発砲しました。AK-47に装填された白いBB弾が勢いよく、床に伸びた黒い手に向かって発射されます。


「何してんだ!!走れ!」


Tの怒鳴り声に全員が我に返り、踵を返して走り始めました。後に聞くと、彼等は黒い手にBB弾が当たったのか?確認したかったそうです。ですが、その暇はありませんでした。何故なら、AKの乾いた発砲音と共に、物凄い勢いで階段を駆け下りる


(ダン!ダン!ダン!ダン!)


という音が響いてきたからです。撃ちまくっていたTもすぐに後ろに続きました。急かすように皆を動かし、1階に続く階段に辿り着きました。全員が一度も転ばなかったのは

奇跡としか言いようがありません。何しろ、彼等の後ろには先程とは違った音が!


(ペタ!ペタ!ペタ!ペター!!)


床を裸で走る音がすぐそこまで迫っていたのです。1階に転がるように落ちたメンバーは

そのまま立ち上がり、車まで一息もつかずに走ったのは言うまでもありません。

“黒い腕”と屋上の“何か”は、外まで追ってはきませんでした。ですが、最後にTは

振り返り、それを見ました。病院の入口で、ボロボロの白衣を纏った黒い人影がまるで


「戻ってこ~い」


と言った風に両腕を振り回している光景を…その手には錆びたメスがしっかり握られて

おり、オレンジの明かりの中で不気味に光っていたそうです…


こんな体験をしたTですが、今だに心霊スポットに行っています。

(メンバーはだいぶ減り、随時募集中だそうです。)理由を聞くと彼は笑い、

こう答えます。


「銃は効いたぜ?」     



(終)




 

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