Lv.9 そして伝説へ

『いと~しき~』


『おもい~をむねにひめ~』


『ラララ~』


『その歌を口ずさむの止めてください!! せっかく脳内ループが止んだばかりなのにぃ、ああぁぁ……』


 2時間みっちりとノンストップで聞かされたデュエット曲が頭から離れなくなってしまった私達は、通りすがりの炎王フォトナも巻き添えにしつつ、今日もいつも通りに勇者の動向を監視していた。


『人魚の国を抜けると、灼熱の大地か……。確かそこがお主の初陣だったな』


 私の問いかけに、涙目のまま炎王フォトナはコクリと頷く。


『初戦は、私の灼熱の炎で奴らの骨まで全てを焼き尽くし勝利に終わりました。ですが、女神の奇跡とやらで復活した連中は、女神の加護の下に再び私の前に現れ……二戦目は敗れております』


 悔しそうに俯く姿が何とも悲しげだ。

 歴代の魔王達の書記にも残っているのだが、炎王フォトナの言う通り、勇者達はアンデッド属性でも付いているのか、何度倒しても蘇ってくるのである。

 いや、骨まで焼き尽くしたのに復活するのだからアンデッドのそれを遙かに超えているし、反則過ぎるとしか言い様がないのだが。


『その奇跡をデスルーラに使われるなんて、女神も仰天でしょうねぇ。でも、呪いと奇跡の違いって何なんですかね? 奇跡が誰かを救うものであるならば、私のようにそれを望まぬ者が何度も死の苦しみを味わう奇跡って、それは奇跡と言って良いのでしょうか……』


『お、おぉぅ……』


 遠い目をしながらライラ姫が何やら哲学的な事を言い始めてしまったが、それを見て炎王フォトナは『真面目ちゃんは大変だねぇ』と言いながら苦笑すると、くるりときびすを返した。


『さて、せめて最初の勝ち戦くらいは楽しませてもらいますかね』



◇◇



<現在地:灼熱の大地>


『一向に勇者が現れませーーん!!』

 

 炎王フォトナがカメラ目線で叫ぶ映像を見て、大臣がウ~ム……と難しい顔で首を傾げた。

 そしてもう一枚の水の器には、相変わらず挙動不審な勇者の姿が映っている。


『勇者が炎精フレイムウィスプを引き連れ、僧侶が空間転移門を不規則に複数配置し、魔女が火炎地雷フレアマインを不規則に並べておる。一体、この行動に何の意味が……』


 私が例に漏れず状況について呟くと、大臣が青ざめた顔で突然立ち上がった。

 はい、いつものヤツが来まーす。

 ……と、軽い気持ちで構えていたのだが、大臣の慌てようが尋常ではない。

 この顔は見覚えがある。

 それはまるで、父上が亡くなった時と同じ……。


『お、おい! 何が起こっている!!』


 私が声を震わせながら問いかけると、大臣は私の目を見てからぐっと歯を食いしばり、魔王城内全域に向けて緊急放送回線を展開した。


『全員、直ちに魔王城から脱出せよ! 地下ダンジョンに居る者も全てだ!! 死にたくなければ急げ!!!』


『なっ!!?』


 普段冷静な大臣が叫ぶ様子から非常事態である事を察した家来達は、大急ぎで身支度を始めた。


『理由は後で説明しますので、持ち出す貴重品は最小限に! あと、魔王様の書斎(無断で絶対開けるなルーム)に隠してあるメルヒェンな感じのポエム帳も急いで回収してくださいませ!!』


『何故それを知っている貴様アアアアァーーー!!!』


 ――その数分後、皆が中庭に避難し終わるとほぼ同時に魔王城は崩壊した。



◇◇



『なにこれ』


 着の身着のままでハードカバーのポエム帳一冊だけを大事に抱えた私は、変わり果てた我がを呆然と眺めながら呟いた。


『任意コード実行によるエンディング呼び出し……ですな』


『たぶん詳細を聞いても意味わかんないけど、説明よろしく』


 その後、大臣の口から出た言葉はこれまで以上に理解不能なシロモノだった。

 要約すると、灼熱の大地で勇者達のとった行動の全てに意味があり、炎精フレイムウィスプを特定タイミングで倒しつつ、空間転移門、火炎地雷フレアマインの2つを一定の法則に従って並べると『この世のことわり』に干渉する事が出来るらしい。

 何者もその影響から逃れる事は適わず、その効力は神に匹敵する程の力を持つとのこと。


『この世の理に干渉して魔王城を崩すとは、なんてデタラメなヤツだ……』


 憤慨する私を見て、大臣が悲しそうに首を横に振る。


『奴らが干渉した対象ターゲットは城ではございませぬ……』


『???』


 大臣が庭園の池に映像を投影すると、勇者パーティが凱旋がいせんパレードで人々の歓声を浴びている姿が映っていた。

 これは一体……?


『書き換えられたのは、世界が光を取り戻したという事実……。つまり、この世界の全てが"魔王様が勇者に倒された"と、誤認しているのです!』


『なぬーーーーーーっ!!!?』


 そして、決して日の昇らぬ常闇とこやみの地と呼ばれる魔王城周辺が、眩しく太陽に照らされた。

 ――今この瞬間、魔王は勇者に敗れた事が確定したのである……一度も戦った事すら無いというのに。


『あ……ああ……』

 

『まさかこのような結末になろうとは……。私共が力足らずなせいで……うぅぅ、申し訳ございませぬ……。亡き先代にどうやって顔向けすれば……』


 大臣は力無く膝から崩れ落ちてしまった。

 だが、ライラは優しく微笑みながらその肩をポンと叩く。


『大丈夫ですよ大臣殿。だってほら、魔王様はここに御健在なのですから、また皆で協力して頑張れば良いんです。光あるところに必ず闇はあり、人々の心から憎しみが消えぬ限り、必ず世界は再び闇に包まれるのです……』


『爽やかな笑顔なのに、言ってる事すげードス黒いなー……』


 呆れ顔で溜め息を吐く私の隣にフォトナがやってきた。


『まあ、姫様は魔王を継いでからずっと働きっぱなしだったんですから。せっかくだし、息抜きも兼ねて旅行でもどうです?』


『姫様と呼ぶな馬鹿者っ! ……って、こんな立場で威張っても仕方ないか。旅か……気分転換にそれも悪くないかもなぁ』


 すると、話を聞いていたライラ姫が『ハイハーイ!』と両手を挙げながら、私とフォトナに抱きついてきた。


『だったら、女三人旅ってのも良いと思いませんか~? 旅行も兼ねて、いっちょエルフ王国を制圧しちゃいましょうっ☆』


『お、いいねぇ~。森のエルフ共に炎王の力、見せつけてくれるわっ!!』


『うぅぅ、ホントにこいつらと旅して大丈夫かなぁ……』


 というわけで、勇者の冒険が幕を閉じた裏側で、魔王が友二人を引き連れ、まだ見ぬ世界へ冒険に出発するのであった……。



 ――そして、新たな伝説が始まった!



< 本日の魔王城修繕報告書 >



1.瓦礫の撤去を行い、仮の建屋を構築。


2.崩落した地下ダンジョンの復旧工事を開始。


(追伸)

 家臣一同、魔王様のお帰りをお待ちしております。

 それでは、よい旅を……。



Movie end.

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勇者TASのせいで魔王様(幼女)は気が休まりません はむ @Imaha486

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