6 勇者殺害作戦第二段階?
賑やかな街から出て少し歩いた所にある、そよ風が心地よい静かな森の中に、ルキとミカエラはいた。
ルキは魔物の出現を待ちながら、ミカエラを殺す隙を窺っている。命を狙われているなんて思いもしない本人は、初めての冒険に心踊らせていた。
「魔物と遭遇するかもしれないってことは分かっているんだけど、冒険が楽しみすぎて全然緊張感が持てないの!これっていけないことかな?」
「いけなくはない……が、命を落とす可能性もある。少しは緊張感あった方がいいな」
「そっか、そうよね!気を付ける!」
「まぁ、旅においてそれくらいの元気があるのは良いことだ」
(はぁ……何で俺がこいつにこんな励ますような言葉を掛けなきゃならないんだ……)
単純思考純粋無垢という言葉がこの娘にはよく合う。そんなことを考えていると、森の中でも少し開けた広場のような場所に出た。
「わぁ!ここ広いね!お日様の光が気持ちいいな~!」
こんなやつが勇者で大丈夫なのだろうかと、敵ながら呆気にとられてしまう。
その時だった。茂みから、3体のスライムモンスターが現れた。当然この魔物達はルキの部下である。これで、勇者殺害作戦第二段階の舞台は出来上がった。
「おい!魔物だ!」
「へ? ……ぁわっ!?ま、魔物……!」
ミカエラは鞘から鉄で出来た剣を抜き出し、ルキを庇うようにそれを構える。魔物との遭遇にさすがに緊張感を得たのか、先ほどのような気の抜けた表情はもうなく、じっと魔物を見つめて動きを窺っている。
ミカエラは目の前の敵に集中していて、背中をルキに預けている。完全に油断している今がチャンス、すぐに殺してやろうと、そうルキが思った瞬間のことである。背後からの気配を察知して振り向くと、いつの間にか新たに現れた一匹のスライムモンスターがルキ目掛けて飛びかかってきた。思わぬ事態に混乱したルキは、一体何を思ったのかミカエラの背を押して共にその攻撃を逃れた。
「きゃっ……!う、後ろにも!?助けてくれてありがとうルキ!」
「え?あ、ああ……」
(あれ……?おかしいぞ、俺はなんでこいつを助けてしまった?そもそもなぜあのスライムは俺に攻撃をしてきた……?)
「ルキは隠れてて!」
そう言ったミカエラの右頬は、ミカエラの村を滅ぼしたあの日と同じように、勇者の紋章がうっすらと光っていた。
何が起こっているのか、状況の整理が出来ていないルキはしぶしぶミカエラの言う通りに、その場から離れて身を隠した。
勇者の紋章を光らせ、4体のスライムモンスターに向かって剣を振るう少女を、ルキはただ見つめることしか出来なかった。
魔王子様の初恋は勇者 歩小 律音(ポコ リット) @poco_rit
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