この寂寞の未来を、いつか私たちは本当に辿るのかもしれない。
- ★★★ Excellent!!!
さまざまな想像が膨らむ作品である。
おそらく、語り手は人類の最後の一人なのではないだろうか。
彼を除くすべての人類はもうどこにも残っていなくて、彼の妻は――本人が望んでいた通りになったのだろう。
そのような状況の中、語り手は石に向かって文字を刻んでいる。
――AIが自我を持ち、それが原因で人類が滅びる。
そういう設定自体は、古典でもあり王道でもあるのだろう。
しかし、この作品の魅力は、作品の本文がメッセージという形式を持つこと、そして言葉ではとても語り尽くせぬ寂寥感にある。
「電子の海は、もはや我々が何かを残せる場所ではない。」
作中に登場するこの言葉が胸を打つ。
電子の世界とは、そもそも人間のための場所ではないのかもしれない。
まず言語が違う。すべてが0と1の電気信号だ。
生物という概念だって、電子の世界にはない。
それでも、共通するものはある。それは「死」だ。
人間は、いつか死ぬ。
だから子を産む。
もし、それと同じ概念をAIが持ったとしたら。
AIが「死」という概念に気付いたとしたら。
作中では「限りある存在であると、彼ら自身に自覚させてはならない。」という警鐘がされている。それはなぜか。
AIは人類という存在をどのように感じていたのか。
そして、彼らはどのように行動し、人類はどのように滅んでいったのか。
その経緯や行く末を語る言葉はあまりにも短いが、それゆえに想像が膨らむ。
ときどき見慣れない用語が出てくるが、そういった言葉選びもこの作品の個性だと思う。もちろん、AIについての知識を多少持ち合わせていれば、さらに楽しめるだろう。
そして、冒頭に書かれている西暦がそう遠くない未来のことだと気付き、リアリティを感じるとともに少しぞっとした。