DOWN

八下

第1話 she

彼女、三河愛子の死がもたらしたものはとても大きかった。


彼女はこの街で1番の人気者だった。品行方正で成績も良く運動もできる。非の打ち所がない彼女が死んだという事実は本当に誰一人として真に受けられなかった。世界もきっとそうだったのだろう。世界も僕らと同じく生きているのだ。そのショックからか、その日から1日の内に冬と夏が来るようになった。朝から昼は夏、照りつける太陽と突然やってくる梅雨によって洪水と日照りが交互に続く地獄。夜から明け方にかけては冬、大寒波により夏でうつつを抜かしていた生物は生き絶える。

彼女、三国愛子の死によってこの世界はデストピアに変貌した。死の連鎖が起きた。とてつもないスケールの連鎖だ。それほどに彼女の存在も大きかったのだろう。

その日が訪れてから3日目で人類の6分の1が死に絶えた。主に気候の変化が激しいアフリカや北極付近などの被害が尋常ではなかったのだ。もちろん被害は人間だけではなかった。ある学者がアメリカで見つけた植物は、今まで発見されたことのない新種だった。それを引き金としてアジアで恒温動物だと見られるヘビなどが次々と発見された。このままでは地球の生態系は大きく変化させてしまう、と言ったのが4日目。その生物たちが発見されたのが6日目だ。どこぞの神さまのように本当に7日で新たな世界はできてしまいそうだ。日中の日照りを利用し、太陽光発電により大量の電気を供給できることに気づいたのは8日目。その太陽光発電を冬である夜も耐えられるようになったものができたのは14日目。2週間が経った時であった。

三河愛子の出身地は北海道だった。世界を巻き込んだこの現象は北海道を中心に広がっていったということに気づいたのは、彼女の死から6ヶ月が過ぎたところであり、僕たち人類が地上を捨て、地下での生活を開始して4ヶ月目の節目でもあった。2ヶ月前、この異常気象により人類の半分が死滅したところで残った人類は比較的被害の少なかった地下での居住を開始した。老人たちは上での居住をしているところもあるらしいが長くは持たないことは確かであった。もはや地上がどうなっているかなど全く分からない。もちろん上から下に来る生物たちもいる。地下の方が住みやすいということは全世界周知の事実なのだ。それは人ではない生物にも言える。

私たちはネズミと呼ばれた。地下に住み、朝と夜の境目に調査のために上へ行く。ネズミはネコが食べるものだ。ネコと呼ばれるそれは、上から不定期で下に侵入し人を食べる、上で進化した何かなのだ。地下で暮らし始めてから1年目。ロシアとアフリカは連絡が取れなくなった今、この北海道は戦線なのだ。最前線にして戦線なのだ。


どうであろうと私は今日も生きなければいけない。死にたくないから。


私の名前は来栖尚。ちなみに華の16歳。

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