終章
エピローグ 「新たな世界は、眩しく、優しい」
「おはようございます、幸樹さん」
祖父の家の前に止めてあった自転車の側で待っていると、やがて椎菜がやってきた。
「おはよう、椎菜」
朝のさっぱりとした空気は、雲一つない青空と相まってすがすがしい気分にさせる。
今日は以前の約束通り一緒に登校する予定だ。
「まだ時間がありますし、しばらく歩きましょうか」
俺は自転車のスタンドを戻し、自転車を引きながら歩き始める。右隣を椎菜が楽しそうに歩く。
こんな姿を見ていると、昨日とてつもない修羅場を潜り抜けたとは到底思えないな。
「なあ椎菜」
「はい?」
俺は手汗で滑るハンドルをきっちりと握りなおしながら、椎菜に問う。
「このあいだの……その……お前の告白なんだけどさ……」
椎菜としては恥ずかしい話題なのか、急に顔を赤らめる。
「……はい」
「その……俺の返事って予想出来ちゃってたりする……?」
「……ええ、まあそうですね。ただ……できればちゃんと幸樹さんの言葉として聴きたいです……女の子としては」
椎菜は足を止め、期待に満ちた瞳でこちらの顔を覗き込む。
「平凡」や「無個性」という言葉がその人の本当の能力を覆い隠している、なんてことは良くある話だ。
例えば、君の隣を歩く女の子は実は人間じゃないかもしれない。例えば、その女の子は世界を変えるほどの特殊能力を持っているかもしれない。例えば、その特殊能力で君の命は救われるかもしれない。
でもまあ、そんな子供の想像のような劇的な変化は、自分自身がそれを本気で望み、大変な努力の末にやってくるものだから、俺たちはいつの間にか夢を描くことをやめてしまう。
だけど、俺は彼女にふれて思ったのだ。
――俺も誰かの、彼女の一番になりたい。
だから、精一杯の願いを込めて――。
「椎菜」
「……はい」
「俺も、俺もお前のことが……お前のことが大好きだ!」
「……はい!」
二人の影は少しずつ距離を縮め、やがてくっつきあう。
昇った朝日が新たな世界を、照らした。
俺ときの娘の遺産相続 おぎおぎそ @ogi-ogiso
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