菌曜日

コオロギ

菌曜日

 部屋の中では日の光を反射した胞子たちがきらきらと飛び回っている。敷いた覚えのない絨毯だと思ってよくよく見ればそれは床一面にびっしりと生えた黴で、お茶でも飲もうと開けた冷蔵庫からはカラフルなキノコが溢れ出してきた。

「お前のせいだからな」

「ごめんて」

 原因はすぐに判明した。

 あいつの誤変換のおかげで、このままでは生活がままならない。

 一刻も早い修正が必要だった。

「ちょっと待ってねー」

 携帯端末から聞こえるのほほんとした声にいらいらしながらも、じっと、ひたすら作業が完了するのを待つ。

「終わったよー」

「本当だろうな」

「本当だって」

 確かめるために一旦電話を切り、黴臭い預金通帳を片手にATMコーナーに向かう。

 通帳記入を済ませると、新たな一行が追加されていた。

「もしもし、どうだった?」

「入金されてた」

「ほらねー言った通りだったでしょー」

「二度とするなよ」

「ごめんて」

 通帳を見つめながら、ため息とともにほくそ笑む。

 正しい金曜日が戻ってきたのだ。

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菌曜日 コオロギ @softinsect

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