リストランテ・ファンタージア

ジーンイケダ

第1話

プロローグ

僕は料理人。名前はチャボ。リストランテ・ファンタージアのキッチンで働いている。

魔法界料理学校を卒業した後、シェフ・ユウチャンの元で修業をして、10年前にその座を譲られ、今ではシェフを務めている。

この店のお客様は皆、淑女と紳士。レストランに相応しいお客様ばかり。だけど一風変わった方も時折お見えになるのです。

その理由は・・・

リストランテ・ファンタージアのエントランスの傍に、他の世界に通じる出入り口が有るからです。僕はシェフになって初めてその入口の存在を知りましたが、僕たち「魔法界」以外の「人間界」や「魔界」「天上界」「獣界」の人々が、その秘密の通路を通って、お見えになっていたのです・・・。

そんなちょっと風変わりなレストランで繰り拡げられた、数々のエピソードを、これから僕が物語りましょう・・・。


第1夜・夢虫

ある日の朝、お客様が(夢虫)を持って来られて、

「今夜これを食したい」と、ご予約されました。ファンタージアのお客様は、こんな風に素材を持ち込む方も少なくありません。料理人である僕でも、初めて見るような素材を持ち込まれる事もよくあります。

本日の(夢虫)も、とても珍しい食材です。これは人間の夢を食べて成長する昆虫で、ミドリオオアゲハの幼虫の事です。これを食するのは魔界の鬼族しかいません。お客様を差別する訳では無いのですが、鬼族は《柿酒》に酔うと手に負えなくなるので、少し厄介なお客様です。

僕がシェフになって間もない頃、鬼族の宴会がありました。大樽の《柿酒》を3つも持ち込み、20匹の鬼たちの大饗宴でした。食事の量も桁外れで、遂に材料が空っぽになってしまっても、

「もっとっ、出っせ~っ」と無理を言います。

「申し訳ございませんが、本日はもう材料が在りませんので、これ以上料理は作れません」とお断りすると、

「何だっ、と~っ」と怒りだし、地団駄を始めるのです。それはもう、凄まじい様でした。大地震さながらにお店は飛び上り、100個の稲妻が落ちた様な爆音が鳴り響き、床にはボコボコと大穴が開いてしまいました。

「ひぇ~!どうすれば良いだろう」と、僕はトイレに逃げ籠り考えました。しかし良い考えなど浮かぶはずはありません。成り行きにまかそう、と諦めた時、時計台の22時の時報が鳴り渡り、ファンタージアの隣に住む『ツムーギ』の飼い犬『ユキチャン』が、いつもの様に遠吠えを始めました。(ワォ~ン、ウォ~ン)

するとどうでしょう、その声を聞いた鬼たちは、

「ああっ、いったっい~っ」と叫びながら、1匹残らず夜の闇に消えてしまったのです。

理由は今でも解りませんが、次の日『ユキチャン』に、ご褒美の牛の骨をたっぷりとあげました。

その時の床を修繕する為に、大金と2週間もかかった大損害を思い出して、

「今夜は鬼族がお客様か・・・」と心配で少し憂鬱になりましたが、代金は金の延べ棒で、当日先払いで支払って下さるお客様ですから(鬼族はツケがお嫌いなようです)ご注文にお応えする為に、仕込みを始めました。


さて(夢虫)はとてもデリケートな食材です。と言いましても僕も料理するのは今日が初めて。魔法界料理献立大辞典(以後、魔典と略させていただきます)を読んで勉強しただけです。以下は魔典より抜粋しました。

【夢虫】

ミドリオオアゲハの幼虫。

人間族が使う枕に寄生し、眠った人間の前頭葉に吸い付き脳波を吸収する。おおむね10人くらいの脳波を吸収すると蛹になり、1ヶ月で羽化する。成虫は大きな緑の羽に黒い斑点が有る。

普通の蝶とは異なり、大きく2回の羽ばたきの後、グライダーの様に直線的に滑空する。

夢虫がうまく育ち成虫になると、脳波を吸収した人間の夢を叶えると言われ、人間族にとって縁起の良い昆虫なので、食する族は全界にはほとんど見当たらないが、魔界の鬼族は好んで食する。

[料理・調理法]

1⃣下処理:

胴体の節毎に生えている毛を抜く。頭部の前向きに生えている角のような太めの毛の先には神経性の毒があるので注意する。

卵と同じ様な組成で、やわらかい表皮の内側はタンパク質の体液(重量の85%)で満たされている為、表面を固め内部も凝固させる。中心温度72℃、表層温度82℃くらいで、30分程加熱するのが好ましい。加熱し過ぎると身がパサつくので注意が必要。

下処理後は冷蔵庫で4,5日は保存可能。揚げ物、炒め物などに適する。

2⃣レシピ例: 

《夢虫と有機野菜のソテー ブラックスィート風味》

①長玉ネギ・ぺポー人参・セローリ・明日草・豆芋などを下処理して、食べやすい大きさに切り分ける。

②鍋にツバーキオイルを入れニンニクの香りを移す様に弱火で炒める。

③ニンニクを取り出し、夢虫と野菜を入れ、一気に炒める。ブラックスィート酢を加え、水溶きのライススターチでとろみを付ける。

《夢虫のフリット 長玉ネギとキノコのデュクセル添え》

①長玉ネギの薄切りと、森茸・家茸・怒り茸などを良く炒め、香ばしく香り付け。冷ましてザン切りマシーンで細かく刻み、デュクセルを作る。

②ライススターチ・イリ―コパウダー・鶏卵をかき混ぜた生地に、夢虫をくぐらせ180℃のスマートオイルで揚げる。

③デュクセルを皿に盛り、夢虫のフリットをのせる。


なるほど、美味しそうなレシピが紹介されています。

でも今夜は、パスタにチャレンジしようと思っています。夢虫を卵に見立て、《ブカッティー二の濃厚カルボナーラ》に仕立てるつもりです。作り方は、

鍋に入れたオリーブオイルに、ニンニクを加え火にかけます。

ニンニクの香ばしい臭いがオリーブオイルに移ったら取り出して、パンチェッタを刻んで加え、良く炒めます。レイクコブーを水で一晩抽出したコブ―ウォーターを加え、塩と黒コショウで味を調えます。

別の鍋にお湯を沸かし、塩を入れてブカッティー二という長いマカロニ状のパスタを茹でます。


ここで使うトラック飼育されたもち豚の味と食感は僕のこだわりです。これは一日に何度も400mトラックを10周ほど走らせて育てるので、筋肉が発達して肉の締りが良く、他の豚と違うしっかりした食感と旨味が出る特別な素材です。このもち豚のバラ肉を、3週間塩漬けにして仕込んだものがパンチェッタというお気に入りの食材になります。

またオリーブオイルは、オリーブの実を丁寧に搾ったジュースです。このオリーブは温暖な地域の植物で、寒い魔法界では育たないので、時々人間界に出かけて行き、他の手に入りにくい材料と一緒に買って来ます。


パスタを茹でている間に、ニンニクのオイルとパンチェッタ、レイクコブ―の出し汁が入った鍋に、人間界で買って来たパルミジャーノ・レッジャーノチーズと、さっとお湯にくぐらせた半生の夢虫を潰し良く和えておきソースを作ります。

パスタが茹で上がったらソースと加え、良い加減に火を入れながらパスタに絡めて皿に盛り付けます。パルミジャーノ・レッジャーノをたっぷりとかけ、黒コショウで仕上げます。


その他にも前菜を2皿

《モローコとアスパラガスのかき揚げ》

《初夏野菜のヘシーコクリームソス和え》

 メイン料理の

《ダチョーのロール焼き》などを用意しました。


18時の時計台の時報が鳴り、いよいよディナータイムの開店です。

鬼族は身体が凄く大きくて、身長は2m以上、体重も200kgを超える巨体ですが、ファンタージアの表扉は高さ2.5mの大きく重厚な木の扉。鬼族も身を屈めずに入れます。

客席の天井は5mなので、お客様には、ゆったりと広々した印象があるようです。客席数は48席で、仕切りの出来る特別な部屋もあります。店には視線の高さには窓がありませんが、天井の4辺は全部天窓になっていて、お昼は自然光が入り、とても明るい店です。夜は明かりを落とし食卓にキャンドルを立てお迎えしています。

食卓と椅子は先代シェフのユウチャンこだわりの逸品で、

「同席の方との親密度を感じる距離、それでいてコース料理もゆったりと食べる事の出来る広さ」が絶妙です。家具職人を呼び特別に作ってもらったという話には納得です。

椅子は硬過ぎず柔らか過ぎず、お客様の食事をされる姿が、この上もなくエレガントに見え、なおかつ長く座っても疲れない背もたれの角度などがこだわりです。脚も頑丈な作りなので、鬼族の大柄なお客様が座っても、壊れる心配はありません。


ユウチャンに教わった中で一番心に残っている事は、僕が修行1年目くらいの時、

「チャボ、よく聞くのだよ。料理の事ばかり考えていたのでは良い料理人にはなれない。食卓や椅子、グラスや食器類、店の雰囲気、空気、匂い。お客様が見て・触れて・感じる物は全て、自分でも直接見て触れて感じる経験が大切な事だよ。毎日食卓に座り、お客様の視線で店を体感出来る様にならないと、良いシェフとは言えないのだよ」

という言葉でした。

僕は驚きと感動で返事も出来ず、

「凄い、シェフって凄いんや、そんな事まで考えていたんや。毎日毎日、料理の事を考え、新しい食材の勉強をして、営業中は、見た事の無い様な新しい料理を次々に創り出していく。それだけが仕事じゃなかったんや。何年修行すればそんな凄いシェフになれるのかな。頑張ろう、とにかくここで頑張ろう!」

と気持を新たにして、修行に励んだ事を覚えています。

そんなユウチャンですからたくさんのお客様にも愛され、ここは良い店だと皆様に思われています。その看板を、今は僕が背負っているのだから責任重大です。めげそうになった時は、

「ユウチャンだったらどうするだろう?」と考えます。だけど、そんな時は決まって

「チャボ!止まるな!動け!考えるより先にフライパンを持て!」

という怒鳴り声が心に響くだけですが。


そんな事を思い出しているうちに、サービス係サーリの

「ゲストインです」という声が聞こえて来ました。さぁ、いよいよディナーの始まりです。

今夜の前菜(アンティパスト)には、

《手長海老と白桃のサラダ・ウイキョウ風味》

《ミニビーフのフィレ肉のカルパッチョ・夏キコリ茸と双子ナッツ添え》

《5種類の彩りピーマンともち豚のニンニク炒め》  

第一のお皿(プリモピアット)は、

《たっぷり野菜のフレッシュトマト風味・ミネストローネ》

《深海ダコのラグーソースの生細麺》

《温泉卵ともち豚パンチェッタのスパゲッティ》

《海鮮丼風サフランリゾット》

メインのお皿(セコンドピアット)には、

《平蟹の炭火焼》

《ダチョーの香草パン粉焼き・マルサーラ風味》

《山蛇の筒切り揚げ・甘酢ソース》

デザートには、ファンタージアのパティシェ特製

《ブラックビーンズとパンプキンケーキ》

《ダイセンミルクのナンノコッタ》

《いろいろ山イチゴのジェラート》をご用意しています。

お客様にお好みでそれぞれ1品ずつお選びいただき、コース料理に仕立てます。

今日も全部売り切れたら嬉しいですね。


魔法族の常連のお客様6組の料理を出し終えた頃、いよいよ鬼族のお客様がお見えになりました。今夜は6匹でのご来店です。やはり《柿酒》は持ち込まれましたが今夜は控えめで、大樽ではなく、ボトルで3本でした。

しかしこのボトルが変わっていて、サーリが、

「シェフ、開け方が解りません。助けて下さ~い!」とキッチンに持って来たのですが、僕も初めて見る物で、解らない。注ぎ口がコルクや蓋で無く、ガラスの球の様な物で塞がれているのです。早くお出ししないと鬼達がまた怒りだして、大暴れを始めるよ~と、2人で焦りながら頭を悩ましていると、洗い場のカイチョーが、

「ちょっと見せてみ」と手に取り、

「あらぁ、珍しいモンやぁ、今時とんと見かけへんかったなぁ」

と何故か知っている様子。カイチョーは人間界からパートで働きに来てくれている70歳くらいの人間のオバサンです。

「カイチョー教えて下さい!」と僕が聞くと、

「これはラムネの瓶やんか。昔は専用の栓開けがあったんやけどなぁ。最近それもとんと見いひんなぁ。なんか固い棒無いか?それでそのビー玉を突っ突いて瓶の中に落とすんや」と、教えてくれました。

棒と言われても傍には見当たりませんでした。でも、とりあえずカウンターの近くにあった太いマジックペンを、そのビー玉というガラスの球にあててみるとピッタリの大きさでした。そして肉叩きでペンを打ちつけました。すると「カチーン」という音がしてビー玉は瓶の底に落ちました。なんとか開栓できたのです。

「さぁ、急いで!」とボトルをサーリに渡します。

「注ぐ時は、ほら、そこの窪みにビー玉が止まる様にして注がんなあかんでぇ」

と、カイチョーのアドバイス。

「どうもありがとうございます、助かりました」

「私ら子供の頃は良く飲んだけど、最近はホンマにとんと見いひんなぁ」

「人間は子供の頃からお酒を飲むのですか?」

「なんでやぁ、ラムネはジュースやんか」

そうか、あんなに不思議な瓶に、人間族は《ラムネ》というジュース、鬼族は《柿酒》を入れていたのか、と知りました。


とにかくピンチは切り抜けましたので、料理のスタートです。

まずは前菜の1品目

《モローコとアスパラガスのかき揚げ》を用意しました。

ファンタージアの近くに、マジョレー湖という大きな湖があり、湖水や川の魚が豊富にいるのです。モローコというのもそこで獲れる小魚です。泥臭さを抜く為にライススターチをまぶしてしばらく置きその後でしっかりと水で洗い大麦ワインに漬ける、というやり方もありますが、僕は野性味を残したいので、軽く塩をして少し揉み流水で良く洗うだけです。処理した後はしっかりと水気を拭き取り、冷蔵庫でよく冷やしておきます。

アスパラガスは店の裏庭に野生で生えている物を使っています。僕の好きな素材のひとつで、これからの季節はたくさん出来るので楽しみです。毎日使う分を刈り取り、洗ってからザルに入れ、麺茹で器の上にのせて湯気で軽く蒸すだけです。こちらも良く冷やしておきます。

鍋にスマートオイルを入れ火にかけます。適当な大きさの網を入れて熱しておきます。

ボールに2つの材料を入れ塩とコショウで下味を付けます。米粉・イリ―コパウダー・鶏卵・塩を混ぜ合わせ、下味をした材料と良く和えます。

熱しておいた網を取り出しセルクル型を並べ、材料を流し込み、そのまま180℃のオイルの中へ入れます。形が整えば途中で型を外し、少し温度を上げ、しっかりと揚げます。

紙に取り上げ油を切ったら、皿に盛り付け、若獲りの青いトマトのサラダを添え、マジョレー湖の向こう側の山脈で取れたピンク色の岩塩を「荒削り」という器具で薄い板状に削り、かき揚げに乗せて出来上がり。

出来上がりのベルを鳴らし、サービス係のサーリを呼び、1皿目の旅立ちです。

もちろん仕上げはシェフのタクトで、

「美味しく食べられなさーい」と呪文をかけます。


ファンタージアのキッチンにはマッキという見習いがひとりいます。もっとも僕と彼の2人きりなのですが。

彼はまだ何にも出来ないのでちょっと忙しくなると、キッチンは大騒ぎです。今夜もさっきまではそうでした。ちょうど落ち着いた頃に鬼族がお見えになって良かったです。

2皿目の前菜

「夏野菜のヘシーコクリームソース和え」の準備にかかりましょう。

この料理のポイントは「ヘシーコ」という素材。加工品なので食品と言った方が正しいでしょうか。

これも貴重な物で人間界からの取り寄せ品です。先ほど大活躍をされたカイチョーに差し入れを頂いた時に知りました。人間界の日本という国にあるタンゴー地方の特産品らしいです。魚の糠漬けの事で、主にサバを使って作ります。まず二枚に下ろしたサバを塩で漬け、身の内側に糠床を塗り、糠漬けにして発酵させた食品です。

とても塩辛いのですが、発酵食品独特の個性的な匂いと、ほのかな甘みが何ともいえず、食欲をそそります。初めて食べた時から気に入って、店の料理にも使っていますが、野菜料理のアクセントにとても重宝しています。糠床をある程度残すように(ここがポイントなのです!きれいに取るとダメなのです!)取り、炭火で焼いて細かくほぐします。残した糠床が少し焦げて、良い香りを付けるのです。

普段この夏野菜の料理は、炭火で焼いたヘシーコとフレッシュトマトを使いさっぱりとした味付けで仕上げるのですが、鬼族はこってりがお好みなのでクリームを使った濃厚ソースに変更しました。

野菜は近くの農家から買っています。今日使うのは、ささげナス、彩りピーマン5種(赤・緑・黄・黒・銀色です)、葉キャベツ、葉玉ねぎ、夏カブラです。それぞれ下処理がしてあります。

ピーマンは口当たりを良くするため、銀色ピーマン以外は直火で焼いて皮を剥きます。銀色ピーマンの皮は綺麗な銀色ですが身は白いので皮を残してその色を生かします。

葉キャベツは5cm角に手でちぎり、冷水にさらしパリッとしたら水を切ります。

葉玉ねぎは、葉の部分は他の料理で使うので切り取って保存して、小さな玉ねぎ部分を4つ切りにしてトリフォラート(ニンニクを効かせて炒めること)します。

夏カブラは小さめを選び、皮を剥き4つ切りにして、皮を出汁として作ったブイヨンで軽く火を通しておきます。

ささげナスは、下処理をいつもとちょっと変えました。いつもは皮付きのままで使うのですが、今夜はクリーム和えなので皮の色を出さないように、剥いてから蛇腹にナイフを入れ、筒切りにして、カブラに使ったブイヨンでさっと煮ました。

さて、処理された材料を全部出す様に マッキに指示しましたが、野菜は出して来たのですが、肝心のヘシーコが出てこない。

「マッキ、この料理のポイントは何だと教えた?」と言うと

「ささげナスの皮を剥く事です!」と元気一杯に、外した事を答えます。

がっかりしますが、かけ出しはそんなものなのだろうなぁ。きっと僕もそうだったのだ、と我慢、我慢。

さて、そろそろ仕上げにかかりましょう。

鍋にオリーブオイルを入れ、ほぐしたヘシーコを加えます。軽く温め、葉キャベツ以外の野菜も加え温めます。クリームを入れ煮詰めながら野菜と絡めていきます。胡椒で味を整え最後に葉キャベツを入れ、火から外して良く和え、お皿に盛り付けて出来上がり。

タイミングよく、かき揚げのお皿も下げられて来ました。タクトを振って、2皿目の旅立ちです。


3皿目の料理は先ほど説明した、夢虫の濃厚カルボナーラブカッティーニ。

そして今夜のメイン料理・セコンドピアットはダチョーと山蕗のロール焼き

これも人間界の料理からヒントを得た物です。牛肉の薄切りでゴボウを巻いて甘辛く煮たヤハタロールという料理を参考に考えました。ダチョーの肉はカロリーが低く、ミネラルなど栄養成分の高いヘルシーな食材で、最近一番おすすめしている赤身肉です。魔法界のゴボウは太くて繊維の荒い物しか無いので、ゴボウの代わりに繊細で香りの有る山蕗を使いました。

山蕗は皮を剥き1時間ほど酢水に漬けて灰汁を抜きます。灰汁抜きが済めば、酢水に塩を入れ沸騰させてさっと茹で、冷水に取りキレイな色出しをします。これを薄切りにしたダチョーの肉で巻き込み、ライススターチをまぶし、オイルを引いたフライパンでソテーします。表面が焼けたらマルサーラというワインをふりかけ、照り焼きにして取り出します。斜めに切り分け、断面が見える様に立てて盛り付け、アップルトマトとモッツァレッラチーズのスライスを添え、パセリを散らして完成です。これで、料理は全てお出ししました。


デザートの、パティシェ特製ブラックビーンズとパンプキンケーキをお出しする頃は、閉店時間をとっくに過ぎていましたが、今夜、鬼族のお客様は楽しくゆっくりとした時間を過ごされた様子でした。

前回の経験から、料理は全てお1人様につき2人前ずつの分量をお出ししたので、食事量は充たされていたのだと思います。お帰り際は、

「またっ、来る、ぞ~」と、ご機嫌で、ほっとしました。


今日も1日 ファンタージアの仕事が無事に終了。片付けも終わりました。

スタッフのみんなが、

「お疲れ様です」と帰った後に、僕の大切な仕事があります。

客席に座り、大麦ワインを飲みながら今日1日を想い返す事です。

お客様が帰られた席に座り、そこから見えて来る事を感じるのです。前に教えてもらったユウチャンの教えを、今でも欠かさず守っています。料理人になって良かったと感じ、僕を育ててくれた人たちに感謝する時間です。

これが魔法界の私の毎日。

もっと簡単に、魔法で料理を作らないのは何故かって?それは出来ないのです。魔法で料理を作ると、とんでもない事になってしまいます。でもそれはまた次のお話。

この辺でそろそろ僕も眠りましょう。

魔法の便利なところは、眠ろうと思った次の瞬間、もうベッドの中に運んでくれる事です。

それでは皆様お休みなさい。またお会いしましょう。


おしまい。

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リストランテ・ファンタージア ジーンイケダ @jin-ike

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