四百二十連敗ウォーズ

新巻へもん

中間管理職の悲哀

「解せない」


 フランソワーズは緊急脱出装置で一目散に逃亡しながらつぶやいた。緊急脱出装置というが、要は3人乗りのタンデムに過ぎない。誇大表示に当たらないのだろうか。いや、絶対に誇大表示だ。後方で今回のメカが派手に爆発炎上する。


 まあ、うちの組織には金がない。悪の秘密結社だからしょーがない。株式の公開やら銀行の融資で資金調達できるわけじゃない。しかも、ほぼ毎週、繰り出すメカは、あのいけ好かない正義の味方に破壊されている。


「ほら、ちゃんと漕ぎなさい」

 自らも自転車のペダルを踏みしめながら、部下のオットーとヤンソンを叱咤する。2人はそれなりに優秀な技術者とパイロットだった。その証拠に、毎回あと一歩というところまであの正義の味方を追い詰めているのだ。


 しかし、そのあと一歩が及ばない。毎回、自分たちに不幸な事故がおきるか、相手のインチキくさい高性能な秘密兵器とやらで逆転負けを喫している。今日もよく頑張った。あと少しだったのに……。


 これで何連敗だろうか。もうとっくの昔に数えるのを止めた。自分で数えなくても帰ったら総統ボスにチクチクと嫌味を言われるのだ。


 はあ。ため息が出る。まあ、負けたのは実戦指揮官の私の責任だ。その責めは甘んじて受けよう。しかし、毎回、ボスの掴んでくる情報がガセだというのはどうなのだろうか。


1 目的の物を相手に一歩先んじて手に入れる

2 実はニセモノだということが分かりガッカリ

3 正義の味方登場

4 あぼーん


 目的物が本物だったら、もうちょっとは頑張れるのではないか。あと一歩なのだ。そう、士気が下がった状態で交戦するのがイカンのだ。つまり、ボスが悪い。しかし、そんなことを言ったら、ボスが激怒するだけなのは目に見えている。せめて、ボスも悪い。そのラインで手を打ってくれないだろうか。


 ヒイコラ言いながら、何とか拠点の一つにたどり着き、一息を入れる。まあ、すぐに放棄して脱出しないと勝ち誇った正義の味方がやってくるだろう。部下たちに指示を出して脱出の準備をする。


 ふう。なんとか脱出に成功したな。本拠地に戻るメカのコクピットで嫌々ながら通信装置のスイッチを入れる。ボスに報告するためだ。


「総統閣下。応答願います」

 しばらくするとスピーカーから声が聞こえてくる。

「あら、フランソワーズちゃんたら、連絡が遅いから心配していたのよ」

「はっ。申し訳ありません」


「それで、首尾はどうだったのかしら~ん?」

「はっ。申し訳ありません」

「さっきからあ、同じセリフばっかりだけど、ま・さ・か、また失敗しちゃったりするわけえ?」


「はっ。申し訳ありません」

「うそ~ん。もう418連敗してたのよ。今回もダメだったってこと? じゃあ、これで何連敗になったのかしら?」

「419敗です」


「あ~ら。たまには申し訳ありません以外のセリフも言えるのね。良かったわあ。失敗の責任を感じて脳の回路がプッツンしたのかと思っちゃたわ」

「はっ。申し訳ございません」

「まあ、戻ったら覚悟なさい。きつ~いお仕置きだから」

「はっ」


 自分の背中に注がれる視線が痛い。オットーとヤンソンがいつものように同情の目で見ているのは分かっている。そうだ。上司には恵まれないが、私はいい部下を持った。また、来週も頑張ろう。何連敗しようが最後の一戦で勝てばいいのだ。勝ち続けてきたのに最後の一戦で全てを失った古代の英雄もいたではないか。次に勝てばいいのだ。


 そして、翌週。

 また負けた。

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