第3章「魔都ソフィア」scene1 死の対価

男は、パルル共和国の首都、ソフィアの一角に居を構える豪邸から足早に退散すると、


下卑た薄笑いを浮かべながら郊外の森を目指して歩を進めていた。



今回の仕事は、すこぶる楽なものだった。



なにしろ、ロココの酒場で飲んだくれている一人の男を捕まえて、口八丁手八丁で、ロココ風穴を調べさせるだけで、


1000万スピナという大金が手に入るのだ。




詐欺師を生業としている彼にとって、

造作もない事だった。




あの男が風穴に潜り込んで、無事にこちらの流した情報通りに動いてくれたことは、


先刻に顔を出していた豪邸で、

依頼人の執事だと名乗る男が、

別な手口を使って調べあげ、


無事に目標を達していたことを、

こちらに教えてくれた。





『ご苦労だった。これが約束の金だ。

…くどいようだが、くれぐれも、

今回の依頼は他言しないようにな……』




そう言葉を綴って金を俺に渡す執事の、

汚いものを見るような、あの目…。


あの舐めた目を思い出すと、

はらわたが煮えくり返る思いがする。




……ふん、いかにも貴族面して、

俺を馬鹿にしやがって……!




…まあ、いい。

こんな楽で美味しい仕事なら、

多少の嫌みも我慢できるってえもんだ。


それに、

なんか裏に胡散臭いものも感じるしな…。




いざとなりゃ、

このネタを餌に揺すってやるさ……



この先、金に困らぬ人生を、

もう掴み取ったかのような錯覚に取られ、


男は、夢見心地で、

森の中心を通る畦道を歩いていった。




ストンッ



突然、踏み出そうとした右足が

膝から崩れ落ち、


男は思わず、

訳もわからぬまま畦道に転がって、

道に敷き詰められた落ち葉を

舞い上がらせた。




1000万スピナの入った皮袋が道に転がる。





『な、なんでえ!!』





右膝に激痛を感じ、見てみると……



膝の皿を砕き、一本の矢が、

右足を綺麗に貫通していた。





『ぬわわ』





自分の身に起こった現実を

理解出来ないまま、


男は、不様な格好で、とにかく、

何処かに身を隠そうと足掻いた。





ストンッ


ストンッ


ストンッ




そんな男の背中を、更に、

3本の矢が貫いた。




『カフッ………』





口から血を吐きながら、男は、自分が何故、このような人生の最後を迎えなければならぬのか、


その理不尽な終わりかたに、

全く理解できないまま、


地面に頭から倒れ混んでいった。




薄れ行く意識の中、最後に見た光景は………




1000万スピナの皮袋を持ち上げる、

男の手だった。



…それは、俺の金だ……


…俺の…


…俺の……………金……………








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ケルベロス&オルトロス アスラム @asram

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