■41.そうだ、魔導具にしよう
昨晩は夜遅くまで
そして今日は皆ゆっくり起き、軽く朝の支度を済ませてから簡易ベッド魔導具をボタン一つで片づけ、家具を元の位置に戻す。
昨晩残ったご飯をまた「スチームレンチン」で温め、みんなでブランチをいただく。
「やっぱその魔術いいわねぇ…因みに、何属性の魔法なのか教えてもらえたりするかしらぁ?」
カーティは昨日からスチームレンチンに興味津々だ。
「うん。これは温め効果で『火』、あとは蒸気を出すために『水』の属性かな」
多分これで合ってると思う。が、イメージでやっているのでもしかしたら違うかもしれないがその時は許して欲しい。
「二属性を同時に発動、しかも水と火って逆の属性な気がするんだけど、そんなに簡単に発動されちゃうと何とも言えなくなるわね…なんで本当にうちの店に来てくれたのか不思議になってくるわ…」
アルティが「まぁユカリだから仕方ないか」と最後に付け加えた。
「うん、なんかね、もう『ユカリだから何でも有りな気がする』っていうのが私の中でしっくりきてるわ!」
ミンシアまでそんなことを言い出した。
「うーん、でもそうなると私はやっぱり覚えるのは無理ねぇ。残念だわぁ…」
カーティは心の底から残念そうだ。
「ソレ、魔導具になったらかなり人気出そうじゃない?というか絶対人気出ると思うんだけど。叔父様に提案してもいい?」
ミンシアが紫に聞く。
以前、オーパーツが…と思った事もあるが、この世界で研究・開発をして商品化するなら問題ないだろう。
「うん、もちろんいいよ」
「ありがと!」
「それは素敵ねぇ!魔導具になってくれれば誰でも使えるものね。いちいち鍋に戻して温めてってしなくて済むようになったら楽だわぁ」
カーティも是非魔導具にしてちょうだい!とミンシアに頼んでいる。魔導具を作るのはミンシアではないとは分かっていても、つい両手を握りしめてお願いしている。
「ところで、カーティは何の属性持ってるの?」
紫はカーティに聞いてみる。何属性か聞いてくるということは、何かしらの属性を持っているということだと思ったので魔法が使えるかの有無は聞かない。
「ほんのちょっと、本当に僅かなんだけど、雷属性を持ってるわよぉ。発動してもちょっとビリッってしちゃうくらいね。雷属性があるせいか、逆に静電気とかはバチッってなっても全然平気だったりするのが助かるかしらってくらいよぉ」
「へぇ!そうなのね。アルティとミンシアも聞いてもいい?」
「私は魔術適正は無いのよね。でもスキル『見る目』があるし、私の職業柄とても役に立ってるスキルだから特に魔術が無くて気にしたことはないわね」
ああ、そういえばアルティはスキルを持っていると昨日教わったところだった。しかしスキルと魔術は両立しないのが普通なのだろうか。
取り敢えず今は保留とし、今度万能先生ベルナルドさんあたりにでも聞いてみよう、と心にメモをしておく。
「私は風属性ね。走ってる時に追い風にできたり、嵐の中で少しだけ自分への風の抵抗を緩めたり出来る程度で私もそれほど大した事は出来ないわ。でも無意識で発動しちゃう時があって、そういう時は勢い余って追い風で転んだりもするのよね…」
それは大丈夫なのだろうか。
「無意識でだなんて、特訓とか受けなくて平気なの?暴走とかしたら怖いんじゃない?」
アルティも紫と同様、心配になったらしくミンシアに聞く。
「ああ、それは大丈夫よ。適正検査は受けたけど私程度が暴走しても犬小屋がぎりぎり浮かび上がるくらいのつむじ風が起こるかどうかですって言われたのよ」
犬小屋も大きいのじゃなくてきっと小さい子犬用だわ、とミンシアが言い、思わずクスリと笑ってしまった。
「それに風属性は強いと攻撃も出来るらしいけれど、私はそこまで魔力が強くないから手のひらを傷つけることもギリギリ出来るかどうか、ささくれはできるかもしれませんねって」
「嫌だ何それー」
ミンシアが言われた時を思い出してるのか、魔術師をまねしてるような身振り手振りで説明するもんだから皆でお腹を抱えて笑ってしまった。
「まぁそんなかんじ。風属性ではあるのは間違いないけどね」
「そうなんだね。皆教えてくれてありがとう」
「いいのよぉ。昨日ユカリだって私たちに色々教えてくれたんだからこのくらい」
「これからもっともっと仲良くなる予定だから、このくらいお互い知ってて何も損にはならないわよ!」
紫はアルティのまっすぐな言葉に少し照れながらももう一度「ありがと」と言った。
「魔導技師の才能があれば、叔父さまと同じ会社で働くのも楽しそうとは思ったこともあるけど、私にはてんで無理だったわ」
「ミンシアの叔父さまは今注目の魔導具開発会社だものねぇ。スチームレンチン、本当に楽しみにしてるから、頼んだわよぉ」
カーティの目がとてもキラキラして期待に満ちている。
「任せといてっ!このベッドを返す時に話ておくわ!」
今後本当に魔導具化するか、紫も少し楽しみになった。
魔導具と言えば…と紫は思い出す。
「そういえば私、ラジオが欲しいんだけど、この辺りでいいお店知ってる?」
おととい王様からいただいたお金で無事この世界でも無一文じゃなくなった為、まずはラジオが欲しいと思った。
この世界ではラジオで「魔天報」と呼ばれる天気予報が流れているらしく、その的中率はほぼ外れることが無いらしい。
紫の住む山小屋の日本側とこの世界側とは天気が今のところずれた事が無いのでちょうど同じ気候なのだと思っている。それならばほぼ外れない魔天報が聞けるラジオが欲しいと思ったのだ。
それにラジオならこの世界の流行りの歌なんかも聞けるかもしれない。
「それならオススメのお店と商品があるよ」
その後ミンシアが色々教えてくれた。
さすが身内に魔導具作ってる人がいるだけあって、魔導具にとても詳しい。
山小屋の電化製品に興味深々だったベルナルドさんと話が合いそうだ。
「これ、お店の位置ね」
ミンシアが簡易に地図まで書いてくれた。
「ミンシア、ありがとう!助かるよ」
「いえいえ、どういたしまして」
「あら、そこミンシアの叔父様が働いてらっしゃる会社の直営店じゃない。ミンシア流石しっかりしてるわね」
アルティがクスクスと笑っている。
「あ、バレた」
ミンシアがケラケラと笑った。
「でも私が一番のオススメのお店はやっぱココだしね~」
「ユカリ、何だかんだ私もこのお店がオススメよ。買った物で何か困ったことがあればミンシアに聞けば大抵何とかなるしね」
「なるほど!」
「ちょっと、私は魔導具屋じゃないんだけどー」
「でも何かあったら助けてくれるんでしょ?」
紫が首を傾げて聞くと、ミンシアは「そうなんだけどね」と言い笑っている。
ああ、楽しいなぁ。紫はしみじみ思った。
女子会最高。
「ユカリ、急にニヤニヤしてどうしたの?」
アルティが聞く。
「ニヤニヤって…。いやぁ、楽しいなぁって実感してました」
「あら嬉しいわ。誘った甲斐があったってもんね!また誘うから、来れる時でいいから女子会またしましょうね!」
アルティが嬉しいことを言ってくれる。
「うんうん。また次回も楽しみだね。一か月に一回くらいは女子会してるから、来れる時でいいからね。あと次もまたこのお菓子食べたい!」
と紫が作ったマフィンの包み(中身は既にミンシアのお腹の中)を指さしながらミンシアが言った。
「了解。また作ってくるね」
話もひと段落つき、皆で部屋を片づける。
昨夜もそうだが、やはりウェイトレスの集まり。食器などの片づけがとても早く手際もいい。
「それじゃぁ、お邪魔いたしましたぁ。本当に楽しかったわぁ。ミンシア、場所提供いつもありがとうございます」
紫とカーティは帰宅の準備を済ませ、玄関ホールまで送ってもらっている。
「私はもう少しミンシアの家でおしゃべりしてから帰るわ」
アルティはまだミンシアとおしゃべりしてから帰るらしい。
各々挨拶を済ませ「それではまたねー」と手を振って皆と別れた。
紫は一人となり、街中をゆっくりと歩く。
休みの日にこうしてゆっくりと街を歩くのは、仕事を探すために街に来た日以来かもしれない。
ああ、あの日からまだ二週間しか経っていないのか。
なんという怒涛の日々。
まさか自分が異世界で仕事をするようになるなんて、一か月前には思いもしなかった。
毎日一人で家に引きこもっている予定だった。
それはそれで色々な楽しみ方があっただろう。
しかし、今この状況を紫はとても気に入っている。
やはり自分は「自堕落万歳!」と寝転がっているより、こうして動いている方が性に合っている気がする。
いや、何もしないでゴロゴロしているのももちろん好きな時間ではあるが。
そういえば、当初は革で何か作って売ろうかと思っていたんだったな、と思い出す。
日本の方のお財布の中身はそれこそ潤沢なわけだし、専用機械や材料をもっと取り揃えるか、と思いながらふと目に留まった布生地屋さんを覗く。
日本とそう変わらない裁縫道具や綺麗な織物、糸や無地の布なども揃っているが、革が見当たらなかったのでそっとその場を離れた。
やはり革を買うなら日本でかな。
途中でカフェを見かけたので入り、リキュカファを注文する。
今までこういった寄り道をしたくても無一文が故にできなかったので、念願のカフェ入店である。
窓際の席に座ってゆっくりリキュカファを飲んで身体を温める。少し冷えてきた身体が少しずつ温かくなってくる。
店内ではラジオが流れており、ジャズのような曲が聞こえる。
楽器などは地球と似たような物なのだろうか。
ちょっとしたことでも知らないことばかりで毎日が本当に新鮮である。
ここのカフェの雰囲気好きだな、と思いながら窓の外を眺めつつ、まったりとした時間を楽しむ。
日本の都心のように、一分一秒でも惜しむかのようにせかせかと歩くスーツ姿の人は見かけない。
その代わりにたまに明星隊の人が通りすぎたり、寒いからかほっぺを赤く染めた子供が元気よく走っていったり。
足下すべるから転ばないでよー、と勝手に心配したりする。
リキュカファを飲み終えたのでお金を払ってまたゆっくり街を歩きながら、いつもの門の前まできた。
タッチ&ゴーを慣れた手つきで済ませ、森からはワープでひとっ飛び。
女子会楽しかったなと思いながら、もうすっかり見慣れた異世界側玄関を開ける。
冷えた部屋に暖房を入れていき、それでもまだリキュカファの効果で身体が温かいので上着は脱ぎ、夕飯の支度に取り掛かる。
明日も仕事は休みだ。明日は何しようかな、と考えながら、まったりとした夜をひとり楽しんだ。
山小屋を買ったら異世界に繋がりました 色葉せす @vlowolv168
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