第3話 街へ

 この世界に来てから一年間、僕はこの場所から動くことはできなかった。

 周りは見渡す限りの緑で、空は青く澄み渡り、風は心地よく、自然の温かい空気を肌で感じるほど周りには何もない。


『アクセス確認完了。正式サービスによりプロテクトを解除。現時刻を以て鏡様の移動可能範囲の制限を解除し、機能を拡張します』


 そう音声が鳴り響く。

 この世界だと、僕は女の子だ。

 なぜ? と思う人もいるかもしれないが、何故かこうなっている。

 髪を弄ると、サラサラしてて心地がいいと感じるし、長さもショートカットの感じはするが、たぶんセミロングなのだろう。

 僕自身、女の子の髪型なんて分からない!


『セットアップ終了。これからは、分からないことがあればお声かけください』


「じゃあ、何点かいいかな?」

『はい』

「なんで、僕がこの世界に来ると性転換するの?」

『それは分かりかねます。その解を求めるにあたり、こちらの表示をご覧ください』


 すると、ブレスレットから薄緑の半透明な液晶が飛び出したので、顔の前になるように腕を持ってくる。


「ええっと、これどうスクロールしたらいいの?」

『視線を下に見ければ移動します』

 

 言われたとおりに、下に向けると画面が動く。

 なるほど、これは便利。

 そして、質問に関する回答があるようだけど、読み進めていく。


♦  ♦  ♦


「わけわかんない」


 そう。これに尽きる。

 10分少々見てみたが、分かったことと言えば、この世界のどこかにアクセスキーの開発者と、僕の遺伝子データーを元にお爺ちゃんに頼まれて作った科学者がいるから、その人に確認したらいい、と言うような感じだった。

 前置きが長い。


「目的は分かったけど、これからどうしたらいいの?」

『街を目指すことをお勧めします』

「街?」

『はい。現在、鏡様がいる場所は、現在の登録地図で【ラ・セルトの丘】と言う地域になります』

 

 現在のっていう事は、何回か変わってる可能性がある訳だけど、僕が居るときは何もなかった気がする。


「ここから近い街は?」

『ここか近い街ですと、三国の国境付近に位置するため、次の三つになります』


 さっきまでの画面からマップに切り替わり、青い点が中央に転倒しその周りに黄色い点が三つ灯った。

 距離的には、北西が近く、時点で東、最後が西っていう感じだ。


『まず、北西の街は【聖都・キャメロット】になります。この街自体は騎士団を持ち合わせており、正式サービスの時代から悪事を取り締まり、初心者を招きいれ、育成するのを目的にしているようです』

「ふむふむ。東は?」

『東は【奴隷都市・アーロン】と言う街です。文字通り女性を中心に奴隷にし、初心者を連れ去らっては、無理やり兵士に仕立て上げると言う事をしているようです』


 この街はやめとこ。

「最後の西は?」

『西にあるのは【王都・グレン】になります。街の詳細は不明で、サーバーに保管されている情報でしたら、七賢人と言う人により作られたとあります』


 なるほど。

 まずは街に行くのが最優先だと思って、見てみたけどここは結構面倒な場所のようだ。

 そもそも僕、チュートリアル受けてないから、どこかで情報が欲しいんだよね。


「あ、そうだ。チュートリアルは確認できる?」

『いいえ。鏡様のデバイスには存在してません』


 あっさり。

 やっぱり街に行くのが先決か。

 そうなると三つの街から選ぶことになるんだけど、個人的には聖都が無難か?


「聖都までどれくらいかかる?」

『大体半日になります』


 半日か。

 いけない距離でもないかな。


「了解。ありがと」

『また何かありましたらお声かけください』


 そうしたら、画面が消えた。

 さて、まずは装備の確認かな。

 僕は、左手の人差し指で宙を上から下に擦るようにジェスチャーをした。

 すると、小型の窓が出て、人型のシルエットを中心に書かれていて、右下には宝箱、左側には分からないマークが二つ並んでるウィンドウが表示される。


「うーん、今はフォトンソードか」


 普通は、ウッドソードや、銅の剣が一般的なんだろうけど、この世界は違う。

 各プレイヤーが持ってるアクセスキーには、特殊なエネルギー粒子があり、それが武器の形を形成する。


「試しに出してみようかな」


 そう言い、右手で画面を払って消し、左手をまっすぐ水平に前に伸ばした。


「リリース」


 そう唱えると、ブレスレットから赤い粒子が噴出して左手の手のひらに集まり、少しづつ形を形成していく。

 それを握ると弾け、赤い光の剣が収まってる。

 長さは、大体1メートル前後で鍔などはない。外から見ると棒が赤く発行して、どこかの中二病の人が喜びそうなのが拳の上に飛び出てる。

 上に構えると光の剣って感じなんだよな。

 そして何度か振ってみるが、重量があるのか無いのかわからないけど、振ってる感覚は全く感じない。


「さて、行きますか」


 武器をしまい走り出す。

 マップは、頭に入ってるし方角も問題ない。

 初めて、いつもいる場所から移動することは、とても新鮮で高鳴る鼓動に身を任せると笑ってしまうほどに楽しみだ。

 この世界では、不思議と走る時の疲れっていう物は無いようで、移動のみならば永遠にすることができる。

 それを知ったときは、現実じゃない、と思った訳だけど重要なのはそこじゃない。


「お? スライムが居る。倒そう」


 そのまま全力疾走の状態で、左腕を前に出し武器を出現させる。

 そして、右手に持ち替える。

 これ、不便だから情報集めよう。

 

「すー、はぁーー」


 そして、剣を左腰に構えて、スライム目掛け踏み込む。

 一閃。

 すれ違いざまに切りつけそのままかける。

 目の前に小さいウィンドウで、経験値とドロップものが表示された。


「やっぱり、スライムだとここまで来たら経験美味しくないな……」


 当たり前と言えば当たり前の事を呟きながら、走る。

 そう言えば、向こうの世界でスキルがある話見たけど、どうやるんだろう?

 そう、この世界には成長スキルと言う物がある。調べた感じだと、プレイヤーの戦い方や技術に応じて自動生成されるもので、同じモーションでも威力技名が異なっている事が当たり前だ。

 でも、僕にはない! 

 そうないんだ。理由はチュートリアルの欠如。

 これの意味するところは、つまりーー。

 何年やっていても初心者!!

 これに尽きる。


「早く街に行かないと、プレイヤーに出くわしたら死んじゃうね」


 強さは、自分では最弱ではないとは思ってるけど、スキルのあるなしは努力では解決しないと感じる。

 だって、動画で見たの即死するし。

 その動画で見たのは、ドラゴンの首を跳ねてる緑の斬撃だったんだから。


♦  ♦  ♦


  あれから、かなりの時間が経ち、周りはオレンジ色に包まれていた。

 目の前には、オレンジをものともしない圧倒的な威圧感を与えてくる石壁が両サイドに伸びている。


「うーん、これどう入るんだろう?」


 こんなのはブレスレットに質問しても答えてくれる訳ないし。

 周りは壁であり、見える範囲には入り口はない。マップも拡大してるけど表示すらない。

 

「さて、どうしよう」

 

 ここまで来て、入れないなんて肩透かしした気分だ。

 とりあえず、壁を触りながら反時計周りに歩いてみる。

 感触は、ザラザラしてなく下手な加工品よりも手触りがいいまである石壁を一時間触りながら歩いたが無い。

 何もないのである。


「これどうなってるの! 入口ないじゃん! こっちじゃないの?」


 そこで大声を張り上げた。

 怒りの咆哮ともとれる、甲高い叫びは空に消えていったと思ったその時。


「お? そこの高校生! ここに何か用か!」

 

 頭の上から声がかかり、見上げるも視認ができないから、また大声で声のしたほうに叫ぶ。


「僕は! ここにきて間もないんですが、街と言う物に行ったことなく、一番近いこの街に来させてもらったんです! よろしければ入れてもらえませんか?」

「おう! そうゆう事なら、今そっちに行く! ちょっと待ってけ!」


 そう言われ五分後、目の前の何もない壁が開き、中年の男性が出てきた。

 見た目は、清潔感がある髪型に、歳は三十代っていった顔つき、体には鉄製に思われる鎧を付けていて、中指に宝石らしき緑の石をはめた指輪が粒子を放っている。


「おう! お嬢さん結構小さいな? で、初めてって言ってたが、チュートリアル終了後の新人って認識で良いか?」


 結構フランクに話しかけてくれて、助かるも馴れ馴れしさに何故か抵抗を感じた。ありがたいんだけどね!


「はい。最近、ラ・セルトの丘から移動できるようになって、マップを見ながらここに来ました。ほとんど装備も無く、初心者の状態です」

「なるほど。じゃあ、身分は初心者っていう事で、中の自警団に話を通しとく、それとこれに名前と、宝石、年齢を記載してくれ」


 そう言って、手渡されたのは病院でありそうなボードに、ボールペン、あと記入用紙だ。


「この世界にしてはかなりアナログですね」

「何、書類として管理するからな。入った際に、身分証を発行するための下準備だ。ここに書かれたのを中央管理局って所でデータ化して、その他の登録をしたのち、アクセスキーにデータが渡されるって順序なんだ」

「そうなんですか。大変ですね」

「嬢ちゃんも、高校生なのに、こんな日に入らなくてもいいものなのに物好きな」


 そう話しながら、記入を終え、ボードを手渡す。

 受け取った男性は何回か見たのちに、こう言ってきた。


「鏡さんね、年齢は16歳。OK問題ないな。じゃあ、これを送るから中に入っていいぞ。入ったら中央にまっすぐ向かうんだ。たぶんメインストリートから見えるだろうが、この街一番の建物の中央管理局がそこだ」

「わかりました」

「じゃあな」


 そう言って中に誘導された。

 入った感じは真っ暗でトンネルと言うよりは、宇宙にいるような感覚に陥り、まっすぐ歩いてるのか、止まっているのかさえ分からないし、どっちに向かってるのかも分からないほど何もない。

 そう感じながら歩き続けてると、いきなり目の前が真白になり、気が付くと沢山の声や香り、風の感覚に騒がしいとさえ感じる空気を体で受けた。


「うわー! すごい。ここ城下町って感じが」


 目の前に広がっていたのは色とりどりの建物に、屋台、人でごった返す大通りに、何より目を引いたのはまっすぐ目の前、遠くに見える、白いタワーだった。


「あれが中央管理局。まずはあそこを目指さないとね」


 そう言って、早まる鼓動を抑え込み足を進めた。

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世界の終わりは現実へ 一ツ柳八重 @shaorin

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