第2話 始まりは女の子に
4月15日。
薄暗い部屋に、目覚ましの電子音が響いた。
高校に入学してから、一人で起きている。中学までは起こしてもらっていなかった為、よく遅刻をしていた。
それでも成績は良かったんだよね。
「うーん。まだ眠いんだけどなぁ」
心の中で呟いたはずなのに、口から漏れていたようだ。それも空しく虚空に消えた。
「まぁいいか。時間は……7時半」
声は女性のものと間違えるほど、高い。話し方にも覇気はなくどこかゆったりしている。
僕は、掛け布団から顔をだし、時計を確認したらそのままベットから降りた。
周りを見渡すと、カーテンから優しい日の光が漏れていて、ぼんやりと周りを映し出す。机にカバン、クローゼット、三段の本棚に、ベットの棚には、女性もののアクセサリーを思わすブレスレット。
「さて、今日はある意味記念日だ。この世界から一時的にサヨナラする」
クローゼットに向かいながら、気持ちを奮いだたせる。
クロゼットは、どこにでもあるような木製のもので、新品とは言えないほど年季が入っている。取っ手や扉にはところどころ傷が入っていて、これでもか? ってほど痛めつけられた跡が存在していた。
でも、その中にはどこか温かみがあり、懐かしい空気をしっかりと伝えてくる。
クローゼットを開くと、そこには僕が通う高校の制服が三着かかっている。
一つは、黒い学ランで、襟付きの男子高校生が着るもの、ズボンも一緒にかかってる。数回しか着てる様子がなく、新品と言われれば誰が見てもそうだ! と口をそろえて言うだろうとさえ思う。
問題は残り二着。そこには灰色のベストに、ブレザー、チェックの紺色のスカートと、白いセーターに紺色の長袖ブレザーと、紺に赤と緑の細い線が入った厚生地のスカートがかかっていた。
その二着のほうが、使用感が漂てさえ来る。
「この一年、僕は女子生徒の制服を着てたんだよね」
事の始まりは確か、中学の時だ。
女子制服を手に取り、着替え始めながら思い出す。
あの時は、男子制服を買って、生活してたけど、声や髪質の性で男装しているとクラスメートに入学時に言われた。
それから、数か月たった時に、学校一の美男子に何故か告白されて、それがきっかけで世界が変わってしまった。
その事が学校中に広まり、女子からの恨みや妬みが凄くて、男子の視線も気持ちが悪いものになった。先生もはれ物に触るような態度をとるし、何か言われて助けを乞うと『鏡、君はそんな見た目だから、言われるんだよ。先生の気持ちも考えてくれ』と言われた。
校則も、男子のほうに合わせてやっていた訳だけど、それが更にダメだったようで、プールの授業の時制服を盗まれ、代わりに女子制服を着させられたり、水着も海パンだったのに、男子が集中できないと言われ、学校の先生に女性用のに着替えさせられたという事もあった。
それが原因で、エスカレートし、通常時も女子用にとなってしまい、それが嫌で男子制服のままで過ごす事を願い出て許可までもらった。
それなのに高校に入ってどうして? と思った人が沢山いた。
それは、エンド・ワールド、通称EWのアクセスキーが送られてきたのが一年前。 その時に、速攻旅だったのはいいもののトラブルが起きたのが原因。
そのため、高校入学後二週間の間に、制服を買いなおす羽目になったのだ。
もちろん、先生が反対などする訳でもなく、すんなりと許可をくれて、購入させてくれた。
「よし! 今日も問題ないよね!」
着替え終わった僕は、女子制服を纏い部屋を出てリビングに行く。
リビングにはテーブルにソファー、テレビのみしか無く、父親も母親も今はいない。
このほうが楽かな。
テレビをつけると、ここ最近話題になっているEWのニュースがやっていた。
『去年の末、株式会社SECOND・WORLD社のゲーム、エンドワールド、通称EWの総合開発者である鏡則之さん75歳が発表した事件の期日がついにやってきました』
「あーあまたこのニュース」
今はお爺ちゃんはこの世にいない。
今年初めに、亡くなったと思うけど、遺言らしきものとともにEWの特殊プログラムに関しての資料を残し行方をくらました。
『今日この日に、法律が一切なく、開始早々何千万の人が死んだゲーム世界に行けば条件を達成するまで、こちらの世界に戻ってこれないという事で、世間は日付が変わる瞬間に行ってしまった人がいると、ネットで社会現象になっています。このことに関して、東放電子研究所所長の長峰さんと、京都電子工学大学教授の豊臣さんにお話を伺っていこうと思います。よろしくお願いします』
画面が切り替わり、ぽっちゃりとしたおじさんと、歳は30代かもう少し若く見える人が映し出された。
僕は、この二人の話を聞くために、ソファーに腰を掛ける。
『よろしくお願いします』
『よろしく』
敬語で話したのが、豊臣教授で簡単に挨拶したのが長峰さんね……。
『まず、EWの技術は発表当初がらすごい話題になりましたが、現代の科学ではありえないと言うお考えでしたよね?』
『はい。私自身EWの世界に行くためのアクセスキー……DIFFERENT-WORLD START-UP CHANGE DRIVER、異世界転移スタートアップ装置、通称DWSCD……ダウシードを入手して解析しました。ですが、全く未知の
素材技術で構成されており、仕組みはわかりませんでした』
『そうは言うけどね。君らの所は所詮大学。私たちの所でわからなかったものがわかるとでも?』
『それで、私は実際にEWの世界に行ったんですが、あれは確実に現実です。VR? そんなちっぽけなものではなく、この世界と全く同じで、違う所と言えばダウシードのサポートのおかげで、ゲームであるという点、モンスターが闊歩している点が挙げられます』
『聞いているのか!』
「この所長うるさいな」
さっきから、わからない人の為に話してくれてるのに、机は叩くわ、怒鳴るわで。
『な、なるほど。では、長峰さんはこの騒動、どうお考えで?』
『そもそも、ゲームの世界に行くなどと言う妄想はこの日本の恥でしかない! エンドワールド? 虫唾が走る! 実際に、リリース当初沢山の死者を出したのにも関わらず、政府は何をやっているんだ!』
『長峰さん。今はEWの事について聞かれてるんです。きちんと答えてくれませんか?』
『うるさい! 私は、日本の風格や威厳について話してるんだ!』
すると、画面が変わり、しばらくお待ちください、と言うテロップが流れた。
「あの豊臣さん、しっかりと向き合っているのかも」
ソファーの背もたれに身体を預け天井を見上げた。
僕は、去年ログインしたけどチュートリアルの場所が焼け野原で、転移ポータルが出ててそこに入ると、確かに草原で現実だって実感した。
そう、ログインしたとき初めにチュートリアルがあると書いてあったけど、僕には無く、焦げた匂いと独特な焼ける匂いが鼻を駆け抜けた。それが怖くてさっさと青い光がある所から移動した。
「あれから草原以外いけなかったんだよね」
そう考えてると画面が戻り、先ほどの長峰さんが消えていた。
『では、気を取り直して、豊臣さん。実際の所、SECOND WORLDが言っていることは本当に起こせるのでしょうか?』
『確実に起こせます』
『え?』
『確実に起こすことができます。このダウシードは原理はわかりませんがゲームの世界に入ると言うよりも、別の世界に移動している、わかりやすく言えば創作物のワープやテレポートと同じ機能で移動して、その後特殊なプログラムで守られているに過ぎないんです』
『つまり?』
『このワープ、わかりやすく転移と言いましょうか。この転移機構は、私が何度か試した事により、声などを認識して開いているだけで、実際はそこら中に空いている歪みを媒介にしてるんです。その機能をPCのタイマーのように自動で落とすようにしたら可能です』
あれ、この人めちゃくちゃ頭よくない?
それが感想だった。
『なるほど。わかりました。では最後に一言もらえますか?』
『私も、今日この日、収録が終わったらEWにこのダウシードを使い行きます。ですが、興味本位で行くことはやめてください。死んでしまえば本当に死んでしまう。もう親とも大切な人とも会えなくなるのだから』
そう言って見せたのはペンダントに十字架がついて真ん中にオレンジの宝石が付いたものだった。
話も終わったし、僕もそろそろ。
ソファーから立ち上がり、自室に行きベットの棚に置いてあった二重リングにルビーがはめ込まれたブレスレットを、手首につけた。
「じゃあね。僕の現実であり過去」
周りを見回して、焼き付けるように心に刻み込もうとする。
16年間過ごしていた場所だけに寂しさを感じるのは、思い出があるからだろうか?
一通り何もない部屋を見回し終えて、深呼吸をし、頬をたたいて気合を入れる。
「いきますか! アクセス!」
声を高らかにいい、目の前に白い絵の具を水に垂らして混ぜたものが浮かび上がる。
それは、シルバーとでもいえばいいような感じの色で、混ざってはうねるを繰り返している。
僕は、躊躇わずその中に飛び込んだ。
◇ ◇ ◇
中に入ると、白い渦の中にいる感覚で、風も何もなくずっと遠くに光がある。
そこに、引き込まれるように引っ張られ、浮遊感の中進んでいく。
進むにつれ、僕の体に変化が起こる。
まずわかるのが、身長が少し縮んだことだ。制服は女性用のだけど、僕の身長152CMに合わせていたが、進むにつれてゆったりとしてくる。同時に、胸のあたりが膨らみ少し張りのある感じになり、髪が少しずつ伸びていきセミロングくらいになった。腰回りも、若干細くなり、肌の質も上がっていく。
そして、光に近づき、中に入ろうとしているその姿は、歳は16歳くらいの女の子だった。
「この感覚だけ慣れないんだよね」
声も、若い女の子と同じく、全く男性だったと言われればありえないと答えるほどの、美少女がそこにいた。
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