返事

 することもなく水辺を散歩していた私は、それが流れてくるのにすぐに気づいた。透明な瓶に詰められていたのは、半分ほどの水とそれに浸る一枚の紙だった。



初めまして。あなたの手紙を読みました。


俺はあおいといいます。

あなたのいる場所を見てみたいと思ったのですが、俺はそちらに行くことができないようです。それでも近くで会えたらと、この手紙を書いています。


俺のいる町は物で溢れていますが、あなたにとって面白いかはよく分かりません。俺はこんな場所よりも、何もない、遠くを見渡せるような場所の方が落ち着きます。

あなたは手紙でたくさんの食べたいものを教えてくれました。もしこちらに来てくれたなら、俺が好きなものも食べてみてほしいです。といってもただの魚なんですけどね。


俺はもうすぐ学校を卒業します。周りの皆はやりたいことがあるらしくて、その日が来るのを楽しそうに待っていますが、俺にはその気持ちがよく分かりません。手紙を読んだだけですが、あなたも皆と同じように考えられる人なんだろうと感じました。

これからのことが楽しみで、未来をたくさん考えられる。それだけであなたは素晴らしい人なのだと思うし、俺はどうしようもないのだと思いました。


今の状態で満足に生きられるのだから、これ以上を求めたくないのです。たとえそれが今よりいい未来に繋がっていても、今を変えることが怖いのです。それが間違っていることなのだとしても、俺には変える勇気がない。変わる勇気がない。

だからあなたのように未来を思い描くことができないし、一歩踏み出すことができない。あなたは俺と違ってそれができる人だから、きっとその夢をかなえられる日がくると思います。


あなたのせっかくのお手紙の返事が、こんな下らない俺の話でごめんなさい。

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届くはずのない手紙を貴方に 雪鼠 @YukiNezumi

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