#最終回# シャロット


「藍音ぇっ!……はぁ、はぁ……?」


「朱ねぇ……ね?」


 藍音の腕は確かに存在している。ならば、吹き飛んだ腕は誰のものか。

 朱音と藍音を護るように立ちはだかる小さな人影が見える。目を凝らしてみると、


『……や、やらせない……のよ……』


 幼女神シャロットがそこに立っていた。しかしその身体は既にボロボロで、先程の一閃で左腕が綺麗に斬り落とされている。


『ほぅ、生きてたか。一撃でぶっ壊れたと思ったが……俺も本調子ではなかったからな。滑稽だな、人形。お前の中にも赤い血が流れているなんてよ?ま、それも紛い物だがなぁ!』


『だ、まれ……なのよ……おま、え……前々から気に食わないところがあったのよ!』


『言うね〜、これでもまだ囀るか?おら!』



 再び薙ぎ払うように振り上げた黒剣はシャロットの右脚を容赦なく切断した。右脚を失った幼女神はガクンと地面に這いつくばり闇喰を睨みつける。

 闇喰はそんなシャロットの左肩を踏みにじるようにして笑い、その小さな身体をブンと空中に投げ飛ばした。切断された箇所から真っ赤な血を撒き散らしながら回転するシャロットは残された右手に力を込め、拳を握りしめたが、


『……の……っ……ょ……⁉︎』


 無様に落下したシャロットの身体を、下で待ち構えていた黒剣が貫いた。血が噴水のように噴き出し、愕然とする朱音と藍音を染めた。


「……シャロット……?」


『……っ……っ……』


 闇喰はシャロットを串刺しにした黒剣を朱音の目の前に突き立てた。ブランと項垂れたシャロットはズルズルと地面にまで滑り落ち藍音の足元を真っ赤に染めた。


『さてと、邪魔者は芸術的なオブジェと化した訳だ……続きを始めるとする……か……?』


「ち、調子に……乗るにゃぁっ!」


『ぬがぁっ⁉︎』


「か、環奈ちゃん!」


 環奈の渾身の一撃は闇喰の背中を裂く。


「朱音!お兄さんを傷つけてしまうの……許せにゃぁっ!」


 間髪いれず強烈な連続攻撃を繰り出す環奈を裏拳で吹き飛ばした闇喰は環奈にトドメを刺すべく、シャロットを貫いていた黒剣を抜き襲いかかる。

 それを横から殴り伏せたのは凪子だ。凪子は相手の顔面、ボディ、と次々に鉄拳をめり込ませていく!そして朱音に叫ぶ!


「朱音!あたしの時みたいにっ!あの時の朱音みたいにシャロットと!」


『させるかぁ!』


 闇喰は凪子の拳を受け止め反撃する。しかし、その拳は環奈の捨て身の体当りで無効化、二人は地面を転がる。馬乗りになられた環奈は覚悟を決めたように目を閉じるが、闇喰の背後から凪子が動きを拘束する。


「藍音ちゃん!せつなちゃん!みくりちゃん!三人でシャロットを持ち上げるんだ!早くっ、朱音とシャロットなら……!押さえつけてる内にはやく!長くは保たない!」


「わ、分かった……!」

 藍音が二人を見ると、せつなとみくりも頷き瀕死のシャロットを抱え朱音の顔の高さまで持ち上げた。


『……あ、か……ね……ご、めん……なのよ』


「この馬鹿……心配したんだから……シャロット?私の中に来て。私が何とか闇喰を食い止めるから……紺兄を取り戻してきて。お願い。」


『朱音……しのごの言わず、キッスなのよ……』


「い、いくよ……シャロット……」




 朱音は神と二度目の合体をする為、シャロットの小さな唇に自らの唇を重ね合わせる。

 神と一つになった朱音は真っ赤なオーラを身に纏うと拘束していた鎖を消滅させる。


 闇喰は凪子と環奈を跳ね飛ばし、朱音を見据える。


 朱音の中でシャロットは言う。

『あち……朱音……長くは保たないのよ……作戦があるのよ……ごにょごにょ。』

「えっ⁉︎こ、紺兄に……⁉︎うぅ……分かった……正面から一気にいくよ……!ゔぁぁぁっ!」



 朱音は凄まじい気力を放ちながら闇喰との距離を詰める。闇喰は鎖を放つが、その全てが蒸発、距離は更に縮まる。

 それならと黒剣を投げ付けるが、それは朱音の肩をかすり後方の木に刺さる。


『ちぃ!クソがぁっ!』


「遅い……!紺兄、お願い闇喰に打ち勝って!」



 朱音は闇喰、もとい当真紺の身体に抱きつくようにして、ダイレクトに唇を重ねる。すると朱音の光が紺に流れ込むように移動を始める。抵抗する紺をしっかり両手両足でホールドした朱音は、更に深く、深くまで紺に入り込んでいく。


 やがて光を失った朱音は地面に膝をつき、送り込んだ神に全てを託す。

 朱音の身体から紺の身体にシャロットを送り込んだ訳だ。その負担は並みのものではなく、朱音は朦朧とする意識の中、兄を見上げる。


 メンバー全員が息を呑む。



 紺は悪魔の断末魔のような、奇っ怪な雄叫びを上げながら地面に頭を打ち付ける。もがく、もがく、全身を掻きむしるように、血反吐を吐きながらのたうち回る。


 やがてそれは止まり、紺の瞳に光が宿った。

 それと同時に、紺の身体からシャロットが吐き出されるように排出された。

 コロンコロン、ポム、といったコミカルな転がりっぷりはシャロットならではだ。


「……あ、お、俺……朱音……皆んな……俺は……」


「ば、馬鹿……もう……おかえり、紺兄!」


 朱音は紺に抱きつくと真っ赤な顔を隠すように彼の胸にピタリとくっついて離れない。勿論、藍音も、凪子も、環奈も、せつなとみくりも、全員が帰還した紺に飛び付いた。


「あ、ありがとな皆んな……もう大丈夫だ。」


「お礼ならシャロットに言わないと!」


 朱音の言葉で皆はシャロットに視線をやる。幼女神シャロットはペタリと地面に座りながら、照れ臭そうに舌を出した。

 左腕、右脚を失ったシャロットの姿は痛々しく見てられないが、紺は彼女の前に屈み優しく頭を撫でてやる。シャロットは頬を赤らめた。


「……帰るか、シャロット?」


 皆がシャロットに笑いかける。

 しかし彼女は首を横に振る。


『もう、お別れみたいなのよ……紺。』


「何弱気になってるんだよ?俺の中で回復に専念すれば……お前は神さまなんだろ?このくらい、きっと治せる。」


『駄目なのよ。いま、わたちの身体には闇喰七体が封印されているのよ。またいつ飛び出すか分からないのよ。でも、それを消し去る方法があるのよ。』


 シャロットは目を合わさず、少し名残惜しそうに涎を垂らすと、


『こんなことなら、もっとプリンを食べておけば良かったのよ。それだけが心残り。

 わたちがこのまま死ねば、わたちの中の闇喰も共に消滅するのよ。だから、帰るのは無理なのよ。』


「お、おい……そんなんで……」


『いいのよ。わたちは皆んなに迷惑かけてしまったのよ。だから……その責任は取るのよ。』


「シャロット……」


『……ロリ紺、最期にもう一度だけ、頭を撫でて欲しいのよ……』


「最期とか言ってんじゃねーよ……!」


『……お願い……紺……』


 シャロットは真っ直ぐに紺を見つめる。大きな瞳は微かに波打つ。

 朱音は言った。


「紺兄……」


「朱音……分かった……こうか?」


 紺はシャロットの鏡のような、銀色に輝く髪を優しく愛でるように撫でる。頬を真っ赤に染めたシャロットは、笑顔で、しかし涙を流しながら震える声で言った。




『これが……じ、ゆう……なの……よ……』




 鍵穴のついた首輪は弾け飛び、光の粒となり消えた。光を放ち始めたシャロットは屈託のない笑顔を見せる。その姿はとても綺麗で、

 それこそ神、女神そのものだと、その場の全員が思ったに違いない。




 こうして幼女神シャロットは、消滅した。




 所謂、死を迎えたのだった。

 それと引き換えに、自由を得て……







 時は過ぎ、八年後。

 妹達も高校を卒業、立派な大人になりつつある。

 手もかからなくなり紺は仕事を始める事に。とはいえ、知り合いのお店の弟子入りからだが。


「紺くん、焼きプリン追加お願い!それとドライアイスが足りない!」


 大きな胸を弾ませながら店内を忙しなく走り回るのは桜だ。そう、紺は桜の店で働いていた。


「桜、これドライアイスな!」


 kokonoe洋菓子店は大繁盛。きょうも客足が止まる事を知らない。

 そんな慌ただしい店の奥から小さな女の子が歩いて来ては二人に声をかける。


「パパ〜ママ〜お腹空いた〜」


 当真紺と、当真桜の娘だ。

 二人はあの後、更生委員会の活躍で何とか結婚まで漕ぎ着けたのだ。

 お店の名前は九重の名前をそのまま使っている。休みの日になると妹達も遊びに来る。店舗を増築した事で僅かながらイートスペースも設けた。


 それが功を奏し、飛躍的に忙しくなったのだ。

 そして今日は学校帰りの藍音が寄り道に来ている。勿論、みくりとせつなの三人で。

 すると朱音達三人も店にやって来る。


「紺兄、シャロット六つ持ち帰り〜!」

「はいよ。朱音、藍音も来てるけど一緒に食わないのか?」

「あ、私はこれから皆んなでホームパーティなんだから。勿論男の子も来るんだからね?」


 朱音は卒業して直ぐに一人暮らしを始めた。こうして良く集まっているみたいだ。

 相変わらず細身の朱音の胸は、申し訳程度に膨らんでいる。

 しかしながら、貧乳のお姉さん方を横目にスイーツを堪能する高二組の藍音の胸は、桜並みの立派なものに成長していた。


 もはや背も朱音より高く、大人びている。しかも三人共。みくりは見違えるほどに美人に、せつなは白い髪が更に際立つミステリアス美女に。

 凪子、環奈は自らの小さな胸を手を当て、ため息をつき、顔を見合わせて笑う。


「こりゃ完敗だね〜」

「だな。くそー、朱音!今夜は食べるよ!」

「そ、そうだね……」



 そうこうしていると、桜が焼きプリンを箱につめてレジに立った。


「はい、シャロット六つお待ちどうさま。」

「ありがとう、桜さん!」



 kokonoe洋菓子店、名物。

 クリームたっぷりの絶品焼きプリン。


 名称は、


 ——————『シャロット』と名付けた。



 彼女が好きだった事、ずっと忘れないように。


 今も何処かで、涎を垂らしている事だろう。




 JSらんぶる☆ろりこん更生委員会っ!




 ————————————完、なのよ。




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JSらんぶる★ろりこん更生委員会! カピバラ @kappivara

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