#57 当真紺vs更生委員会



 時間の止まった町を駆け抜ける委員会一同は息を切らしながらも何とか祭りの開かれていた公園まで辿り着いた。


 朱音の勘が正しければ、異能力者である自分達を狙って来るに違いない。彼女達は各々、息を呑みながら来るであろう最強の敵を待ち受ける。


「……来た……」



 鉄の擦れるような音、ジャラジャラといった金属音が鳴り響き、紺色の瘴気を纏った鎖が空から雷の如く落ちる。無数のそれが弾けそこから姿を現したのは、当真紺だった。

 病院からそのまま抜け出した来たような、そんな白い服の紺は死んだ魚のような目で待ち受けていたメンバーを睨み口元を緩める。


「こ、紺兄……?」


『……やはりお前は力が強いな、女。大人しく停止した時間の中にいれば、何も感じる事なく兄に喰われられたのにな。』


「だ、誰……?紺兄じゃ……ない?」


『いや?この身体は確かにお前の兄、当真紺の身体だ。紺色の魔力、無の器をもつ現在では唯一の存在。その身体なら我々の力を全て束ねる事も可能という訳だ。ついでにお前達の力も吸収して、俺は神を殺す。』


「神を……?……まさか、シャロットを!」


『あ、アレか?アレは壊しちまったぞ。用済みだからな。アレの最期の顔……クク、思い出したら笑えるぜ?人形のくせによ、一丁前に涙なんか流してよ〜、クハハッ、寺ごと破壊してやったよ。

 断末魔すらあげる事も叶わずな。』


 朱音は空いた口が塞がらないといった表情で男をみる。男はケタケタと高笑いを上げている。

 そんな男に凪子が言った。


「おい!つまり今はその姿をした悪い奴って事でいいんだよな?……なら、やる事は一つ!」


『ほう?どうする?』


「ぶっ飛ばして引きずり出してやるさ!」


 凪子は拳を握りしめ自らの足元に風を纏うと、地面を蹴り男に殴りかかる。拳は男の顔面を捉えたかに見えたが……


「うあぁっ⁉︎」


 凪子の身体はくの字に折れ弾き飛ばされ、無残に地面を転がっていく。


「凪子ちゃんっ⁉︎こ、紺兄!なんで……?」


『だーかーらー、お前の兄はいないっての。俺が乗っ取ってやったからな?お前は最後にとっておくか。強いやつが敗北に歪む表情は何度見てもいいからなぁ!』


 朱音の身体に鎖が巻きついていく。朱音はそれを振り解こうと暴れてみるが、拘束は固く身動きを封じられてしまう。

 ここに来て紺の拘束魔術が真価を発揮するのだからタチが悪い。


『まずは一人。』


「えっ⁉︎」


 狙われたのはみくりだ。一番戦闘能力が低い個体を潰しにかかった、という事だろうか。

 瞬時にみくりの懐に入った闇喰はゼロ距離で衝撃波を放つた。みくりの小さな身体は見事に吹き飛び凪子のいる辺りで止まる。

 みくりは一撃で動けなくなり、地面を這う。


 続いて後方から奇襲をかける環奈を視認する事なく鎖で捉える。


「にゃっ……⁉︎」


 猫化した環奈の力は常人の理解を超えた力だ。それを駆使して鎖を引き千切った環奈はそのまま闇喰に猫パンチを喰らわせた。


『効かんな。そんなものは……さて、この野良猫にはお仕置きが必要みたいだ。』


 再び鎖を呼び出した闇喰は環奈の首にそれを巻き付け、高く吊るし上げる。鎖が喉に食い込み息が出来ない環奈は暴れて抵抗するが、間もなく動きが止まり力無く両腕を垂らすと痙攣する。

 猫化は解け、もはや窒息死は免れないと思われたその時、闇喰の首元に暦せつなが噛み付いた。


「ちぅ〜……!」

『……じゃ、ねぇぞこらぁ!』


 首を締め付けていた鎖が消え、環奈が地面に落下する。咳き込みうずくまる環奈の目の前で噛み付いたせつなが地面に叩きつけられている。

 せつなの身体が地面を跳ねたと同時にその白い髪を掴みもう一度叩きつける。


 何度も、何度も、繰り返し。


 声も出なくなったせつなを助けるべく体当りをする藍音を軽くかわし、せつなを放り投げた闇喰は体勢を崩した藍音の背中を蹴る。

 顔から地面に落下した藍音は朱音の目の前まで転がっては止まる。小さな身体を何とか奮い立たせ起き上がろうとする藍音の後ろには、鎖を刃に変形させた黒剣を振りかぶった闇喰が迫る。


 ケタケタと奇っ怪な笑い声を上げながら、狂人が迫る、迫る、せまる。


「や、やめてお願い!藍音には手を出さないで!お願いだからっ……」


『くははっ……そう言われちゃ〜逆に目の前で首をはねたくなるな〜』


「いや……嫌っ……は、はなして!や、やるなら私を殺しなさいよっ!み、皆んなには手を出さないでお願いだからやめてよっ!紺兄!」


『だから、俺はお前の大好きなお兄ちゃんじゃないっての。ま、全員をお前の目の前で痛ぶり殺した後、一日かけてジワジワとお前を殺してやる。その間、己の弱さを悔いながら泣き喚いて命乞いをしてみせろよ?それでも殺すけどな!』



 当真紺の顔をした闇喰は、躊躇なくその黒剣を振り下ろした。





 モノクロの空に、細く小さな腕が舞う。



 そして、それが地面に落ちる。



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