第8話 オケラ
残業が終わり、首をしめるネクタイを緩めながら、僕は会社を後にする。
最寄駅から電車を乗り継ぎ、自宅まで歩く。
途中いつも寄るスーパーで夜食を買いに店内に入った。
ふと青果コーナーで足を止める、季節の野菜や果物が視界に彩りをはなつ。
「夏か・・・・」
そうつぶやくと僕はスイカを手に取りレジへ持って行った・・・・、あの日の夏を想いだしながら。
土のニオイがする熱い日差しの中、小さなオケラを手に閉じ込めると指の間を通ろうとしてくる。
その力に少し感心しながら、指の間から土と一緒にオケラを手放す。
オケラはすぐ足元の土に落ち、土の中に必死でもぐって行く。
心の中で二十秒、数えてから僕はまた、オケラを土の中から掘り出す。
それを何度も何度も繰り返す。
するとオケラは徐々に動きが鈍くなり、最後には土の上で止まったまま動かなくなる。
ふと遠くから、おじいちゃんの声が響いた。
「おーい、スイカだぞぉ」
僕はそのままおじいちゃんのいる方へ走り出した。
あの時のオケラはその後どうなったのだろうか?
スイカを見るとそのとき、ことを思い出す。
幼稚な支配者を気取ったものによる、哀れな被害者。
ふと思うあのときのオケラは今の自分自身じゃないだろうか?
情報という名の土を無意味に掻き分けながら、やがて力尽きるまで僕は働き続ける。
パソコンを打つ指は劣化し繰り返す計算をする脳は錆付く。
時計の秒針の音は僕に感情を持つ資格すらないことをささやき続けるのだ。
「ようこそ、終わりのない世界へ」
オケラの声が聞こえた気がした。
世界をかえたいものがあがく詩 水時 恵 @cmmk
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