3 主人公、オトナの世界へ!?

 詳細は省くが異世界転移した僕は幼女に襲われたんだが謎の能力で撃退したのでエラい人から呼び出しを食らった件。ラノベ。

 というわけで荒野の中をさまよう僕と、その同行者2名。


「ここに町のようなものはないんですか? 家屋とか一切見られないんですが?」


 さすがに気になったので同行する神祇しんぎかん・ミランダさんに聞いてみる。

 記憶の糸をたどるように、ミランダさんはあごに手を添えつつ答える。


「町。家屋。そうですね……伝承という形でしか存じておりませんが『タイ・ヴォーン』の時代は各個人で住宅を作り、それがいくつも集まり町や都市と呼ばれていたそうですね。どのようなものか想像もつきません」


「ということはみんな洞穴で生活を……!? 不便じゃないんですか!?」


「そうですね。大きな洞穴があれば、そこにみな身を寄せ合い暮らしています。不便などはありませんよ。みな同じ場所で暮らしている仲間ですから」


「そ、そうですか……」


 ひぃー……陰キャの僕だと耐えられなさそう。

 異世界、やっぱり楽園じゃない。


「ふん、『ディアントス』お得意のキレイゴトね。みんな一緒にいること、みんなに見られながらそれに合わせて生きること。それがある種の人たちにとってはどれだけ苦痛か。アナタたちは知らないんだわ」


 もうひとりの同行者・パーピィはその説明に不服そうだ。

 ふざけた口調をしてない点に一面の真実を語ってるっぽさをビンビンに感じる。

 社畜の苦しみを味わい尽くした身からすると、ミランダさん個人に好意を抱いていなければ、僕はこちらのほうに同意したいところ……


「……勘違いなさらないでください。あなたは捕らえられ、連行されている立場ですからね。神聖なる力で結んだその首輪、ユルいとおっしゃるならもっと締め付けたって構わないんですよ?」


「まあまあ、そのへんで……」


 最近はこうしてふたりのあいだをなだめるのがすっかり僕のポジションになった。時々ミランダさんって怖いというか、ちょっとSっ気あるよね……

 落ち着いたところでパーピィがこちらをチラッと見たあと、気になることを口にしはじめる。


「オトナの世界にはなんでもあるわよ」

「オトナの世界……!?」


 確か『イーチャ・ラーヴ』とオトナの世界『アーダ・ルート』があるんだっけ?


「そう。オトナの世界」


 ニタ~~ッとした笑みを浮かべる。

 マジトーンから一転、パーピィらしさがにじみ出てきたぞ……

 こいつ絶対なんかよからぬこと考えてるな……


「オトナの世界には美しい都市文明も、物質的豊かさも、社会的幸福も。すべて整ってる。天国みたいな世界よ。オトナの世界『アーダ・ルート』へは、相手と結ばれたと認められれば召される。イってみたいと……思わない?」


 そう言ってまた下半身あたりをなでてくる。

 心の底から抵抗しようと思えば『アーン・ラメェ』――例の盾で近寄れなくすることもできるんだろうけど、あれはどうやら意識的に出せるものではないらしい。


 心が生み出す絶対防御の障壁。あれ? なんかこんな設定どこかでげふふん……

 つまりは、それが展開されていない限り、ある意味で僕はこの状況を望んでいる、ということになろう。

 


 そりゃあそうですよ。

 男なら誰でも、美少女にえっちな誘惑されたいに決まってるでしょ!



「そこまでです」

「きゃうううん! ……きゅう」


 首輪に気を送り込み、小悪魔美少女を懲罰するミランダさん。

 気を失うパーピィ。


「キューヤさまにあれこれ吹き込むのはおやめなさい。神罰です!」


 言うことを聞かないガキを躾でわからせた、とばかりにどこか恍惚ささえ抱いてそうなツヤツヤした表情だ。



 かようなやり取りがあったことで、休息を余儀なくされたわけだが……

 意図せずミランダさんとふたりきり。

 

 あのナマイキ幼女がしょっちゅう僕を誘惑してくるおかげでこういう事態は実はよくあったりするのだけど……


 岩陰に寄りかかって座りながらの、至近距離。

 いつまでも慣れない。鼓動が早鳴る。

 やっぱり僕の想い人はこの人しかいないと思わされる。


「……キューヤさま、いつもすみません。こちら側の都合で付き合っていただいているのに、こうして休憩ばかりでなかなか進まず……」


「い、いえ、何を言ってるんですか。ミランダさんは悪くないですよ」


 むしろ『付き合っていただいてる』というお言葉ひとつだけで無限のトキメキ童貞的青春センチメントのシーズンですよ。嬉しみで言葉選びがイミフですよ。


「……キューヤさま、気になりますか?」

「はひゃい!? な、なにがですか!?」


 まさか、僕の気持ちを見抜かれた!?


「……さっきあの子が言っていたことです。もうひとつの世界について」


 ……あっ、そっちのことね。

 そりゃあ気にならないと言われれば嘘だけど。


「キューヤさまはこちらの世界、そしてあちらの世界の強制力を無効化する力をお持ちです。それは男性から身を護るための神聖なる加護を無効化する力。本来男性は女性からの赦しがないと近づくことすらできないのです」


「あ、ああ……あれはそういう……」


 以前パーピィに襲われたときに振り払うことができたのも、初対面のミランダさんに近づくことができたのも。

 たぶんだけど、それはたぶん僕が、彼女らが禁忌扱いにしている過去――

 『タイ・ヴォーン』からタイムスリップしてきた存在だからだろうな、というのは察しがついた。


「誠に申し上げにくいですが……キューヤさまの能力は、我々『ディアントス』が築き上げた女性優位の秩序を根本から崩しかねない、危険な力です。なので、恐らくしばらくはこの世界で留めおかれることとなると思います。もうひとつの世界へ行くことは、少なくともある程度の期間叶わないと思ってください」


「あ、ああ……」


 目のハイライトが失われていく感覚。

 社畜でも味わったけど、こんな感覚をまたここでも味わうこととなるとは……僕は異世界へきても自由がないのか。

 ということは僕は想い人と結ばれて別世界の楽園に行くこともできない、と。

 

 

 聞いてないぞ異世界──────ッ!



「そう……あなたは危険なのです。それは、私にとっても」

「……え?」



 えっ何この話の流れ――と思ったときには、唇と唇が触れ合っていた。



 !?!?!?!?!?!?!?!?



「もうひとつの世界なんていらないじゃないですか。私とずっとこの世界で……」



 ……!? 


 ちょ、ちょっと……!? 

 これ……ひょっとせんでも、そういう意味ですよね!? ね?!


 なんなんですかこの荒れ果てた世界で僕は純愛していいんですか!?

 思わぬタイミングで僕の想いが実現しそうなタイミングで、例の小悪魔による横槍が入る。

 

 こいつ……起きてたのか!

 このアマあと少しってところで!


「させないわ~~~~~♡」

「くっ……! キューヤさまから離れなさい!」


「ムダぁ♡」


 パーピィは僕の手を首輪へと押し当てる。



「――!? 神聖なる力が……効かない!?」



「キューヤにその力は効かないみたいね~~~~♡ ということは、このオトコさえつかまえ続けていれば、あたしはあんたのくびきなんかに屈しなくていいわけ♡ ああ~~~~~久しぶりの開放感、気ん持ちイィ~~~~~♡♡」


「キューヤさま! その悪魔を拒んでください! あなたが心の底から拒んでしまえば『盾』の力がはたらき振り払えるはずです!」


「ふふっ……♡ 心の底から拒む……果たしてできるかしらねェ~~~?」

「……!?」



 ああっ……前の時なんかとはまったく違う! なんだこのけしからん手癖は!

 完全に『堕とし』にきてる……! 

 こんなの僕のグランドマウンテンが隆起し屹立し大いなる滝の流れを呼び覚ましてしまう!


「何も考えずに……イっちゃえ♡ イっちゃえ♡」

「ああうン……ッ♡」

「キューヤさま!? お気を確かに!」


「あたし達『ブラック・オパール』は『タイ・ヴォーン』の理想郷を取り戻さなきゃならないの! そのためになんとしてもこのオトコを『アーダ・ルート』へと送り込み、このオトコの力であんた達のクソッタレな秩序を破壊しなきゃならない。だから……キューヤ、あたしと一緒にイって? 天にのぼっちゃおう?」


「ああ──────ッ! なりません! なりません! 婦女子がみだりに肌を露出など……不浄なッッ!」

「ミランダちゃんにはこぉ~~~~~んなこと、できないわよね♡」

「んなっ!?」

「うわっ……!」


 そう言って、小さな身体で僕の上に覆いかぶさってくる。

 こんな小さな女の子に押し倒されちゃう日が来ようとは、社畜時代の僕に教えたって信じちゃくれないだろう。

 

 小さいながらもしっかりと女の子していて、正直これ以上は我慢できる自信がない……アセダックスなのか、アセダックスが始まってしまうのか!?



「~~~~~っ! ……キューヤさま、こちらを見てください!」



「んはァ~~~~~!? な、何をしておられるんですか、ミランダさんはそんなことしちゃいけないんじゃ……!?」


「こうでもしないとオトナの世界へ行ってしまわれる……それだけはなんとしても阻止しなきゃいけないんです……! そのためでしたらこれくらい、なんてことはありません……!」



 そう言いながらも顔めっちゃ赤いじゃないですかやだー!(いい!)


 羞恥に堪えながら僕のためにその豊満な身体を晒してくれている……ここまで想い人にさせておいて、こんなところで僕は負けるわけには、絶対コドモなんかに屈してはいけない……!


「……へぇ。やるじゃない。ライバルとして認めてあげる。いいわ、勝負よ! キューヤをオトすのはどちらか、決着をつけようじゃない!」


「……望むところです! キューヤさんは私が管理します! あなたなんかには負けません!」



 おーい……

 もはや当事者を抜きに進められる争い。



 もうやめて、僕のために争わないで!



 ……これたぶんどっちを選んでも僕しっぽりしっぽりなコースですよね? 

 僕は無事に生きてこの異世界でやり直すことができるのだろうか? 

 甲斐キューヤの運命はいかに!?



「あお~~~~~~~~~~~~んッッ!!!!!」 

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は? 異世界の幼女なんかに負けないが? コミナトケイ @Kei_Kominato

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