味がしないランチタイム

續木悠都

味がしないランチタイム

 最初はお互いに本気じゃなかったし、かといって傷の舐め合いでもなかった。そういうのじゃないけどもただの都合のいい相手、それがしっくりくる言葉だった。

 そういうのから始まる事なんてないと思っていたし、そういうのはフィクションの世界の出来事だと思っていたっていうのに――。

「事実は小説よりも奇なりだよ、大原」

「……そういう事が聞きたいんじゃないのよ、私は」

「分かってるって。かと言って正論が聞きたい訳でもないんでしょ?」

 中学からの付き合いである水野は私の事を分かっているからかあっさりとそう言ってくる。

 平日、会社員として働いている私は作家である水野を会社の近くにあるカフェに呼び出して話を聞いてもらっている状態だ。

 職場は男所帯なためこのカフェでランチをする人はいないから気楽にこういう話ができる。

「そーだよ、正論もパス」

「ああいうのって聞き飽きるっていうか、ただの会話では邪魔でしかないしなぁ」

 ランチセットのハンバーガーを食べながら退屈そうな表情で言う。水野は簡単に同調しないタイプだけどただの会話での正論は言わないように気を付けているらしい。

「それな。……なんかさぁ、水野に話す時点で気持ちは固まってるのよ」

「うん」

「でも言うのが怖い。何マジになっちゃってんのとか言われて縁を切られたら泣ける」

「うん」

「些細な事でも嬉しいって思うような事、するんだよね」

 見た目から入ったのはお互い様、それなのに好きになるのは自分ばかりな気がするっていうか、好きになってしまう自分がいる。

「好きだと響くでしょ、そういうの」

「大分ね」

 ああ、なんて相手に恋をしたんだろう。そう思うと泣けてくよりもに食べてるカルボナーラの味が分からなくなってきた。

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