第8話 新しいメンバー候補
夜一が陰陽師学校に転校してきてから1週間が経った。
初日にあった試合のおかげか夜一はクラス内でも上位に入る実力者と認識され、友達はまだ未だに一人もできていないが、特にいじめられるわけでもなく平穏に学校生活を送れている。・・・本人は友達が欲しいらしいが。
今日もいつもと同じように一限目の授業の用意をしようとカバンの中から筆箱やら教科書やらを取り出し、席に座る夜一。
「鬼頭くんだよね? 今暇かな?」
紫色の髪に紫色の瞳を持つ穏やかそうな顔が印象的な少年が夜一の前の席に座り、唐突に夜一に尋ねた。
「暇だけど・・・君は?」
「ああ、そういえば自己紹介してなかったね。僕の名前は
そう言って春木と名乗った少年は右手を出す。夜一は「よろしく」と言ってから出された右手を右手で握り握手を交わす。
「それで、鬼頭くんに一つお願いがあるんだ。もしよかったら僕たちと呪術を使った試合をしてくれないかな?」
「いいけど、なんで?」
「実は先週の14対1の試合で君に負けてから僕たちの班リーダーが荒れててね、一昨日ついに仲間に理不尽な暴力を振るい始めたから違う班に移動しよう思ったんだ」
「・・・それは、誠に申しわけありませんでした」
「ああ、別に鬼頭くんが悪いわけじゃないから謝らないで。・・・話は戻すんだけど、僕たちと試合してくれないかな?」
「いいけど、班を移動するのと、俺と試合するのとではなんの関連性があるの?」
「それは・・・」
夜一の問いに春木は少し申し訳なさそうな顔をして、
「実は僕と一緒に班を抜けようとしてる幼馴染がいるんだけど、その
そう言い、頭を下げた。
夜一はそんな春木をみてから真白をみていいかどうか目線で尋ねた。なんでわざわざ尋ねたかは一週間前の14対1で夜一が倒れた後、勝手に試合は受けてはいけないという約束を夜一は真白と交わしたからだ。
「その試合、2対1?」
突然真白が春木に質問する。
春木はいきなり、というか初めて話しかけられて驚く。が、すぐに質問の返答を返す。
「もちろん同じ班である姫月さんも参加してもらって構わないよ」
「わかった。私も参加する」
「・・・それは、試合を受けてくれるって受け取っていいのかな?」
目線で夜一に訊く春木。
夜一はゆっくりと首を縦に振った。
「じゃあ、放課後になったら実戦練習場に集合で」
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今日一日の授業が終わり、夜一と真白は戦えるよう服を着替え、実戦練習場で春木たちを待っていた。
誰にも言っていない非公式な試合だからか先週の14対1の試合の時と比べて実戦練習場にいる生徒は少ない。というか真白と夜一しかいない。
そんな中、真白は夜一の目を見据えて、
「夜一、今日は私もいるから、無茶しないで」
と、夜一に言った。
それを聞いて夜一は苦笑いをする。
「わかった、頼らせてもらうよ。・・・今のうちに作戦を立てたいんだけど、真白はあの二人について何か知ってることある?」
「いつも小さい女の子と一緒にいることぐらいしか知らない。1学期はあまり人と関わらなかったから」
使う術や、使う武器のことについて知りたかった夜一は突然の春木ロリコン疑惑が浮上し、引きつった笑みを浮かべる。
「・・・そういえば、真白はあの二人が同じ班になってもいいの?」
「別にいい。それに、春木くんと一緒にいた女の子は何度か私を気にかけてくれてた」
「そうなんだ。じゃあ、真白と友達になれるかもしれないんだね」
「・・・友達?」
「そう、友達」
「なれると、いいな」
真白は嬉しそうな顔をする。そんな真白の表情を見てあまりの可愛さにドキッとする夜一。
「やばい、好きになりそう・・・」
「え、何か言った?」
夜一は思ったことをついつい口にしてしまう。だが、不幸中の幸いと言うべきか真白には聞き取れなかったらしく、夜一はなんでもないとはぐらかす。
真白はそんな夜一を不思議に思ったが、特に深く訊かなかった。
それから少しの間無言の間が続く。
「ごめん、お待たせ」
そんな無言の間を実戦練習場の入り口から身長が低いが、大人しそうな見た目の少女を連れて入ってきた春木が破る。
「・・・取り込み中だった?」
「いや、大丈夫。むしろ少し助かった。・・・それで、その小さい娘が春木の言ってた娘?」
夜一がそう尋ねると、突然夜一の顔に一切の躊躇のない全力高速パンチが炸裂し、そのままフィールドの端の壁まで吹き飛び、壁に衝突する。
殴り飛ばされ、壁に衝突した夜一は気絶したのかピクリとも動かなくなった。
「小さいって言うな!」
春木の後ろにいた小さい少女が呪装がかけられた拳を突き出した状態で動かなくなった夜一に言った。
春木はそんな少女の行動を見て右手で自分の頭を押さえ、やれやれと言わんばかりに首を横に振りため息をつく。
一方真白は夜一が殴り飛ばされた後すぐに夜一の元に向かい、治癒符を使って夜一のを回復させている。
「夜一、起きて」
壁にもたれかかったまま動かない夜一を真白は肩を掴んで体を揺する。
「う、一体、何が起こったんだ?」
目が覚めたのか夜一は目を開けて殴られた箇所を触る。真白が治癒符を使ったとはいえまだ痛みは消えておらず、夜一はいててと声をあげた。
「夜一くん、ごめんね。その、一応紹介しておくと彼女の名前は
「お前、小さいからってなめるなよ!」
春木の紹介が終わると同時に鶴は呪装を解除し、人差し指を夜一に向けてそう言った。
「ご、ごめんなさい?」
夜一は見た目からは想像できない鶴の言動に戸惑いつつも謝罪をする。
それを聞いて満足したのか鶴は友達にゲームで勝った子供のような誇らしげな顔で、
「わかればいい。これからは気をつけろよ!」
と言った。
「試合前から何やってんの」
春木が鶴の頭にチョップをお見舞いする。直後、鶴は涙目になり、頭を両手で押さえて春木を睨む。
そんな鶴を春木は気にするようなそぶりすら見せずに、夜一と真白の前に立って頭を下げる。
「試合前からごめんね、僕たちはもう準備が終わってるから二人が良ければ試合を始めれるよ」
「わかった、じゃあ始めようか」
夜一と真白、鶴と春木はそれぞれ少し距離をおき、夜一と真白は刀を構え、春木は呪符を指に挟み、鶴は折紙でおられた鶴や虎、龍に蛇と言ったたくさんの動物たちの絵が描かれている扇を手にする。
「僕たちから行かせてもらうよ!」
最初に動いたのは春木たちからだった。春木は走りながら呪文を詠唱し体に呪装をかけて夜一に殴りかかる。
夜一は刀に呪装をかけ、春木の拳をかわし、刀の柄を春木の腹部に向けて突き出す。だが、春木は体をひねり夜一の攻撃を避け、その勢いを使い肘を夜一の顔にめがけて振る。
夜一はギリギリでそれを避けるが、春木は夜一が避けると予測していたのだろう。肘を夜一の顔めがけて振った少し後に春木は夜一の横腹めがけて右足を振っていた。
夜一は予期していなかった足蹴りに完全に面食らったが、体を後ろに引こうとバックステップを踏む。だが、間に合わない。
夜一は半ば諦め、攻撃に備えるが、
「無理はしない約束」
そう言って真白が夜一の襟元を掴み引っ張り、それにより春木の足蹴りは空を切った。
真白は夜一を引っ張ると同時に自身の体を前にやり、春木めがけて刀を振るう。だが、刀は一枚の呪符に塞がれる。
「吹き飛ばせ」
呪符は春木がそう呟くと同時に爆発して真白を吹き飛ばし、後ろにいた夜一を巻き込んで地面になんども衝突しながらフィールド上を転がる。
夜一は真白を抱えて刀を地面に突き刺し、壁に衝突する前になんとか踏ん張り、すぐに治癒符を爆発を直に受け火傷を負っている真白に使おうとする。が、夜一は自身の周りに呪符でおられた鶴が浮遊しているのを目にし、とっさに真白を抱えてその場から離れようと足に力を入れ横方向にジャンプする。
「逃さない」
夜一の足に何枚も折紙を連ねておられた蛇が絡みつき、横方向に跳んだ夜一の体を真白もろとも地面に叩きつける。そして、夜一の周りに飛んでいた呪符でおられた鶴たちが白く発光し爆発する。
「ドォォォォン!!」
フィールド上に前が見えなくなるほどの白い煙が舞う。その量から爆発がどれだけ大きかったのか想像できるだろう。実戦練習場のフィールドの端にある壁は爆発の余波で罅が入り、観客席を守るために作られた結界も限界を示しているかのように罅が入っている。
「あれ、やりすぎちゃった」
そんな状態の実戦練習場を見た鶴はそう呟いた。
アヤカシを喰らう者 空式_Ryo @Ryou77
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