4.さようなら

 さて。東の空が少しだけ明るくなってきたね。やっと僕の今日の仕事は終了だ。どうだった、僕の仕事ぶりは。けっこうカッコいいもんだろう。まあ確かにお客様の荷物をぶちまけるっていう失敗はしたけど、でもさあ、猿も木から落ちる、カッパも川に流される。お坊さんも書き間違えるし、何でも屋も失敗はするよ。え、言い訳だって? そんなあ。もっと僕のこと褒めてもいいだろ。

「だって僕は君の言葉をお母さんに伝えてあげたんだからさ」

 僕は少し前を歩く男の子に不平を言った。男の子はちらと振り返り、まだまだとでもいうように肩をすくめる。男の子はずっと、僕に対してちょっと厳しい。

「言っとくけどねえ。君、ちゃんと人間の男の子になれてるつもりみたいだけど会った時からなれてなかったからね」

 男の子は目を丸くして驚いた。やった。ちょっと仕返ししてやった。

「からだなんて見えないし、言葉も全く違ったんだよ。人間の言葉と幽霊の言葉は違うんだ」

そりゃあ僕はわかるよ。僕を誰だと思ってるんだい。聞き飽きた? ひどいなあ。でも、僕がいたおかげで君の気持ちはお母さんに届いた。飛行機事故で亡くなったから空港から離れられなくて、自分では伝えに行けなかったんだろ。もう大丈夫だから安心して。そろそろお父さんのもとに行ったら? 五年もここに留まってるだなんて。心配してると思うなあ。

 男の子は僕の言葉に悲しそうに首を振った。そして、大きな窓の外にいる飛行機を見つめる。

「ああ、そっか。空はまだ怖いか。じゃあ僕の友達を紹介してあげる」

そんなに怯えなくても大丈夫だよ。昼に話した小鳥さん。朝日が昇り切ったら出発するみたいだから連れて行ってもらうといいよ。あ、今なんて言った? ははは。ごめんごめん。だってありがとうだなんて、君が素直になるとは思ってなくてさあ。うん。僕はたくさんの言葉が話せる空港の何でも屋だよ。こんなのお安いごようさ。それじゃあ。よい旅を。

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空港の何でも屋 @miura_umi

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