第9話 悪霊退散

 路地から出た。右にある広大な空き地から、乾いた風が吹いてきた。深広は破れたスカートを手で押さえた。

 この辺りは薄暗くて、人通りも少ない。破れたスカートを履いていることを思えば、人がいないのは助かる。


「こっちです」

 男は深広の数歩先を歩いている。


 スカートを手で押さえながら深広は暗い路上を小走りして、男についていく。

「助けてくれて、本当にありがとうございました」

 歩きながら礼を言うと、男は首を振った。

「まだです。僕の力では外では除霊ができませんから」

「私はまだ幽霊にとりつかれてるんですか?」

 ぞっとして、声が震えた。

「寺まで行けば大丈夫です。あそこでなら、僕にも何とかできます」

 男は足早に歩き、深広もそれにならって足をつかつかと動かす。


 歩美の霊が体の中にいる。男が何らかの力でそれを封じ込めてくれているけれど、急がないとまた動き出すかもしれない。そう思うと、ゆっくりはしていられなかった。破れたスカートを気にしている場合じゃない。下着が見られるのと、首を絞められるのと、どちらを防ぐべきか。優先順位は考えるまでもない。


 駅の裏に出て、小さな商店街を抜けた先に、男の寺があった。

 境内を進み、木造のお堂に案内された。正面には大きな仏像が置かれている。

「ここに座ってください」

「除霊をするんですか?」

「はい、そうです」

 深広は言われるままに、座布団に座った。

 男が深広の前に立ち、お経のようなものを唱えながら、手をすり合わせる。

 すると、急に深広の首が締め付けられた。

「待ってください。急に苦しく……」


「そうでしょうね」

 男は冷たく言い放つ。


「あなたは半年前、あの公園で殺されました」

「どう、いう……」

 男が手をすり合わせるたびに、息苦しさが増していった。

「歩美さんの霊に祟り殺されたんです」

「だって……それ、は、あなたが……」

「歩美さんの霊は、恨みを晴らして消えました。しかし、代わりにあの場所に囚われてしまったのが、あなたです。夜中になると、悲鳴が聞こえると相談されて、除霊することになったんですよ」

「わ……たし、が?」

 微笑みながら肯くと、男はさらに呪文を唱えた。


「お願い。助けて……」


「駄目ですよ」

「だっ……て。わたし、悪いこと……なんか……」

「あなたは悪霊です。いるだけで悪いんです。悪霊は退治しないといけません」

 深広は座布団から経ち、屋外に出ようとした。

 しかし、お堂の中と外は見えない壁に隔てられているみたいで、外には出られない。


「どう、して……。いや……、助けて…………」

「逃がしませんよ。ここは結界の内側です。言ったでしょ。外では無理ですが、ここでなら僕の力でもあなたを除霊できるんですよ」


 鼻先で笑い、男はパンッと手を叩いた。

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アンデッド・タウン @strider

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