第8話 助けの手

「お願い。誰か助けて!」

 不意に首が楽になり、大きな声が出た。


 涙と鼻水で汚れた顔もそのままに、深広は周囲を見回した。

 小さな滑り台。ビニールシートでふたをされた砂場。青白く光る投光機。その光の中に、ピカピカ光る球体が浮かんでいた。球体の下には黒い袈裟(けさ)を纏った体がついている。

「あなたは!」


 路地に入る前に出会った男だった。

「だから、この辺りには幽霊が出るって話したじゃないですか」


「助けてくれたんですか?」

「まあ、そうですね。来たんです」

「歩美はどうなったんですか?」

 男は寺の住職だと言っていた。着ている服にも霊能者っぽい雰囲気がある。彼が歩美の幽霊を除霊してくれたのだろうか。お経を唱えるとか、塩を振りかけるとか、方法は良く分からないけれど。

「いえ、除霊はできるんですけど、ここではちょっと」

「じゃあ、どうなってるんですか?」

「とにかく、ここを離れましょう。こんな真夜中に、変死事件があった場所で話し込んでいたら、警察を呼ばれちゃうかもしれませんし」


 男は深広を引き連れて公園を出た。

 細い路地を歩いて、駅の方向へと進む。

 途中で歩美が泣いていた街灯の前を通りがかった。街灯は煌々と深夜のアスファルトを照らしている。街灯の根元には真新しい切り花が供えられていた。

 ブゥン、カンッ。街灯に向かって、大きな虫が突っ込んでいく。

「どこに行くんですか?」

「いったん、僕の寺に来てください」

「寺ですか?」

 警戒した深広に男は笑顔を向け、太ももの辺りを指差した。


 スーツのスカートが大きく裂けていた。もがいたときに破れたのだろう。ジャケットも砂で真っ白に汚れている。

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