第14話 消したい記憶

私が誰かに依存しなければ生きて行けなくなったのにはきっかけがあった。





それは高校三年の樹々が秋の色に染まり始めた頃。


部活で帰りが遅くなってあたりはもううす暗くなっていた。


いつもなら1人で帰ることなんかほとんどないのにその日に限って私は1人で。


公園を抜けた方が早いから


たったそれだけの理由で抜け道の公園を歩いていた。



公園に足を踏み入れた時はまだあたりは薄暗い程度だったのに歩いているうちに辺りはどんどん暗くなり


街灯があるその道ではまだそれほど恐怖は感じていなかった。


雑木林を抜ければ家はすぐそこで

このまま街灯のある道沿いに歩いて行くより10分程早く家に着く。


私は迷うことなく雑木林に足を踏み入れた。


そこは鬱蒼と木々が生い茂り月明かりすらも拒んでいるようで。

もう2度と此処から帰るのはよそうと心に決めて先を急いだ。



その時だった。


誰かが私の腕を掴んだのは





「さなちゃん。危ないよ?こんなところ1人で歩いてたら。」


「え?だれ。はなして」



誰?と問うた私に相手の目の色が変わり掴まれた腕に痛い程に力が込められた。



「痛いっ離して。あたしかえるから。」


「ぼくのことわからないの…………?」


会話が噛み合わない。

恐怖で体が震えて。振りほどいて走り出したいのにうまく体が動かなくて。



中肉中背のその男には全く見覚えなんかなくて。



瞳を揺らして立っているその姿に嫌悪感を覚えた。


「やだっやだっ離してッ」


「なんで、なんで、僕はずっとさなちゃんだけを見てるのに。ねえ。」


嫌悪感も恐怖も通り越して吐き気が襲い足にも力が入らなくて。

呼吸も上手くできなくて。


気付いた時にはその男に組み敷かれていた。


でも抵抗する事はおろか声を出す事も出来なくて。

なんとか必死で呼吸をして。

でもすごくすごく苦しかった。

涙でぼやける視界にはその見覚えのない男が必死に快感を追っている様子が移っていた。





気付いた時はもうその男はいなくて。

悪い夢だったと思いたかったけど乱れた制服を見れば行為が行われた事は明らかで。





「さなー!さなー!ッッ」



翔ちゃんだった。

帰宅しない私を心配してみんなで探してたって。



あたしの姿を見て察したであろう翔ちゃんは自分の上着をあたしにかけてくれて。

そっと抱きしめてくれた。


そこに言葉はなかったけど。

でもすごく安心して涙が止まらなくなった。



わぁわぁと子供のように泣きじゃくり呼吸が乱れるあたしの背中をまるで小さな子をあやすように優しくトントンしてくれて。


「ゆーっくり息して。苦しくなるよ。

もう、大丈夫。俺がいるから。」


「こわっかったぁッしょちゃん」


「うん。なんも言わなくていいから。大丈夫だから。帰ろ?みんな心配してる。」


おっきな手で頭なでてくれて。

ほらって向けられた背中は大きくて。


安心し過ぎて眠ってしまった私は気付いたら家に居た。



家には警察が来ていて。男の特徴とか色々聞かれて。怖かった事沢山思い出したけど。

翔ちゃんはずっとそばに居てくれた。


その後、その男はすぐに捕まったけど。

私の心には深い傷を残していったんだ。

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