第13話 Monday

朝起きれば陽平は居なかった。


まあ、平日なのだから当然といえば当然だが。


重だるい身体を起こしてストレッチをしてシャワーを浴びる。


今日は大切な会議があるから切り替えなければ。


そう思おうとするけど「俺だけのものになんない?」って言葉が脳みそにこびり付く。


そんな想いを抱えたままお気に入りのスーツに身を包みヒールを履けばまた強い私に戻れるから。きっと。



少し早めに家を出て隣駅のコーヒーショップまで歩く。



いつもより色んなことが頭をよぎる。



陽平のこと。翔ちゃんのこと。それからこれから会うあの人の事。



ぐるぐるぐるぐる



強い私でいなきゃいけないのに。



「おはようございますー」


今日に限って出勤しているのはあのひとだけだった


「おう、今日もがんばれよー!」


やたらご機嫌であたしに話しかけてくる。


「紗奈」


「なんですか。係長。」


突然名前で呼ばれてドキッとする自分にイライラが募る


「社内で名前で呼ばない約束ですよね。」


畳み掛けるようにそう言えば何故か余裕の笑顔で。


「だってまだ誰も来ないじゃん」


「そうゆう問題じゃないです。私、準備あるので。」



おなじ空間に2人っきりが辛過ぎて会議室へ向かった。準備と言う口実で。



あの人にとって私は一体なんなんだろう。


考えても考えても答えは出なくて。

私は何がしたいんだろう。



私はあなたのなんですか。


いっそ陽平のものになれたら。

そんな想いが一瞬頭をよぎった。




涙で視界が歪んで会議の準備は全然進まない。






「紗奈ーおはよ!」


現れたのは同期のゆうりだった。


私の様子で察したんだろう。


優しく笑って会議の準備をしてくれた。



「大丈夫。紗奈は間違ってないよ。大丈夫だから。切り替えて!今日も頑張るよー!」



明るくそう言って会議室から出て行った。



また一人きりの会議室。


そろそろ始業時間。

いつもの私に戻らなきゃ。



深く深呼吸をしてデスクへ戻った。


pcには今日飲みに行こうとゆうりからのポストイット


そこに描かれていたラクガキに顔が綻んだ。


斜向かいのゆうりにOKとアイコンタクトを送りお互い笑いあった。


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軽く残業を済ませ8時からのヨガに間に合うように会社を出た。



「大丈夫?紗奈」


「なにが?」


「色々と?あんたすぐ抱え込むから。」


レッスンを終えたロッカールームで待ち切れずにゆうりは話題を振ってきた。


「別に今に始まった事じゃないし」


「そりゃそうだけどさ。最近また一段と痩せたし。ちゃんと食べてる?今日は紗奈の好きなの食べよ!」


ゆうりの笑顔を見てるだけで元気になる。

あの頃と変わらないゆうりの笑顔。


あたしはあの頃とは違う。



お馴染みの焼き鳥屋でお酒が進んで。



「ねえあたしってあの人のなに」


そんな馬鹿な質問をゆうりにしてしまった私。


「不倫相手でしょ。だって係長結婚してるし。そこそこ奥さんとだって上手くいってるみたいだし。」


「そうなんだけど。そうじゃなくて。」


「どうゆう存在かってこと?」


「そう。」


「優しいよ。かっこいいし。でもさ、本当に優しい人は不倫なんかしないし。きっと係長はさ紗奈じゃなくても良いんだよ。あんたがいなくなったらきっとあんたの代わり作ると思うし。そこにあんたが疑問を持ってるなら今が潮時じゃないの。4年もずるずるしてきたんだから。うちらも本当の幸せ見つけなきゃ。まあ、あんたは見つかってるのかもしれないけどさ。」


いつになく真剣にでも笑顔でそう告げられて自分の気持ちが余計わからなくなった。

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