第6話 神様

 という物語がありました。

 怪獣と魔法使いに関する記憶を消す作業を始める。この世界には、怪獣も魔法使いもいなかった。隣では、レンが自作のアプリケーションを消去する作業をしている。例の、魔法使いに変身するアプリと、怪獣を操るアプリ。もう必要ないから。

「それで、紫苑 ユイの存在も消すのかい?」

手を休めずにレンが訊く。当然。決めていたことだから。

「私がこの事件の元凶だからね。私が世界の行方に迷わなければ、こんな出来事は起こらなかった。ちゃんと消えるよ。最初からいなかったことにする。私ありきの幸せなんて、悪いよ。」

 そもそも、私・紫苑 ユイは神様なんだよ。世界を創った神様。皆と同じ世界に住んでいるなんて、おかしな話でしょう。だから、もう皆とは関わらない。誰も私を思い出せない。誰にも辛い思いはさせない。本来の形に戻すだけ。これからは、空の上から、存続する世界を見守ることにする。

 「レンは残るんだよね。」

 確認。最初はレンも消すつもりだった。レンは私の分身。怪獣と魔法使いの管理は、一人じゃ大変だから、私が創ったの。

 「うん。唯月が、待っているから。60年くらいは人間してみるよ。」

 レンは予定を変更させた。唯月が大那に向けた言葉。あれが影響しているんだと思う。

 「ユイも、もう少し人間でいても良いと思うよ。星香も、碧も、君を待ってる。」

 知っていた。私たちは友だちだ。最初は、魔法使いの観察のために近づいただけだったけれど、二人が教えてくれた。友だち、というものがどんなものか。おかげで、私は知っている。二人は私を待っている、私のいない生活には満足できない。

 「でも、私のいるべき場所じゃないでしょ。」

 「誰にも辛い思いはさせない、だろう。」

 レンが意地悪く言う。私の考えが揺れていることは、お見通しだろう。だって、レンは私の分身。もとは同じ。きっと考え方だって。

 「そうだねえ。」

 私は適当に返事をした。





 町はいつも通り。壊れた建物は一つも無し。学校もいつも通り。欠席者ゼロ人。男の子たちは、教室の隅で騒いでいる。

 「おはよう、星香、碧。」

 私は神様。もう少しだけ、この目線から世界を見守ることにする。

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らりりるれれっ! 多ダ夕タ/ただゆうた @yuuno02x31

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