むかし、むかしの出来事です。
どこにでもいる少女は、ある晩、夢を見ました。その少女は、5歳か、6歳くらいだったと思います。
夢の中では、緑色で、ゴツゴツした怪獣が、家の中で暴れていました。
やぶれたカーテンの隙間から漏れる光を反射して、割れたテレビの液晶が、キラキラと輝いていました。
お父さんとお母さんも、恐ろしくって、我が子を守るので精一杯でした。
そんな中で、勇敢にも怪獣の前に踏み出したのは、少女でした。
右手には、紙が握られています。そこには、緑色のギザギザが描かれていました。
「怪獣さん、描いたの。お友達になろう。」
少女は怪獣に、その似顔絵を手渡しました。
そして仲良くダンスをしました。そして朝になって、少女は目を覚ましました。
夢が終わりました。似顔絵は無くなっていました。怪獣さんはどこにもいませんでした。
少女は成長しました。高校生になりました。
あるところに、絵を描くことが大好きな少女がいました。しかし、なぜ、絵を描くことが楽しいのか、分かりませんでした。
才能があるわけでは、ありませんでした。褒めてくれる人よりも、指摘する人の方が、たくさんいました。
それでも、少女は絵を描きました。自分の絵で、誰かが、自分が、幸せになれる、気がするのでした。
夢の力って、大きいと思います。
遅刻する夢を見たら、二度寝をやめますし、忘れ物をする夢を見たら、いそいで荷物を確認しますし。
形は残らないけれど、何か、目に見えない、残るモノがあるのでしょう。
それは小さなモノかもしれないけれど、大切にしてください。きっと、素敵なものです。