エンディング

私の目の前を、白髪の男の子が歩いて行く。


天体観測の帰り道。

男の子にしては少し長めの白髪を、ほんのちょっとだけ三つ編みにしている。

昔の私の髪型を真似したんだよって言ってた。


記憶をなくした私は、昔の私を覚えていない。

彼が幼馴染みだということも知らない。


でも、真っ白に全てを忘れたわけじゃないみたい。

時々脳裏をよぎる、遠い微かな思い出。

波の音が静かに寄せる、淡く儚い朱色の記憶。

楽しそうに声をあげて走る、あの子はキミ?


思い出す度にじんわりと気持ちが温かくなるから、きっと大切な記憶なんだろう。

でも、大切な物を思い出す代わりに、大切な物を失う-そんな予感がする。


だから、昔の記憶に触れるのがちょっと怖いんだ。


私にとっては、今一緒にいるこの時間が楽しくて大切だ。


だから――


もう一度、流れ星に願ったことを呟く。


「今の何でもない楽しい日が、ずっとずっと続きますように」


「うん?何か言ったか?」


幼馴染みが、振り返る。


「いーえ、何でも」


首を振って、幼馴染みの所まで駆けていく。


これは私の、私だけの秘密だ。





ーFinー

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星と記憶と 有里 ソルト @saltyflower

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