エピローグ

 私の人生に、初めての衝動を与えてくれた彼女。

 私の世界に、鮮やかな色彩をつけてくれた彼女。


 私は何度も考え、迷い、一度は失敗した。


 それでも。


 私は彼女に、この気持ちを、この言葉を伝えたい。


 ずっと長い間、考え、考え、考え抜いた。

 私と彼女の違い。私が彼女に釣り合うのか。


 私の迷いは、きっとこの世界の“普通”に、私の感情を照らし合わせたせいで発生したのだと思う。


 この世界に満ち溢れる“普通”や“規範”は正しいものかもしれない。だが、その正しさは絶対的ではない。

 きっとそれらは、事あるごとに変動するものなのだ。


 今の私は、そんな陳腐なものよりも、見据えるべきものを知っている。


 それは、私の中で息づく感情。

 それは、私の中に新星の如く生まれた衝動。


 それらを見据え、分析し、解剖し、『単なる自分本位のものか、それを超越したものなのか』と整理していく。

 

 何度も考え、何度も思った。

 何度も焦がれ、何度も想った。


 そして私は結論を出す。


 私は迷わない。

 自身の中の衝動を、感情を、しっかりと見据えた果てに、私はこう思う。


 ああ、やっぱり彼女が好きだ、と。


 だから、その気持ちを言葉に変えて、口にしよう。

 そしてそれは、『そういった関係になる・ならない』、なんて些末さまつなことに拘泥こうでいしない、純粋な言葉となるはずだ。


 私達の間には、様々な情報のラベルがある。

 今は友人。あるいは、それ以上あれ未満かもしれないけれど。


 二人の心の交わり、それが深まれば深まるほど、私たちの関係を表す情報のラベルも変化していく。


 私達の心が通じ合ううちに、陳腐な言葉や属性なんてものは、入り込まなくなるはずだ。


 とにかく。

 私は彼女のことが大好きで、何よりも大切だ。


 そして、この気持ちと同様の気持ちを、彼女も抱いてくれている。

 あの日を彼方に置き去った今、私はそれを確信している。


 だから、私は口を開くのだ。


 不惑の勇気。

 衝動と感情を正しく解析した答え。

 彼女に対する真摯な思い。

 そして不動の強い意思。


 それらに裏付けられた一言。


 それを、真っ直ぐ。

 彼女に向けて発する。


「好きです」


 果たして。


 私の言葉を聞いた彼女は。

 嬉しそうに、微笑んでくれた。



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