ネコと涙とれーぞんでーとる

monaka

ネコと涙とれーぞんでーとる


 気が付けば辺りは真っ暗で

 ここがどこなのかを思い出そうとしてもいまいち頭がはっきりしない。


 なんとなくおぼろげにパパとママの顔は思い出す事が出来たが、どうやらここには居ないらしい。


 ここはどこなのか、そして今はいつなのか、僕はどうしてこんな状況になっているのか……何も解らない。


 解らないというより思い出せないという方が正しい気がする。


 ただ、この真っ暗な場所がとても怖くて

 すぐにでも逃げ出したくて


 だけど踏み出す勇気もなくて……。



 陽が昇り窓から光が差し込んでくるまでずっと僕は身動き一つとれず蹲っていた。


 小さな窓から照らされた部屋は、うすぼんやりとだけど部屋の中を確認する事ができた。



 八畳くらいの少し広めの部屋。

 そして、壁一面を埋め尽くすよく解らない機械たち。

 人が一人入れそうなサイズのガラス製カプセルのような物が幾つか地面に転がっていて、そのほとんどはどこかしら壊れたり穴が開いたりして辺りにガラスを撒き散らしていた。


 真っ暗の中むやみに動き回らなかったのは正解かもしれない。

 きっと怪我をしていただろう。


 部屋を一通り見回して記憶を呼び覚まそうとしてみたがやはり思い出せそうにない。



 そして、やっと自分がどういう状況に置かれているのかを把握した。


 自分が蹲っていた場所、自分が目覚めた場所もカプセルの一つだったのだ。


 僕が入っていたカプセルは、壁に設置された機械の一部だけ不自然に埃がつもっていない場所がある。きっと僕が入っていたカプセルはそこにはめ込まれていたのだろう。


 機械の老朽化、或いは何かの要因で僕の入っていたカプセルが壁から地面に落ちた。


 その拍子に僕の眠りが覚めてしまったのだ。



 少しだけ思い出してきた。


 パパとママの言う事は難しくてよく理解は出来なかったけれど、「この世界はもうダメだ」「せめてあなたは生きて」そんなような事を言っていた。


 そうだ。

 確か、これから起きる……大災害? のせいで世界が滅ぶ。だから、その災害が落ち着いて世界がもし平和で穏やかな環境になっていたら……。

 その世界で生きてほしい。



 そう言って僕をこの機械に押し込んだんだ。



 僕は泣いた。

 大声をあげて、泣いて、抵抗した。


 パパとママが死ぬなら僕が生きている意味なんてない。


 二人と一緒じゃなくちゃ僕の存在価値なんて何も無い。



 そう思っていたし、それは今でも変らない。



 だけど僕は生き延びてしまった。



 この部屋を見る限りその大災害というのがおきて、もうパパもママもこの世にはいないんだろう。


 死んでしまったのだろう。


 そして、多分長い長い時間が過ぎた。



 そうじゃなきゃパパやママの部屋がこんなに荒れ放題になっているはずない。



 僕は、こんな所で一人どうやって生きていけばいいの? 

 教えてよ……。



 パパとママは科学者だった。

 とってもとっても優秀な科学者だった。


 そしてとっても優しい両親だった。

 ……もしかしたら僕が目覚めた時の為に何か用意してくれているかもしれない。


 少なくともこの部屋には無さそうだけど……。



 仮に何かがあったとしても風化してしまっていたら……。

 僕が目覚めるのが想定よりも遅かったら。

 二人の好意を無駄にしてしまっているかもしれない。

 それが怖い。



 ……いや、パパとママの事だからきっとどのくらいの期間でカプセルが落下し、僕が目覚めるかも計算されたものである可能性が高い。


 なら、その期間を耐えられる方法で何かを残してくれているかもしれない。


 まずはこの家を散策してみよう。

 何か見つかるかもしれないし、何かを残してくれているならそれを見落としてはいけない。


 ゆっくりと立ち上がり、割れたガラス片に注意しながら崩れかけたドアを開けて部屋の外に出る。


 すると、部屋の外もやっぱり埃まみれの長い廊下が続いていた。


 この家こんなに広かったっけ? 


 記憶がまだ少し混乱しているみたいだ。



 下手に触ると崩れてしまいそうな部分もあるので気を付けて先へ進む。


 幾つか部屋を見つけて入ってみたが特に何かがあるようには思えなかった。


 そして、最後に辿り着いた部屋。

 そこは僕の知らない部屋だった。


 そもそもこんな部屋がこの家にあっただろうか? 

 研究所と住居を兼ねたここはかなり広く、部屋数も沢山あったが、この部屋はまったく記憶に無い。


 忘れているとかじゃない。


 ……と、思う。



 それに、ここが隠されていた部屋だという事も解った。

 ボロボロに風化して剥がれ落ちた壁紙の裏にその部屋はあった。


 綺麗な家のままだったら僕は一生気付かずにいたかもしれない。


 なんだかドキドキする。

 この家に知らない場所があったなんて。


 そこはパパとママの秘密の部屋だったのかもしれない。


 もしかしたら、入っちゃダメな場所なのかもしれない。



 いろいろな意味でドキドキする。

 知らず知らず鼻息を荒げながら扉らしき物を押すと、ぐぎぎと音を立てて扉が崩れてきた。


 瓦礫に挟まれそうになって慌てて飛びのく。



 わくわくのドキドキが、恐怖のドキドキに変っていた。


 その一瞬の出来事で僕の好奇心はへし折られてしまい、奥へ進む事が怖くなってしまった。


 数分そこで考えて、やっぱり先に進むしかないと自分に言い聞かせる。


 おっかなびっくり一歩また一歩と崩れた瓦礫を乗り越えると、そこには地下へ続く階段があった。


 こんな所に地下室があったのか。


 不思議な事にその階段には埃がほとんどない。

 それどころか、壁に見つけたスイッチを入れると電気が点いた。


 まだここは電気が通っている。

 でも発電所とかそういうのが無事とは到底思えなくて、可能性としてはこの地下に自家発電機能が備わっているという事だ。


 きっと施設全体をまかなう程の発電力はないんだろう。


 それだけここが大事な施設だったのかもしれない。


 ……だったら僕もここに保管してくれればよかったのに。


 そんな事を考えて、少しだけ嫌な気持ちにもなったのだけれど……よく考えたらそれはそれで困るんだろう。


 機械がきちんと作動し続けたら僕が目覚められないかもだし、そんな未来に目覚めるように設定できるのだろうか? 


 これが何年、何十年くらいならなんとか制御も出来るのかもしれないけれど、もし何百年単位で経過していたら? 


 パパとママの考える難しい事はさすがに僕に全部理解する事なんてできないし、きっと何か理由があったに違いない。



 後ろ向きな事を考えていても仕方ないし、今は先へ進もう。


 そして階段を最後まで下りきると、拍子抜けってくらい小さな部屋が現れた。


 キラキラしたライトに照らされたその部屋は、四畳無いくらいで、狭いけれどとても綺麗な空間だった。


 ……この部屋はなんだろう? 


 小さなテーブルと、その上に小さな箱。

 それと、もう少し大きな箱。


 ……したきりすずめ? 


 確かどっちの箱がいいですか? 

 みたいな。


 欲張りが大きな箱を選ぶと痛い目にあうやつ。


 僕の頭に浮かんだのはその物語だった。



 ……なので小さいほうを開ける。


 そこには、小さな紙切れが入っていた。



『愛しき私達の子。この世界が平和になる頃、目覚めたあなたはきっと大変な思いをする事になるでしょう。私達を怨んでもいい。それでも、あなたに未来を託したかった。生きていてほしかった。勝手な事をしてごめんなさい。一人では辛いでしょうからパートナーも残す事にしました。知っていると思いますがとても頼りになる相棒なので安心してください。今、目覚めてこれを読んでいる私の子。世界は……綺麗ですか? まだ確認していないでしょうか? 世界を崩壊させたのは人間、つまり私達が星を汚染し、無理をさせたから終りを迎えたのです。私達がいなくなった世界ですから……緩やかにでも、平和な世界へと戻って行く事を信じています。あなたの人生が素晴らしき物になりますように』


 ……これはママの字だ。

 途中で視界がぼやけて上手く読めずに、最後まで読みきる頃には大分時間が経ってしまっていた。


 とても、とても大切に思われていたのが伝わってきて涙が止まらなかった。



 パパ……ママ……



「ねぇそろそろいいかしら?」


「うわぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁっ!!」


「きゃぁぁぁぁっ!!」


 なんか、なんかいる!!


 僕がびっくりして振り返ると、何かがテーブルから転げ落ちた。


 ……大きな箱が、空いてる!?



「んもう……急に大声だすからびっくりしちゃったじゃないのよ!」


 何かがテーブルの下から僕に向けて文句を言っている。


 恐る恐る様子を伺うと、なんというか……


 とても可愛い。



「……猫?」


「え? ……あぁ、そうね。猫よ。悪い?」



「いや、悪くはないけど……」


 そうか、これが手紙に書いてあったパートナーって事か。


「忘れちゃった? 私の名前はエリナ。宜しくねタスク」


 たすく。


 そうだ。僕の名前はたすく。

 佑と書いてたすく。



「君は今の状況を理解しているの?」

「あたりまえでしょ? 私を誰だと思ってるの? ……まぁ、タスクよりは理解してるつもりよ」


 そう言って猫、もといエリナはぺロリと舌を出して笑った。


「それよりタスク。あなたもう外は見た?」


 外って、家の外の事だろうか。

「ううん、まだ」

「なら一緒に見に行きましょ。きっとびっくりするわよ♪」


 エリナは器用に後ろ足だけで立ち上がって二足歩行で僕を先導した。


 猫だけど猫っぽくない不思議な生き物だ。


 そもそも人間語を話す猫は猫なのか? 

 いや、むしろ生き物なのか? 

 ロボットとか何かなのかもしれない。


 あのパパとママの事だからそれくらいの事があってもおどろかない。



「ほら早くしなさいよおいてくわよ?」


 頼もしいパートナーって言ってたけど、頼もしいというより偉そうというか横暴というか……


「ほらほら見てみなさいコレ! すっごいんだから!」


 ……まぁ、可愛いからいいか。



 僕はどうやら猫が好きらしい。

 たとえそれが二足歩行で人語を喋る猫でもだ。


 ただ目の前でぴょんぴょん跳ねながら手を振って僕を呼ぶエリナはエリナとしても可愛らしいと思う。



 そんな事を考えながらエリナのところまで行き、導かれるまま玄関から家の外を眺める。



「うわぁ……」


 あまりの景色に眼を丸くして見入っていると、隣でエリナがドヤっているのが視界の隅に映った。


 別に君が誇らしげにする事じゃないだろう? 


 なんて言葉は自分の中に飲み込む。

 言ったらきっと飛び蹴りをくらう。



「すごいでしょ? さすがに二千五百年も経つと世界の支配者は植物に落ち着くのね」


 建物内には一切植物が入り込んでいなかったので想像もしていなかったが、家から五十メートル程度先からはまるでジャングルのようだった。


 この家は丘の上にあるので、眼下に密林が広がっているのが解る。


「どうしてこの家の周りは植物に囲まれてないの?」


「んー? 私が手入れしてたってだけよ?」


 ……猫が、庭の手入れ? 


「ちょっとまって、どういう事?」


「何がわからないのよ頭悪いわね……パパとママ特製の除草剤撒いてただけよ」


 あぁそうか。パパとママはエリナにとってもパパとママなんだな。


「ってちょっと待って」


「何よさっきから私の事待たせてばかりね」


「君はいつからその作業してるの?」


 除草剤撒いたからって植物がすぐになくなるわけじゃないし長い事ここを管理してなきゃこうはいかないだろう。


「んー? そうね、三百年前くらいかしら? タスクが全然起きてくれなかったから私だけで大変だったのよ? だから建物の内部はあの部屋だけ綺麗にしてあとは無視よ無視。そこまでやってられないわ」


 ……はぁ? 


「え、君はそんなに前から目覚めてここの管理をしてくれてたのか?」


「そうよ? 私の偉大さが解ったかしら? そういう意味では私は三百年あなたの事を待ってたんだから今更ちょっと待て、くらいの待ては待てるけれどね」


 そう言ってまたペロっと舌を出して笑う。



 どうやらそれが癖のようだ。

 可愛いから良し。


 そしてやっぱりエリナはサポート用のロボットか何かなのだろう。

 そうでなければ生物が何百年も生きていられるわけが無い。



「さすがに十年くらいはタスクが居た部屋も綺麗にしてたんだけどいつまで待っても目覚めないからもういいやって諦めてたのよね。だから目覚めてくれて嬉しい反面、おせーよっ! って感じかしら」


「……なんかごめん」


「私もさすがに一人じゃ寂しいしこうやって話相手が出来て嬉しいわ♪以前より雰囲気が柔らかくなっていい感じよ? これからよろしくね」


 以前……? 

 僕が眠りにつく前からエリナはサポートロボットとして近くにいたのだろうか。

 記憶が曖昧で思い出せない。

 誰か小さいのがいた気がするのでそれがエリナだったのかもしれない。

 早く思い出してあげないとエリナにも失礼だし僕もすっきりしない。

 とにかくこの環境に適応して生き延びて、素晴らしい人生にしなきゃ。

 きっと記憶もエリナと一緒に居ればだんだんはっきりしてくるはずだ。



「僕に出来る事なら出来るだけ手伝うからこっちこそよろしくね」


 僕がそう言うと、可愛らしい猫の顔がくしゃっと歪んだ。


「……はぁ? 何言ってんの? これからは頑張るのはタスクよ。自分の立場わかってんの?」



 ……うわぁ。


 これはどういう意味で受け取ればいいんだろう。

 サポートしてくれる相棒じゃなかったのかよ。


 僕がメインで頑張って、それを少しだけ手伝ってくれる相手って事なのか? 



 まぁ男の子の方が頑張らなきゃいけないっていうのはいつの世も変らないって事なのかな。


「わかったわかった。パパとママが望んだように僕らは素晴らしい人生にしないといけないし頑張らないとね」


「その通りよ♪私の事しっかりサポートしてよね? ちょっと頼りないけど頼りにしてるわ♪」


 ……この子の中では僕の方がサポート役らしい。

 いよいよもって人間味の強い猫である。


「君に手伝ってもらえばきっと素晴らしい人生を送れると思うよ。僕達の存在理由なんてもうパパとママの望みをかなえる事くらいしかないんだから頑張ろう」


「私は手伝わないわよ?」


「……え?」


「は?」


 エリナと僕は顔を見合わせて固まる。


「な、何かお互いの中に絶対的な齟齬というか噛み合ってない部分がある気がするんだけど……」


「そうね。なんかおかしいわ。タスクったらほんとに自分の立場解ってるの?」


 なんだよその言い方。

 僕はエリナの奴隷か何かか? 


「ちょっとしっかりしてよー。せっかくタスクが目覚めて私が頑張らなくて済むと思ったのにどういう事??」


「いや、確かに三百年もずっと頑張ってくれてたのはありがたいし助かったけど、それでも何も手伝ってくれないって……」


「当然でしょ? タスクはタスクよ? 自分の存在理由理解してる?」


「当たり前だよ。僕はパパとママの望み通りに人類最後の生き残りとして素晴らしい人生を送らなきゃならないんだ。その為に……君にも手伝ってほしいんだけど……」



 僕の言葉を聴いて、今まで眉間に皺を寄せていた猫エリナが大きく肩を落としてため息をついた。


「しょうがないわね……」


「解ってくれたみたいで嬉しいよ」


 これからやっと新しい人生がはじま……


「なんか勘違いしてるみたいだから教えてあげるけど、あんたタスクって意味理解してる? それも解らなくなっちゃった?」


 ……??


 エリナは何を言ってるんだ? 


「タスク。自分は何? 言ってみなさいよ」


「だから人類最後の……」


「……はぁ。その、どこが?」


「え?」


 エリナの言っている意味が解らない。

 意味が解らない。


 理解不能。


 僕はあまりの会話の成り立たなさに頭を抱えた。


 ふにっとした触感が頭に触れる。


 あぁさすがパパとママだ。

 肉球の柔らかさまで再現できるなんて。



 ……ん? 


 ハッとしてエリナを見る。


 エリナは猫なのに二本足で立ち、前足で腕組みをしてこちらを見ている。


 つまり


 このふにっとした感触は


「あんた犬じゃん」



 ……意味が解らない。



 僕は人類最後の生き残りで、パパとママに助けてもらってずっと眠りについていて目が覚めて二人の手紙を見つけてサポートロボットの猫型ロボットエリナを見つけてこれから素晴らしい人生が


「サポートロボットはあんたでしょうが」


 理解不能。


 理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解フノウりかいふノウ理カイフ能リカイフノウリカイフノウリカイフノウリカイフノウリカイフノウ


「てか厳密には犬ですらないじゃない」





 ……思い出した。



「まぁ私も厳密には猫じゃないけどさ」



 僕はサポートロボットのタスク。

 佑と書いてタスク。

 人の右、隣に居るべき存在。


 タスク。


 task

 主な意味は『作業』や『仕事』。





 エリナ……

 そう、エリナはパパとママ……じゃない、博士達の大切な娘。


 病気で人としての短い命を終えたエリナ。

 博士達に新しい身体を与えられたエリナ。


 人型の精巧なアンドロイドはまだ技術的に難しかった当時、完成度の高かった小動物型のボディにその脳を移植されたエリナ。

 彼女の頭部には僕と同じ機械製の脳が入っており、人としての彼女の脳はボディの腹部に収納されている。


 機械の身体ながら人の命を持つ存在。

 僕とは絶対的に違う存在。

 僕がサポートすべき相手。


 猫の身体になったエリナはその境遇を嘆く事なく、「さすがパパとママだわ♪」と喜んでいた。

 狭いところも自由自在に出入りできるその身体をとても気に入っていたエリナ。


 大災害が訪れる少し前、博士達はエリナを説得してあの箱に詰め、眠らせた。


 エリナは大泣きして反抗した。

 機械の身体で涙を流して。

 それを見た僕は


 なんだかとても羨ましくなってしまって


 僕もそうなりたい。


 人になりたい。


 そう思ってしまって。



 自分の記憶にロックをかけてしまったのだ。



 だから僕は、自分のこの姿すらきちんと見ようともせず、無意識にエリナの真似をして二足歩行をし、人間であると思い込んだ。



 僕は人間などではなく、来るべき日にエリナのサポートをするためのロボット。


 だからこそエリナもなかなか目が覚めなかった僕を半ば諦めて放置していたのだ。


 自分がサポートしなければいけない相手ならばあんな場所に放置する筈が無い。


 僕が人間などではなく


 パパとママの子供なんかじゃないから


 あの地下室ではなく


 普通の……部屋……に。。





「なんか、ごめんね」


 僕の様子を見たエリナが、気を使うように優しく声をかけてくる。


「まさかそんなにショック受けるとは思ってなかったのよ。タスクって、そんなに人間になりたかったの? パパとママの子供に、なりたかったの?」


 僕の存在理由は


 パパとママの為に

 二人の望みの為に

 素晴らしい人生を送る事。



 ではなくて



 パパとママの為に

 二人の望みの為に

 エリナに素晴らしい人生を送ってもらう事。



 似ているようで全然違う。


「大丈夫? やっぱり私も少しは手伝って……」


「ううん。大丈夫」


「……でも……」


 そんな不安そうな顔をしないで。


 君にそんな顔をされたら僕の存在価値が


「大丈夫です。全て僕に任せて下さい」




 だから


 だからせめてさっきまでのように


 可愛く笑ってみせて。






 僕はサポートロボット。

 人間をサポートする事が存在理由。


 エリナをサポートする事のみが存在理由。



 大丈夫


 大丈夫だから。














 あきらめろ。

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