エピローグ

そして、ものがたりは……

 ようっす。皆のアイドル、全知全能の女神、シルシルじゃ。

 皆の者読者諸氏ここまでお疲れじゃったのう。

 勇者の保護者として召喚された朱鳥翔斗シヨートの物語、如何じゃったかのう?

 この物語はここで幕を下ろすわけじゃが……


 ……うん? なんじゃ? 読者らお主らの中に不満そうな顔をしている者がおるのう。


 ふむふむ。


 まだまだ気になることがあるじゃと?


 双子のその後?

 魔王はどうなったのか?

 魔族と人の戦いの行方は?


 じゃがのう。

 元々この物語は朱鳥翔斗から見た異世界の勇者の物語じゃ。

 彼がすでに日本に戻った以上、語ろうにも語りようが……


 ……わかったわかった。

 ならばほんの少しだけ、アレルとフロルとその仲間達の未来を見せてやろう。

 あくまでも、ほんの少しだけじゃぞ。


 視点の主はショートの次に双子のそばにいた少年――ライトルールじゃ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ショートが消えた後、俺達の前にアレルとフロルが戻ってきた。


「アレル、フロル、よく戻ってきたな」


 言う俺に、アレルとフロルは周囲をキョロキョロ見回す。

 そして、やはりショートはすでにいないと理解し、うなだれた。


「ただいま。ライト、レルスさん、ダルネスさん」


 アレルは無理矢理っぽい笑顔でそう言ったのだった。


 ---------------


 魔王に率いられた魔族の軍勢は、すでに南西の大陸からこの大陸へと続く海峡を渡ろうとしているらしい。


「そうか。じゃあ、アレル達も行かなきゃね」


 アレルはそう言い、フロルも頷いた。


「相手は魔族の大軍勢だぞ、俺達も軍を作るのか?」


 問う俺。

 アレルとフロルは試練を乗り越え、勇者として完全に目覚めた。

 だが、それはあくまでも個の力。

 種族間の戦争となればまた違う話になるだろう。


 だが。


「そんな必要は無いよ」


 アレルは首を横に振る。


「行くのはアレルとフロルだけ……ううん、ライトも一緒に来てくれると嬉しいけど、3人だけでいいよ」


 アレルの言葉にフロルも頷き、俺とダルネスさんは顔を引きつらせるのだった。


 ---------------


 俺達3人は大陸を南西へと駆けた。

 魔王と会うために。

 魔族との戦争を回避するために。


 軍に対して軍で向かい合えば、戦争にしかならない。


 だけど、魔王に対して勇者が向かい合えば。

 あるいは、そこには別の道もあるかも知れない。


「本当は、アレルとフロルだけで行くべきなんだと思う」


 アレルは旅の途中俺にそう言った。


「でも、アレルもフロルも弱いから。誰かと一緒じゃないと不安だから」


 幼い勇者様達は、俺を頼ってくれたのだ。

 レルスでもダルネスでも他の誰でもなく。


 それは冒険者として、戦士として、男としてとても誇らしいことで。

 同時に仲間として、とても嬉しいことだった。


「ごめん、ライト、本当はソフィネのそばに居たかったと思うけど」


 ソフィネのお腹の中には俺の子どもがいる。

 俺達が全てを終えて総本山に戻れるのは、どんなに早くても彼女が出産した後だろう。

 そもそも、戻れるかどうかも分からない旅路だ。

 そこに心残りが無いとは言わない。


「今さら水くさいな。俺はソフィネにも、お前達のことを頼まれたんだ」


 もちろん、ショートやダルネス達にも。

 だから、俺は勇者のパーティとしてできる限りのことをする。


 ---------------


 アレルとフロルからの言葉を携え魔族軍の中央で、俺は魔王と対面した。

 どんな恐ろしい存在なのかと思っていた相手。


 だが、その実体は。


「こんにちは、僕らが魔王です。ライトルールさん」


 そう笑いかけてきたのは、アレルやフロルと同じくらいの子どもの魔族。

 男の子と女の子。

 アレルやフロルとよく似た双子。


 考えてみれば当たり前だ。

 勇者と魔王は対の存在。

 勇者が子どもならば、魔王もまた子ども。


 そして、俺はアレルとフロルからの魔王への提案を話す。


 周りの魔族達は『とんでもない』と騒ぎ立てる。

 今すぐ俺の首をはねるべきだと。


 だが、魔王が一喝する。


「君達は、僕らが勇者に負けると思っているのか?」


 その言葉に、魔族達は押し黙った。


「ライトルールさん、勇者に『わかった』って伝えてもらえるかな? 僕らは受けるよ『勇者と魔王の決闘』を」


 ---------------


 そう。

 それがアレルとフロルからの提案。


 種族同士の戦いではなく、魔王と勇者の決闘にしようと。

 そうすれば、どんなに悪くても死者は4人だ。


 戦争を避けるための、2人の結論。

 俺はそれを見守る。


 甘いかもしれない。

 いや、甘い。

 2人の考えは甘すぎる。


 それで勇者が魔王に勝っても。

 あるいは魔王が勇者に勝っても。


 その先にはきっと戦争がある。


 それでも、アレルもフロルも、魔王も、そして俺も。

 戦争よりは決闘の方がいいと。

 勇者と魔王が命を賭けて、それで全てが解決するのならば、その道を選びたいとおもったのだ。


 ---------------


 決闘の見届け人は俺と魔族の青年。

 魔族の青年は、なんでも魔王が幼い頃からずっと支えてきた者であり、最大の理解者だという。


 彼は言った。


「信じてはいただけないかもしれませんが、魔王様もまた戦争など望まれていません」


 なんとなく思う。

 彼はきっと、魔王にとってのショート保護者であり、仲間なのだろうと。

 俺は答えた。


「信じるさ」

「何故?」

「対になる存在の勇者達も、戦争なんて望んでいないからさ」


 そして。


 勇者と魔王の決闘が始まった!


 この戦いの結末がいかになろうとも、俺はアレルとフロルの想いをかなえる。

 そう決意して、俺は幼き勇者と幼き魔王の戦いを見届けるのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ……と、まあ、蛇足として語るならばこんなところじゃな。


 なに? まだ満足できない?

 結局勇者と魔王はどちらが勝ったのかじゃと?


 さあな。どうじゃろうな。

 そこは読者諸氏お主らで勝手に想像せい。


 あとは……ふむぅ何かあったかのう?


 ああ、そうじゃ、朱鳥翔斗のその後じゃがな。

 ヤツは上手いことやっておるようじゃよ。

 今は中東の村で井戸を掘っておったかな。

 いや、アフリカで発電機を設置しておったかな?


 うん? そんな話は聞いていない?

 いや、それは失礼。


 ソフィネの子ども?

 ああ、無事に産まれたようじゃよ。

 それ以上は知らんが。


 さて、残念じゃがそろそろお別れの時間のようじゃ。

 それじゃあの!

 全ての世界の人々に幸多からんことを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

異世界で双子の勇者の保護者になりました 七草裕也 @nanakusa-yuuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ