『テンプレ』というチートを貰って早数年、そろそろ地球に帰りたい!

宗馬三夜

『テンプレ』というチートを貰って早数年、そろそろ地球に帰りたい!

「はぁ……。またRPGの世界か……」


 引きこもり生活を始めてから10年目の深夜。いきなり頭の中にひびいた「そこのお前、異世界に行かせてやろう。チートは『』な」という言葉と共に異世界転移してから早数年。もう何度目になるだろうテンプレ世界に俺はまた降り立ってしまった。


「えーと……。初めまして! 冒険者志望の方ですね? ようこそ冒険者ギルドへ!」


 昼でもギルドと酒場をねている場所に来た俺は、受付嬢に案内される。

 もう慣れてしまっているが、この後はおどろかれるんだろうな。せめて少しは変わった展開でもあれば刺激になるんだが……。


「ではステータス測定をさせていただきますね! そこの水晶に触れてください!」


 俺は言われた通りに、占いとかでよく使われる水晶玉に触れる。すると水晶に映ったステータスを見て、受付嬢が見る見るうちに驚愕きょうがくしていき、


「こ、これは……! ヤマグチテッタさん? とお呼びすればよろしいのでしょうか? テッタさん、本当に駆け出し冒険者ですか!? 物理も魔法もユニークスキルも、全て網羅もうらできる経験値をすでに所有しているではないですか!」


 受付嬢の言葉を聞いて周囲の老若男女ろうにゃくなんにょがざわめき始める。


「すげえなお前! 魔王も倒しちまうんじゃねえか?」

「ありがたやありがたや」

「お母さん! 僕、あの人みたいになりたい!」

「あの……テッタさん。私、家族のために魔王を倒したいんです! もし良ければ私とパーティーを組みませんか? 戦闘でも雑用でも何でもしますから!」


 そう言って近づいてきた駆け出し冒険者であろう彼女は、俺の腕にしがみついて豊満ほうまん乳房ちぶさを当ててきた。

 ああ、やっぱりこうなるか……。はこういうイベントに歓喜している俺もいたが、ここまで似たような展開だとため息が出るばかりだ。


「テッタさん! 憧れるっす! あんたみたいな人なら女の子にモテモテでしょう? うらやましいなー」


 最初の頃は俺もあいつみたいな若造だったなー。ハーレムができてからはとにかくヤリまくって……。最初の相手は奴隷だったかな? 数え年だけど魔法使いになっちまう前に童貞を捨てれて良かったとは思うが、まさか何人とヤったか忘れちまうほどとはな。今でも最初らへんの女と世界は覚えている。最初はこの世界と同じく魔王を倒すRPGで、その次は魔物に転生。そのまた次は平和だが食事が遅れすぎている世界へ行き、その次は何故なぜかパーティーから追い出されてスローライフ……。ああもう! どうせ全部、俺TUEEEでハーレムなんだからいちいち思い出すな俺! あまりにも回数を重ねすぎて頭が混乱しちまう……。


「テッタさん!」

「あー悪いが俺は一人で旅がしたいんだ。他をあたってくれ」


 どうせ無駄だとわかっているが、俺は胸を当ててきた彼女にそう言い捨てて酒場から出る。

 この展開も何回か試したが、いつも必ずついて来るんだよな……。俺が貰ったチート『テンプレ』のせいで。

 女神様よ、俺はいつになったら地球に帰れるんだ? 世界を救うたびに新たな世界に転移するが、毎回のように似た展開ばかりだとな……。そりゃ最初は楽しかったさ。子供の頃から憧れていた勇者になれるわ女の子にモテまくるわ……。でもな、数百回も繰り返したから言えることだが、あんたが俺に付与ふよしたチートのせいで、どんな世界に行っても展開が読めちまうんだよ!


「ちょっとそこの人?」


 そろそろ地球に帰りたいなー。引きこもっていた頃は現実はクソだと思っていたが、とんでもない。予測できない展開がつねおとずれるってどれだけありがたいことか、今になって身にしみるぜ……。


「あの! 聞こえてますか!」

「あー? 何だよ? 俺は一人でも良いって言ったろ──」


 西洋風の街中で俺に声をかけてきたのは、一人の可憐かれんな少女。

 腰まで届くつややかな銀髪ぎんぱつと、吸い込まれそうな銀の瞳。

 背も顔つきも15歳くらいだが、胸もとを強調した露出度の高い盗賊風の服を着ていて。

 胸は大きすぎず、しかし小さすぎないちょうど良いサイズで。

 これまで何人もの女を食ってきたが、目の前の彼女は俺がつい見惚みほれてしまうほどの美人だった。


「この場所ってどういう所なのか教えてくれるかしら?」

「え?」


 何だ? この世界はいつものテンプレとは少し違うのか! こんな展開は今まで起きたことないぞ!


「えええーと。ここここの場所は魔王を退治するために作られた冒険者ギルドがある街だよ。そそそそこに行けば君も冒険者になれるはずさ!」


 うわっず! テンション上がりすぎて調に戻っちゃったよ俺!


「ふーん……。あんた名前は? 私はクレルラ」

「あ、ちょちょちょっと待って! ふー…………。俺の名前は山口哲太だ。テッタと呼んでくれ! もしかして君も冒険者志望かい? 生憎あいにくだが君みたいな子が目指して良い職業じゃないぞ」


 どんな世界に行っても、こういう子が少しでも傷つくのは見たくないんだよなー。


「冒険者か……。何だか面白そう! ……そうだ。一つ提案があるんだけど」


 あ、この流れはいつものやつか。ちょっとは期待したんだけどやっぱりこうなるのか……。


「どっちが魔王を早く倒すか競争しない? で、私が勝ったらあんたは私の言うことを一つ聞くこと! 良いわね?」

「あれ? パーティーに入ってハーレム展開じゃないのか?」

「は? 何言ってんのあんた。誰があんたみたいなスカした野郎とパーティーなんて組むもんですか!」

「なっ!?」


 やっぱりこの子には俺のチートが効いていないのか!? こんな展開は初めてだ!


「ままままじか! ここここれだよ! ここここういう新鮮さを求めていたんだよ俺は! あはははははははは!!」

「…………えーと。私はさっさとあの酒場に行くわ。さっきの約束、覚えておきなさいよ」


 彼女は俺の言動に対して明らかに引いた顔を見せると、酒場に向かって行った。

 こういう展開って良いねえ新鮮で! 毎回毎回どいつもこいつも撫でるか微笑むだけでほおを赤らめるから、例え彼女が古き良きツンデレだったとしてもありがたいと思える! ……それにしても何で彼女は俺のチートが効かなかったんだろう? どんな世界であっても、俺にとって優しい世界になるはずなのに……。ま、良いか。どうせまた彼女と会うことになるだろうし、そん時にでも聞けば良いか。

 俺はいつも通り、魔王退治の旅に出た。




▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲




「さて、この洞窟どうくつを進めば魔王まで一直線いっちょくせんなわけだが……」


 俺がひきいる勇者パーティは、あと一つで魔王の城へ到達とうたつするところまで来ていた。

 結局、俺はいつものように女の子ばかり連れて、モテまくってヤりまくって無双しまくったが、クレルラと名乗った彼女は一向いっこうに姿を見せてくれなかった。

 それはそれで新鮮な展開だから良いのだが、ここまで来ても彼女が出てこないとなると、実は彼女が魔王でしたーみたいな展開を疑ってしまう。そんな展開はあんまり訪れてほしくないなー……。それに思い返せば彼女の声や仕草、性格や顔立ちなんかも俺の好みにぴったりなんだよな。こう、何だろうか。ここまでぴったりだと性欲よりも愛に近い感情になるっていうか。これまで何人もの女を抱いてきた俺が言うのもあれだが、彼女とは純粋な関係でいたい。だからどこかで死んじゃったとかは本気でへこむからやめてほしいな……。


「テッタ! あそこに倒れている人がいるわ!」


 パーティーメンバーの彼女が指差す方向を見ると、一人の銀髪の女性が血を流して倒れていた。ん? あの子はまさか……!?


「お前らここでじっとしてろ! 俺が彼女の様子を見てくる!」


 俺はできるだけ急いで、倒れている女性のもとに向かう。たどり着くと女性は腹から大量に出血しており、息もえだった。


「お前クレルラだな! 良いか! 死ぬんじゃないぞ!」


 俺は最上級の回復魔法をクレルラに使う。すると彼女は目を開いて。


「あ……んた。……久しぶり……じゃないの……」

「何があったんだよ!? 競争しようとか言ってたくせに姿をあらわさないから心配したじゃねえか!」

「ふ、ん……。あんたに心配される……筋合すじあいはないわ……」


 怪我していてもらずぐちは相変わらずだな……。しかしどうしてこんなになるまで?


「他の奴はどうしたんだ?」

「他の……奴……?」

「パーティーメンバーだよ! いるんだろ?」

「それ……は…………」


 クレルラは何か言おうとしたが、眠りに落ちてしまった。

 しまった! すっかり忘れていたが、この魔法はどんな重傷も治る代わりに寝てしまうんだった!


「ったくしょうがねえな! おいお前ら! 今日はここで野宿するぞ!」


 俺はクレルラをお姫様抱っこして、律儀りちぎに俺の言うことを守っているパーティーメンバーの彼女達のもとへ向かった。




▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲




「…………ここは?」

「お、やっと目覚めたな。ここは俺のテントだ」

「あんたの? は? 何で私があんたみたいな奴のテントで寝ているのよ!」


 クレルラは起きてから早々そうそうそんなことを俺に言う。


「覚えてないのか? 君は腹から大量に出血して洞窟で倒れていたんだぜ? まあ俺が治したけどな」

「あっそ。そんなことしなくても良かったのに」


 これだけ異世界をめぐった俺じゃなかったら何だこのアマと思うところだが、こういう反応を常に返してくれる彼女はやはり素晴らしいとしか思えなかった。


「で、何であんなところで血まみれになって倒れていたんだ? それにお前のパーティーメンバーはどこに行ったんだ? あ、ちなみに俺のパーティーメンバーは別のテントで眠ってもらってるぜ。あいつらとは別のテントにいないと、いっつも俺が襲われちまうからなー」

「キッモ……。誰があんたの夜の事情を言えと言った! それにあんたに私の事情を話す必要あるかしら?」

「ななな何だと! おおお俺がお前を助けてやったのにそれぐらい聞かせてくれても良いだろ! …………やっぱり君は良いなあ」

「あ? 何だって?」

「ななな何でもないよ!」


 ふー……。危ない危ない。テンプレ世界にかりすぎたせいで本音がれちまうところだったぜ。彼女にテンプレが効かないってことは、今までのぬるま湯が通用しないってことだ。焦るなよ俺。ちょっと好意を投げかけただけでれるほど彼女は安くないぞ! ……多分。


「……怪我は多分、魔物から不意打ちでも喰らったんでしょ。それにパーティーメンバーなんていないわ。ここまで一人で来たのよ」

「え? 何で? 君は俺みたいにチートなわけじゃなさそうなんだが……」

自画じが自賛じさんも良いとこね……。あの酒場にも他の場所にも私の条件に合うメンバーなんていなかったわ。それに考えてみれば魔王なんて私一人で充分じゅうぶんでしょうし」


 何だ? もしかしてクレルラもチート持ちなのか? だとしたらすごく残念なんだが……。


「えーと。条件ってどういうものだい?」

「私を支えてくれるメンバー募集! なお最強以外お断りって内容だけど?」


 ああ……。それは集まらないだろうな……。


「多少は募集に応じた奴もいたけれど、どいつもこいつもホラ吹きのクソ野郎だったわ……。さて、確か次だったわね魔王城は。忘れてないよね? 私が勝ったらあんたは私の言うことを一つ聞くって」


 そう言ってクレルラはテントから出ようとする。


「ちょっと待て! いくら何でも魔王を一人で倒せるわけねえぞ! なあ、聞いて良いか? どうしてそこまで魔王を倒すことにこだわるんだ?」


 俺がそう聞くとクレルラは伏し目がちになり、


「……子供の頃に両親が魔王軍に殺されたのよ。私が住んでいた村の人達も含めてね! 私は唯一ゆいいつの生き残りだったわ。どう? これで満足かしら!」


 クレルラは大粒の涙を流しながらテントから出て行った。

 うーん……。そんな展開だったか……。もうちょっとばつな展開だったら面白かったのになー…………。って、何を考えてるんだ俺は!? 女の子の涙を見て面白いかどうか考えるなんて! 俺ってこんなにくさった奴だったのか……。それもこれも似たような展開に慣れすぎたせいだ! ああ、早く地球に帰ってまともな人格になりたい……。


「テッタ。彼女を追わなくて良いの?」


 パーティーメンバーの一人がいつの間にか一部いちぶ始終しじゅうを見ていたらしい。確かに追った方が良いだろうな。だが……。


「少し心配ではあるけど、彼女はここまで一人で来れたんだし大丈夫さ。それに追ってもパーティーメンバーに入ったりしないだろうし、どうせ魔王城までたどり着けずに困っているだろうから、今日は寝て明日の朝に魔王城へ向かおう」


 俺は魔除けの魔法をとなえて就寝準備を始めた。




▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲




「テッタ! ついにここまで来たね!」


 クレルラを見つけた翌日の昼ごろ、俺はパーティーメンバーと共に魔王城にたどり着いていた。結局クレルラには会わなかったな……。

 目の前には玉座の間の門。


「開けるぞ」


 俺が門を開けると玉座のような場所に、頭に角があり漆黒しっこく禍々まがまがしい鎧を身にまとった男が座っていた。

 この世界は人型魔王か。こういうタイプは世界征服とかいうアホみたいな理由か、実は元人間で復讐のために魔王してましたとかなんだよなー……。


「ようこそ人間共! 我が世界征服を防ごうとは愚かなことだ! だがちょうど良い! 昔のクソみたいな夢を見てしまったばかりだからな! 貴様らで軽く復讐させてもらおう!」

「あーどっちもだったかー。まあ良いや。こんな奴はさっさと倒して──」


 玉座の間の右端を見てみると、そこには全身ボロボロになって倒れているクレルラがいた。


「ん? ああそいつか。そいつはぼうにも一人で我に向かってきたものでな。ムカついたので少し本気を出してやったらあっけなく死んだよ」

「は? 死んだ!? おい、嘘だろ……。冗談だよな?」


 俺はクレルラのもとに急いで向かい、脈と呼吸を確認してみるが……。


「ふん。そんなことをしても無駄だ。確かにそいつは死んでいるからな」

「……ざっけんな……ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなああああああああ!!」


 俺は究極魔法の連打を魔王に浴びせる。

 この魔王だけは絶対にちりにしてやる……!


「グオオオオッ! 何だ貴様は! アルティメットメテオをここまで放てる人間なんているはずが……」

「残念だったな! 俺はそういう星のもとに生まれちまったんだよ! さあ、これでとどめだああああああああああ!!」


 俺は究極魔法の中でも最強の威力をほこる、ギガントビックバンを唱えるために詠唱えいしょうを始める。

 するとその時だった。


「な!? 貴様は……! グアアアアアアアアアアアアアア!!」


 上空から急に降ってきた黄金の閃光に魔王が包まれ、断末だんまつをあげながら消えていく。


「な、何だ? あの光は一体……?」

「どう? びっくりしたかしら? これで魔王討伐は私が最初ね!」


 俺の右隣から声が聞こえるので見てみると、そこには使が生えたクレルラが立っていた。


「な……。お前死んだんじゃ……」

「あれ? 言い忘れてたっけ。私は死なないって。確実にあの魔王を仕留しとめるためにわざと死んだふりをしていたのよ。そしてあんたが魔王を引きつけている間に私が最強の一撃を浴びせる。いやー、実に愉快だったわ!」


 し、心配させるなよ。つい久しぶりに熱くなっちゃったじゃないか……。


「で、その翼は何だよ? まるで天使か女神のようじゃないか!」

「あら。私の声で気付かなかったのかしら? 私はあなたをよ。あなたの退屈だという心の声が常日頃つねひごろから聞こえていて、私も神様稼業に飽きていたからこの世界に来たのよ。いやー、楽しかったわ! 魔物をばったばったとなぎ倒していくのは! でもそれだけじゃすぐに飽きちゃうから、たまに苦戦したりもしてね」


 嘘だろ、それでチートが効かなかったのか!? さすがにこんな展開は予想ができなかったぞ……! ん? いや待てよ。


「テントから出る前に両親がどうとか村がどうとか言ってなかったか?」

「あれは適当についた嘘よ。ああいう展開になったら、あんたはみじめにも私を追いかけて引き止めるんじゃないかと思ったのよ。まあ、予想は外れたけどね。さて! 約束通り私の言うことを一つ聞いてもらいましょうか!」


 女神が俺に聞いてほしい願いごとって何だろうか? まさか、色んな異世界に介入かいにゅうしすぎたから死んでほしいとか……?


「ノルマも達成したし、飽きたからあんたには地球に帰ってもらうわ。元々、面倒な異世界救済を手っ取り早く済ませるためにあんたを送り込んだんだしね」


 そんな理由だったのか……。まあ良いや、地球に帰してくれるのならむしろよろこんで聞こうじゃないか。……いや、待てよ。


「地球に帰ったら、もしかして君にもう会えなくなるんじゃないのか?」

「ええ、そうだけど」


 せっかくこんな可愛い子に出会ったのに引き裂かれてしまうのか! そんなの嫌だ!


「じゃ、じゃあ断る!」

「何でよ!」

「確かに地球に帰れば退屈から解放されるだろうよ。でも君に会えないのなら、二度と地球に帰れなくても構わない!」

「は、はあ!? 地球に帰してやるって言ってるのにどうして断るのよ?」

「そ、それは……」


 ええい! 彼女に嫌われても良いからもう言ってしまえ!


「きききききききき君のことが好きに決まってるからだろうがああああああああああ!!」

「はぁっ!? ななな何であんたが私のことを好きなのよ!?」

「君のその見た目も仕草も罵詈ばり雑言ぞうごんも全てが新鮮で魅力的みりょくてきなんだ! それ以上に理由がいるかっ?」

「ふふふふざけんじゃないわよ! 誰があんたなんかと……!」


 クレルラは俺の告白を聞いて頬を赤らめている。

 これは脈アリのサインか? ああもう考えている余地なんてねえ! 彼女を手にしたいんだろ! このまま押し切ってしまえ!


「ききき君が神様稼業に飽きたと言うのなら、俺が神様になって君を支えてやる! 今まで巡ってきた世界のことも聞かせてやるし、毎日新鮮な思いをさせてやる! だから君と一緒にいさせてくれ!」

「…………本当に私を退屈させない?」

「絶対にだ!」


 クレルラは目をつぶってうーんとうなり、


「本当はあなたを地球に戻して異世界の記憶を全て消すつもりだったけど、あなたがそう言うのならそうしましょうか。ただし! 私があなたのことを好きになる保証はないわよ。それでも良いの?」

「それでも良い!」


 俺がそう言った途端、世界がガラスのように崩れてあた一面いちめん真っ白な世界になっていた。


「……じゃあ早速やってもらうわ、おバカさん。せいぜい私を退屈させないようにね。もし退屈したらすぐに地球に送ってやるから!」


 そう言ってクレルラはいたずらな笑みを浮かべる。


「ああ、望むところだ!」


 俺は新たに訪れるであろう転移者や転生者を待ちながら、クレルラの笑顔をいつまでも見つめていた。

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