感性の違い

nobuotto

第1話

 私の一日は朝のジョギングから始まる。

 汗と一緒に昨日のストレスを流せば、新しい今日を生きていくリズムが生まれるのだ。

 ジョギングの友はラッキー。

 みんなはミニサイズを選ぶけど、ラッキーはミドルサイズ。ミドルでも軽量だし、ロボットだってやっぱり鳥らしくないと愛情も湧かない。

 ジョギングから帰ってシャワーを浴びる。彼はまだ寝ている。レストランを経営している彼と私の生活時間は四時間ずれている。朝食の用意をして彼の大好きなシェーンに「ちゃんと起こしてあげてね」と言うと、シェーンは小さく頷いて、彼の枕元に飛んで行った。彼の起床時間には心地よいメロディーを流し、目覚めた彼に私の愛の言葉を伝えてくれるのだ。


 ジョギングの相棒のラッキーを充電ホームに入れ、お仕事の相棒のクレバーを肩に乗せる。今日は少し暑そう。クレバーも薄手のジャケットを勧めてくれた。

 会社直通のプライベートハイウェイの中でクレバーに今日のスケジュールを確認する。クレバーという名前通りにテキパキと要領良く話してくれる。今日も確実で完璧な仕事ができそう。

 ハイウェイから移動ボックスに乗り換えてお気にいりの写真と絵を貼りまくっているブースの席に到着。直ぐにパリ、シンガポールとのテレビ会議が始まる。クレバーは翻訳だけでなく、私が知らない専門用語が出ると横の画面に資料を出してくれるのでとても助かる。

 今では普通だけど私のお爺さん、お婆さんの頃は、ネットにわざわざ質問を打ち込んで、それでもって山のような回答から選んでいたらしい。なんという時間の無駄遣い。お爺さんは知的で素敵だったから、クレバーがいたら、もっといい仕事ができたはず。


「今日も朝から会議か。いくら優秀な国際企画部でも時間だけは僕らと一緒だね」 

 同期の武志だ。ブースの横を通る度に何か話しかけてくる。武志にすればスキンシップなんだろうけど、私にすれば時間の無駄。

 それにしても男性陣の鳥はダサい。特に管理職のオヤジ達のはダサい。黒い鳥、私にはカラスにしか見えない鳥を肩に載せて、そのうえ、黒のスーツだから、なんかオカルト映画に出てきて直ぐに殺される悪魔の下っ端召使いみたい。

 それに比べて私達女性陣の鳥たちは個性豊か。あまり派手なのは会社だと気がひけるので、ちょっと見は地味にしてるけど、自分と同じペディキュアの色を羽を入れたり、みんなちょっと工夫している。そんな工夫をするのも女性だけ。社会生活を送るうえで大切なパートナーなのに、なんの愛情も注がないなんて失礼でしょう。そう男性陣には言いたい。

 最近、夫婦の鳥ロボットの相性が悪くて離婚したという話をよく聞くけど当然だと思う。だって、一緒にいる時間は夫より長いのだから。


 だから、ラッキーとクレバーがいなくなった時は、もう生きていけないと思った。 

 私が愛する鳥がどこかに行ってしまった。

 私だけでなく、女性だろうが男性がろうが、みんなこの世の終わりくらいにショックだった。世界中のマスコミも大騒ぎだ。

 その理由がやっとわかった。

 世界中の鳥達は、大西洋のスメール島にいた。もう朝から晩まで、いえ、二十四時間スメール島の映像が流れつづけた。誰もが自分の愛する鳥がいないか目を皿のようにしてテレビを見てる。私も録画したビデオを何回も見てラッキーとクレバーを探したけど多すぎて見つからない。

 学者先生によると、その島にいる本物の鳥が原因だったみたい。

 その鳥はギョロギョロした大きな目で、鶏冠が真っ赤で、身体が青い。鳥のくせして大きさが二メートルもあって、鳥のくせして空を飛べない。この鳥が、特殊な声を出してみんなを呼び寄せたみたい。このダサい鳥、なんてことをしてくれたのかしら。

 学者先生は、この鳥の声を消すような音波をこの島で流せばみんな帰ってくるという。

 先生の「鳥ロボット帰還プロジェクト」が私の国でもすぐに立ち上がった。

 私も最初は早く帰ってきてほしいと思ったけど、今は世界中で起こったプロジェクト反対運動に加わっている。

 だってテレビに映っている鳥達が本当に楽しそうなんだもの。ロボットが幸せを感じることなんて無いのは分かっている。だけど、テレビの向こうの鳥達は、一緒に空を飛んで、木になっている実を一緒につついて、本当に幸せそう。私の肩でも勿論幸せだったはずだけど、私の肩に帰ってきて、それからずっと乗っていてとは言えない気分。もう、諦めるしかないわよね。

 反対プロジェクトに参加してるのはほとんど女性。男性陣は「帰還プロジェクト」のシャツまで作って騒いでいる。製造会社の株価が落ちてあたふたしている連中も男性ばかり。

 どうせすぐに違うロボットを発売するでしょ。

 肩乗り猫ロボット、これは嫌だな。ネズミも嫌だし、虫なんて論外だし。いっそのこと肩パットくらいでいいのかもしれない。

 可愛いとは思えないけど、私も気楽でいいし、それに男性に至ってはそれで十分ですもの。

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