資金5000兆円男の新しいお仕事!

ちびまるフォイ

フリーザ「私の資金力は5000兆円です」

朝顔を洗って鏡を見ると頭の上に金額が出ていた。


「なんじゃこりゃああ!?」


資金額:10万円


朝イチにもかかわらず殉職刑事ばりの声量で

隣の部屋から熱い壁ドンコールを受けた。

街に出てみると、みんな頭の上に預金額が表示されている。


「人間の価値ってわけじゃないよな」


自分の通帳をひらくとピタリ金額が一致しているので、

持っているお金が頭の上に表示されているみたいだ。


それからしばらくすると、街はギスギスしはじめた。


「あの、すみません。ちょっと道を聞いていいですか?」

「……」


「あのおまわりさん?」

「……」


交番で道をきいても無視されることが多くなった。

無視できないようにズボンを脱ぎ始めると流石に止められた。


「あんた何やってるんだ!」


「やっぱり聞こえてるじゃないですか。道を聞きたいんです」


「ほかを当たってください。資金額が低い人間と話していると

 黒い噂を流されて仕事できなくなるんです」


「……はぁ」


しょうがなくほかを探してみる途中に、

歩道にはでかでかと蛍光文字が書かれていた。


【 資金100万未満用歩道 】


歩道は犬のうんちやら、ホームレスがたむろしていたり

わざわざ大通りを避けるようにくねくねと複雑に曲がっている。


「……なんで遠回りしなくちゃいけないんだろ」


普通に大通りの直通歩道を歩いていると、

ブーメランのように端がとがったメガネをかけたマダムが血相を変えた。


「ちょっとあなた!! ここは1000万以上専用歩道よ!!」


「あ、そうなんですね。すぐにどけますから。

 その前に道を聞いてもいいですか? 天空の城への行き先を……」


「だれかーー!! だれかーー!! 早く来てーー!!」

「え、ちょっと!?」


地面から召還されたサーヴァントに羽交い締めにされると、

ふたたびさっきの交番へとふり出しに戻された。


マダムも関係者としてやってくると、交番でキーキー喚いた。


「あなた警察でしょ!? 税金もらってるんでしょ!?

 こんな資金のない浮浪者が専用歩道においそれと入っていて

 あなたはここで何をしていたの!? キー!」


「道をきいただけじゃないですか」


「うそおっしゃい! 本当は私のこのブランドバッグと

 ブランド時計とブランド靴を好きあらば持っていくつもりでしょう!

 エロ同人みたいに!!」


「どんな雑誌読んでるんですか」


「ああ、もうこの街は住めないわ!

 資金1億以上専用シティへ引っ越そうかしら。

 おちおち安心して外を歩くこともできやしない」


マダムが去ったあとの交番は沈黙に包まれた。

警官は気まずそうに声をかけた。


「……まぁ、こんな感じなんですよ、この街は。

 頭に資金額が表示されてからというもの、みんな変わってしまいました」


「まるで犯罪者予備軍みたいな目で見られましたよ」


このままじゃ俺自身も街を歩けば棒に当たる以上に職務質問されそうなので、

自身の類まれなるハッキング能力を開花させ手打ちで自分の表示を変えた。


「よしできたぞ!!」


資金額:5000兆円


自分が欲しい金額を表示できるようになった。


これだけ資金を持ちながらも、人を資金で判断することなく

誰にでも分け隔てなく接すればこの街の空気も変わるだろう。


資金額を切り替えてから、あえて「資金100万円用未満歩道」を歩く。


すると、すぐに他の人に呼び止められた。


「あなた、なにしてるんですか。ここは100万円未満用ですよ」


「それがどうしたんですか?」

「どうって……」


「資金額だけでどうして人を判断するんですか?」


それからもあえて庶民派の店に行ったりするうちに、

俺の噂はまたたく間に広がった。


「よう、巻得(まきえ)。高校の同窓会依頼だな。

 しっかし5000兆円とは凄まじい資金額だけど何したんだ?」


「それはまあ、企業秘密だよ」


資金額に関係なく接する俺の働きが実を結んだのか、

いつしか俺の周りはたくさんの人が集まるようになってきた。


「俺みたいな資金額300万の人間とも、

 昔のように話してくれるだから、変わってないよな」


「資金があってもなくても、俺は変わらないよ」


「そうか、安心したよ」


実際は5000兆円も持っていないし。10万円だし。

同級生は飲んでいたコーヒーカップを置くと切り出した。


「……でさ、ちょっと金貸してくれない?」


「は?」


「今月キャバクラにつぎ込みすぎちゃってお金ないんだ。

 5000兆円あるんだから、100万円くらいどうってことないだろ?」


「いやいやいや! できるわけ無いだろ!」


「なんだよ、何が不満なんだよ。ケチだなぁ」

「ほっとけ」


同級生は不満そうに席を立つと、刺さったままの伝票を指さした。


「……5000兆円あるんだから、会計はそっち持ちでいいよね?」


「ケチはお前だろ!!」


その後も資金額によらず人は集まってきたものの、

「金貸して」だけを覚えたオウムのような人ばかり。

歩く足音ですら金の音に聞こてくる重病も患った。


「ああ、もう! 金貸しどもはよってくるな!」


絶えきれずに自分の背中に「金貸しません勝つまでは」を入れ墨して

金の匂いに釣られた人たちを遠ざけるようにした。

それ以来、俺の周りにいた人は一気に減った。


「みんな金目的だったのかよ……」


失った人気に凹んでいる時、首筋にチクリと刺激を感じた。

その瞬間に意識が遠のいてその場に倒れてしまった。



目を覚ますとどこかの倉庫で、椅子に縛り付けられていた。


「ふふふ、時計型麻酔銃が効いたようだな。ずっと眠っていたぞ」


「ここは一体どこだ!?」


「波止場第三3倉庫などと、貴様に教える義理はない。

 それより、5000兆円の資金とは恐れ入った。

 我々強盗団「ミンキー応援し隊」に寄付してはもらえないだろうか」


「チーム名のダサさはなんなんだ」

「それは我らがアイドルファンだからだ。CD買いすぎて金がもうない」


必死に拘束を振りほどこうともがくが身動きが取れない。

暗さに目がなれ始めると、倉庫に置かれている拷問器具が目に入った。


「気づいたようだな。貴様が金の引き渡しを拒否すれば

 ドンキで買ってきた拷問器具で生きることを後悔することになるぞ」


「……き、聞いてくれ! 実は5000兆円なんて持ってないんだ!」


「ハハハ。その手の命乞いは予想していたよ。

 それじゃ拷問してもその嘘が突き通せるか試してみるか?」


「本当なんだ! これは全部俺の見せかけで、本当は10万しか無いんだ!」


拷問する前に自分の預金通帳のありかや、

自分の表示を変更する方法から初恋の相手まで洗いざらい話すと

通帳残高を見た犯人一派はさすがに言葉をなくした。


「うわっ……お前の資金、低すぎ……」


「ほっといてくれよ!」


「せっかくすべてを失う覚悟で5000兆円の金づるを

 誘拐できたと思ったのに、見返りが10万しかないとは……」


「処す? 処す?」

「そんなことしてみろ。死体の処分で10万以上かかるぞ」

「かといって、このまま返して警察にでも通報されたらどうするんだよ」


犯人グループも予想外だったらしくヒソヒソと会議をし始めた。


「あのぅ」


「うるさいな! 今取り込み中だ!」


「実は、お金を手に入れる方法があるんですが……」


 ・

 ・

 ・


その後、5000兆円男こと俺は解放された。

これを気に背中の入れ墨も消して自伝本までかきあげた。


「先生、自伝本読みました! すばらしいです!」

「先生、どうやって5000兆円も稼いだんですか!?」

「先生に折り入ってお願いがあるんです!」


再び俺の周りには目を「¥」にさせた人がよってくるように。

そういう人たちに俺は決まって言う。


「君だけに、特別に設ける方法を教えよう。

 波止場第三3倉庫に来てくれたまえ」



犯人グループが1人増えたのは、彼らには知る由もない。

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