強制恋愛部の顧問になっても

ちびまるフォイ

誰を好きになるのか

恋愛も成績表に記載されるようになってから、

とくに人を好きになれない人は恋愛部へと転属させられる。


「ということで、君は恋愛部の顧問になってもらうよ」


「校長先生、どうして俺が恋愛部の顧問に!?

 授業が終わったら早く帰って夕方アニメを見たいんです!」


「顧問の先生が想像妊娠で産休をとっていてね。

 それに君は結婚をしていないし、恋愛経験もゼロ。

 恋愛弱者の生徒によりそった指導ができるのではと思ったんだよ」


「本音は?」

「お前が一番断らねぇだろうなと」

「横暴だーー!」


「しばらくしたら、部員が人を好きになっているか査定しに来るね。

 人を好きになってなかったら君、給料減らすから」


「清々しいまでのパワハラ!」


晴れて不名誉な恋愛部の顧問となり部室に入ると、

すでに4名の生徒が待っていた。


「みんな、今日から顧問となりました。

 えーーそれではこれから部活動を指導するにあたって、

 みんなの恋愛観とか好きなタイプとか聞きたいと思います」


「わたしぃ、素敵な王子様が好き☆

 ワタシが森でヤギさんとお話しして眠った時に

 お城からやってきた白馬の王子様がキスで起こしてくれるのー♪」


「それがしは三次元のメスなどに興味はないのでござ候。

 真実の愛とは無償の愛。邪なる性欲に基づく愛などまがい物。

 真実の愛の探求者にして二次元教の宣教師となるのが目標である」


「あの、男の人は近づかないでください……。怖いです。

 どうしてこの世界は男性と女性に別れてないんですか……」


「フッ、そもそも恋愛などに何の価値がある。

 社会に出れば恋愛なんてむしろ邪魔。

 私情で行動するような大人になどなってたまるものか」



「う、うわぁ……」



4者4様で人を好きになる気ゼロの強い意志を感じた。


「まぁ、みんな。人を好きになるってのは雷に打たれるように

 突然なことだけじゃないと思うんだ。

 これから少しづつ親睦を深めていこうよ」


「わたしの前世もねーー御神木から生まれた妖精さんの末裔なんだよーー☆。

 毎日お花の蜜を持って、空き家の鍵穴に詰めて固まらせる仕事をしてるの♪」


「ということで、レクリエーションをします!!」


メルヘンな返事には一切耳もくれずに提案した。

嫌そうな部員をキャンプに連れて行って、やや強引にでも団体行動を取らせる。


「これで少しでもお互いに興味を持ってもらえるはずだ。

 人を好きになれないのは、人に関心を持てないからだろう!」


レクリエーション終了後、熟年離婚の夫婦より険悪なムードになっていた。


「あ、あれ……? なんでこんなに関係悪化しちゃったの?」


「そもそも三次元のメスどもは相手に対する思いやりがなさすぎるのである」

「男性が触ったものなんて汚くて触れるわけないよ!」

「なにがレクリエーションだ。友達くらい自分で選べる」


すでに人を「嫌い」からスタートしている彼らにとって、

レクリエーションといった共同作業は「嫌な相手との作業」となり溝を深めた。


悩んだ末に占い師に相談してみると、


「見えます見えます。部活動の様子を配信するのがいいでしょう」


「配信……そんなんで解決するんでしょうか」

「ワタシの占いは絶対なのです! 外れた人間はひとりたりとも生かして返しません!」


占い師の助言もあり、部活動の様子を配信することにした。

なんの効果があるのかと疑ってはいたが配信による外的な刺激がくわわった。


恋愛部の観察バラエティを見た人たちは勝手に「誰がくっつく」の予想をはじめ

しまいには公式サイトでオッズまで掲載されている。


「そうか、占い師が言っていたのはこういうことだったのか。

 自主的に人に興味が持てないのなら、周りが興味を持てるようにということだったのか」


誰だって「お前、アイツのこと好きだって噂だよ」なんて言われれば

相手がどんな人間であれ興味を持つようになるだろう。


ひいては、その興味が人を好きになるきっかけになれば――。


その後、部室に行くと。


「あれ!? なんで1人しかいないの!? 他の3人は!?」


「サボり、でしょうね。まあひとりのほうが勉強しやすくて助かりますが」


「どうしてサボったんだろう……今までちゃんと来ていたのに」


「そりゃ配信されて、自分にあらぬ噂をたてられるのが嫌だったんでしょう」


「うそぉ……」


結果はふたたび失敗に終わった。

そもそも嫌いな人間とあらぬ噂を断てられれば不快ということで、

恋愛部のメンバーはボイコットという姿勢で視聴者に対抗した。


「どうするんだよ! もう校長先生の視察まで時間はないのに!

 このまま人を好きにならずに終わったら確実に減給だよ!」


と、飲み会の席で友人に愚痴ると、友人は考えた。


「もういっそ強引にくっつければいいんじゃね?」


「なんて荒療治な。またボイコットされるよ」


「別に好きでもない人から告白されたらどうする?」

「断るかな」


「俺は受ける」

「クズかよ」


「で、最初は好きでもないけど、付き合ってからだんだん好きになるパターンもあるだろ」


「それしかないか……!」


「同じ作品の出演きっかけで恋人になる俳優さんみたいな感じだよ」


さっそく恋愛部のメンバーを強引にカップルとしてくっつけた。

任務としてカップルらしい振る舞いを、指定した期間続ける条件付き。


「そそそそ、それがしは三次元など興味ないのでござ候」

「ギャーー! 手汗! 男性の手汗がーー!! 死んじゃう!」

「こんなのが一体何の知識になるのか……」

「わたしのいるフワピィタウンではこういう風につなぐんだよーー☆」


荒療治だがコレをきっかけに人を好きになってもらえれば。

そして、ついにその日は訪れた。


「やぁ、恋愛部の顧問先生。今日は約束通り恋愛部の様子を見に来たよ」


「はい……!」


「それで、彼らは人を好きになったのかね?」


「もちろんです!!」


校長先生を恋愛部室に案内すると、その様子を見て校長は驚いた。


「君、これはどういうことかね! 全然人を好きになってないじゃないか!」


部員は荒療治の成果により部室にパーテーションを作り、

自分だけの時間をそれぞれ過ごすようになった。完全なる断絶。


「校長先生、なにをおっしゃってるんですか。約束通り、人を好きにさせましたよ」


「へ?」




「見てください! 彼らは、自分自身という人を

 こんなにも好きになっているじゃないですか!」



その後、俺は減給の末に校長室の椅子として働くことになった。

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