第5話 深い闇(2)

「わかりみ」という言葉が使われ始めたのはいつ頃だっただろうか。もともと日本語では形容詞に「み」をつけて名詞化することがある。「重み」や「赤み」などがそうだが、一部の形容詞にしかつかず、「軽み」「近み」というのはあまり聞かない。しかし2010年代後半、ほかの形容詞につける用法が一部で流行り、「良さみ」や「ヤバみ」が生まれた。動詞につける形も生まれ、「わかりみ」なども誕生した。これに「闇が深い」というような表現を組み合わせたと思われる「わかりみが深い」というような言い方は爆発的に流行した。

 彼はこの「~み」こそが琉球語の動詞に接続する謎のNの起源だと主張しているらしい。困惑した私は尋ねる。

「ちょっとよくわからないんですが……」

「おそらくこの動詞連用形にミを接続させる用法が未来では一般化したのでしょう。連用形+ミが文末の形として定着した未来から古代琉球への移民があったと考えられます。宮古語kaksmは日本語kakimiと規則的に対応します。」

「北琉球のkakjuNはどうなんですか?」

「*kakimのような形でiが唇音mの影響によりjuに変化したか,通説通り“居る”の接続でしょう。」

 琉球語のうちでも、北部で使われている北琉球諸語では、動詞に「おる」に対応する動詞が接続した形が終止形になっている。つまり「書く」は「書きおりM」でこれが沖縄語では「カチュン」になる。古い文献では「(連用形)+より」という形で記録されており、西日本方言の「しよる」といった言い方との関係がうかがわれる。

「琉球語が未来の日本語からきているとして、今日であまり使われない“居る”などが琉球では広く使われているのはなぜですか」

「たぶん未来の日本語では“居る”が広く使われるようになっているか,移民の出身地に関係するのでしょう。現代日本語が西日本方言寄りになりつつあることを考慮すべきです。」

 確かに現代日本語は西日本方言寄りになりつつある。しかしそれを持ち出して「未来人が古代に渡った」と主張するのはこじつけと言うほかないし、第一意味が分からない。

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航時言語学 禾本一郎 @Nogimoto_Ichiro

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