終章

 あれから2ヶ月後。

 今日は百合華の大学入試の合格発表だ。

 僕は自分のことではないにも関わらず、とても緊張していた。

「友也ーっ!」

 合格発表を見てきたらしい百合華がこちらへ駆け寄ってくる。

「ど、どうだった?」

「あのね…」

 百合華が少し俯く。

「合格しましたーっ!」

「え、ええっ!!!よかったな!!!百合華!!!頑張ったな!!!」

 百合華は少し照れくさそうな顔をして、言葉を付け足した。

「ありがとうっ!…というか、もう桃木百合華じゃなくて今は白樺桃奈!1か月前にちゃんと本名にしたんだってばっ!」

「ごめんごめん、まだ慣れて無くてさ。」

「桃奈の方が呼び慣れてるでしょうがぁ。」

 むすっとしている。けど、また再び笑い出す。

 お互いに笑う。

「今夜はお祝いだな。赤飯炊かなくちゃ。家来るか?」

「赤飯だなんて、なんだか古風ね。引っ越しとか奨学金の準備があるから今夜は無理かなあ。って、未成年に手を出しちゃだめだよ?」

「そうだそうだ、な、桃奈ちゃん!」

 からかう桃奈の後ろで光介も茶化す。

「そんなんじゃないからっ!というか光介いつの間に!」

「だって、可愛い可愛いほっしーの彼女がうちの大学の冥王めいおう大学に受かったんだから、お祝いしないとな?」

「ただ単に見たかっただけだろっ!」

 3人で笑う。

 僕は桃奈の事件を聞いたあと、桃奈の許可を得て、誤解を解く為にも光介に事情を話した。すると、それなら問題ない。しかもめちゃくちゃいい子。と太鼓判を押されたのだった。

「そういえば、桃奈は稲女受けるのかと思ってた。」

「うん、最初は稲女受けよっかなーって思ってたんだけど、冥王にも特待生の試験があるっていうものだから、こっちにしちゃった。」

 ウィンクする姿は、いつもよりも愛らしい。

「あ、桃の花が咲いてる。」

 桃奈がうちの大学のシンボルの桃の木を指す。愛らしく、寒さに耐えながら堂々と花が咲いている。

 その姿が誰かに似ていて、なんだか微笑ましく思えた。

 来年の今頃は、どんな毎日を送っているのだろう。

 未来など予想することは出来ないけれど、来年の桃の花の咲く頃に、桃奈が今までとは違う、明るい未来を手にし始めているように、花のゆらめきに祈りを込めた。

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桃の花の咲く頃に 桃山 楓 @maple_1010

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