最終話「その後の話」
あれから、師匠にこっぴどく叱られてしまった。
街の被害は未然に防ぐことが出来たとしても危険な賭けだったのは間違いないし、割と捨て鉢な行動だったから。と思っていたのだが、師匠曰く。
本来、そういう魂のゆりかごを乱すような存在が生まれないようにマナを散らし、均衡を保つのが役割だというのに。
あろうことかそれに魅了され、一ヶ月監視されているというのに仲良く過ごし、更には再契約を持って眷属とするなどもってのほかだと怒られた。
街のことはどうでも良かったらしい。
「アニーのせいで叱られちゃったよ」
「……そのようねテト。あなたが変な趣味を持っていたなんて、流石の私も予想外だったし、師匠を責めるより自分の業を見つめなおすべきじゃないかしら」
窓際で不貞腐れていた僕に、冷たく彼女は言い放つ。木漏れ日の中で、僕らは一緒に居た。外は森。師匠の住処、僕の部屋で。
椅子に反対向きに座った僕は溜息をついて窓からの風に身を任せていた。彼女は知らん顔でベッドの上だ。澄まし顔で目を細めている。
あの時、僕が持っていたのはアニーの元主人が持っていた契約の触媒だった。使い魔と契約した者はそのきっかけや印を持っている。面倒な術式なしに直接使い魔にアクセスするにはそれが一番てっとり早いから。
あんな大がかりな術を仕込むのだから、最期まで触媒は大事にしていただろうと暗くなるまで探し、僕は見つけた。
あとはそれで、彼女が使い魔としての使命に動く瞬間に割り込むだけ。ちょっとタイミングを失敗すれば術式が発動していたかもしれない。
「師匠に罰として、更に色んな戦後処理を押し付けられそう」
「あら、良かったじゃない。それだけで済んで」
「もちろん、眷属なんだからアニーも一緒だよ?」
「……、そういう欲を向けないでと言わなかったかしら。どうにも落ち着かないのよ、それ」
彼女はそっぽを向いて、そのまま部屋から出て行ってしまった。再契約によって白い毛は完全に消え去り、僕の眷属となったはずなのに。
彼女は怒っているのだろうか。自由を望んだ彼女に対話もなしに、僕は自分の我儘を押し付けた。もちろん、彼女に応える気がなかったら、契約というものは成立しないのだけれど。
まぁ、それものんびり解決していこう。師匠の罰で、僕らはまだしばらく魔力捜査を続けなくてはならないのだから。
――これからも一緒に。
黒猫アニーと見習いテトの魔力捜査始めます。 草詩 @sousinagi
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