私のおばあちゃん

星 響生

私のおばあちゃん

 私のおばあちゃんは、先週亡くなった。原因は老衰だった。おばあちゃんはその時90歳で、ついこの間、誕生日のお祝いをしに遊びに行ったばかりだったから、びっくりした。私はもう高校二年生だけど、こうして近しい人が亡くなるのは初めてで、どうしていいか分からなかった。ただあのお葬式の時のお香の匂いが、頭に住み着いて離れなかった。


 私は小さい頃から、おばあちゃんにお世話になっていた。おばあちゃんはいつでも優しかった。幼稚園児の頃はよく泊まりにも行った。小学生の頃は、休みがある度に家族でおばあちゃんの家に遊びに行った。中学生になると、吹奏楽部に入ったからなかなか休みがなくて、前みたいに遊びには行けなくなった。でも、たまに遊びに行った時には、おばあちゃんに沢山練習したフルートを聞かせてあげた。おばあちゃんはいつもいつも、とっても喜んで私を褒めてくれた。

 おばあちゃんは元気で強い人だった。この間遊びに行った日も、おばあちゃんはいつものように台所に立って私に昼食を振舞ってくれた。おばあちゃんの手料理は大好きだ。優しい味がして、いつも心があったかくなる。自分もいつかそんなおばあちゃんみたいに、優しい人になれたらな、といつも思った。私はおばあちゃんの料理を手伝うこともあった。全然料理ができない私でも、おばあちゃんの隣でなら安心だった。おばあちゃんは、あなたのお母さんもよく料理の手伝いをしてくれたんだよ、と言っていた。私にとっておばあちゃんは、もう一人のお母さんのようだった。


 先週の夜のこと。お母さんの携帯に、夕方ぐらいから何回も繰り返し電話がかかってきているのを見て、家族のみんなが気づいていた。おばあちゃんが危ないかもしれない、と。その電話は、おばあちゃんと一緒に暮らしているおじいちゃんからのもので、今救急車で運ばれた、とか、今は容態は安定している、とか、おじいちゃんのいつもより焦った声が聞こえてきた。私達は夕食を食べる前に急いで家を出た。おばあちゃんの最期かもしれなかった。

 病院へつくと、おばあちゃんがいた。でも、もう間に合わなかった。おじいちゃんがその隣で、無念そうな顔をしていた。びっくりして、私は涙も出なかった。


 法事というのも初めてで、変な気持ちがした。お線香の香りは、前にも嗅いだことがあるけど、お香の匂いはどうも慣れなかった。鼻に少しだけひっかかるような、変な感じの匂い。それが今でも私に、死というものを思い出させるのであった。

 出棺前に、遺族のみんなで花を入れた。その時に、おじいちゃんが見たことないくらい泣いていた。お母さんも、泣いていた。自分の母親が亡くなるって、それだけ悲しい事なんだって思わされた。


 まだ、おばあちゃんのお葬式が終わって数日しか経っていない。お母さんは今も、時々おばあちゃんのことを思い出しては涙している。でも自分は、どういうわけか泣けなかった。悲しくないわけじゃない。なのに、涙は出なかった。そんな私に、おじいちゃんは言った。

「人が死ぬっていうのは、誰もが経験することだ。その度に悲しくなって、泣いても、泣けなくてもいい。でも、いずれは前を向いて行かなきゃならん。死んだ人にとって一番の喜びは、残されたものが元気に生きる姿を、見ることだからね。」



 あれから、おばあちゃんにメールを送ることにした。返信なんて来ないのだけれど。でも、きっとどこかで見ていてくれているはずと思って、何かある度にメールをした。

 ''おばあちゃん、お元気ですか。私はとっても元気です。この間の吹奏楽コンクールで金賞をとって、県大会に進むことが決まったよ。これからも私の活躍を見せられるように頑張るね。いつもありがとう。大好き。''


 きっと今も、どこかで生きているおばあちゃんの姿を、目に浮かべながら────


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