こんな日が来るとはね。


 引き続き、毎日がムキムキのぶつかり合いなのだった。なんやったらもう試合の単位を「1ムキムキ」「2ムキムキ」にすればいいと思う。


 開催試合のない「休肝日」にもこころまかせに録画を見る。わたしは基本的に全試合をJ SPORTSで見ているのだが、NHKで放送されるカードもあって、解説比べをするためにそちらも録画して見るのでとにかく忙しいうえに、我が家の旧式のHDD-USBの容量が圧迫されることで常に頭が痛い状態である。いまひとつ見どころに欠けると思われるゲームはなるべく消去してゆく方針を立てたのだが、中には9月26日のカナダ対イタリア戦のように、試合自体はアレであってもメンバーを外れてスタンドに居たパリッセが途中大写しで抜かれて空前絶後の可愛い顔をするとかいういかんともしがたいケースがあったりするので、そのわずか二秒だけのために二時間まるごと録画を残す羽目になるなど、まるで収拾がつかない。

 試合を見て録画の処遇を決めるだけでもそのように多忙なのに、今年もやはり夫の実家の村で行われる秋の大運動会、近隣五集落のデスマッチ(注1)には否応なしに呼び戻されて、腹の底ではこんなことしてる暇はない、と本気でキレながら怒りに任せて綱など引いてきた(←勝ちました)。

 十月五日には皇子山競技場であったウェールズ代表の公開練習にも行ってきた。ジョシュ・ナビディは遠目にも男前だった。それに、本邦に滞在中の各国代表選手に関する瑣末な情報を収集するのにもひまが要る。フィジー代表のフライハーフ、ヴォラヴォラの彼女はハリウッド女優だとか、ヤマザキのランチパックが随行の海外報道関係者にうまいといって大人気だとか、ひたすらどうでもいいことに詳しくなっていく。イングランド代表のトム・カリーという若いムキムキが、ニッポンの猫カフェに行ってみたいのだけどチームメイトは誰ものってくれない、とぼやいているとかいう記事を読めば、ほんなもんワタイが連れて行ったげるやんかいさー! 「猫と筋肉とわたし」か……酒池肉林やなー。なんやったらウチに来て、我が家自慢のデブ猫の腹をいくらでも揉みしだけばいい、茶はわたしが淹れる。などと妄想まみれになる。

 その他にも、パリッセは「ミスター・セクシー」と呼ばれているとか(当然や)、パリッセは母国語以外にも西・仏・英の三カ国語を話せるとか(それは知らんかった)、パリッセはイタリア語版『シュガー・ラッシュ』にザンギエフの吹替で出てるとか(HMVで買えるんかしら?)、生中継中の解説というか雑談においてもそうした小情報が次々に明かされ、一時たりともボサッとしていることが許されない。


 それにしても日本代表はよくぞスコットランドに勝ってくれたものだ。本当に素晴らしかった。当日ぎりぎりまで、この台風のことで、試合が開催されるかどうかわからなかったのだが、中止なら引分け扱いという大会規定に不服なタウンゼントやスコットランド協会のトップがあんまりぐだぐだ文句を言うたり、その前には日本対サモア戦のジャッジに口出ししたりということがあったので、ホンマいっぺんゆわしたらないかん、これ勝ったら決勝トーナメント行けへんとかいう無茶苦茶ルールがあったとしてもこのゲームには勝たなあかん、さすが文句言いのレイドロー擁するスコットランドや、親が嘉平なら子も嘉平、と腹に据えかねていたのである。(注2)


 しかし勝敗が決まったら、インタビューに呼ばれて出てきたレイドローもタウンゼントも、ちゃんと「日本いいチームやった。参りました」と言ったので、わたしの溜飲は下がりに下がった。レイドローは、その後日本のドレッシングルームに来て、流とジャージを交換したそうで、なんや! ええヤツなんやん! と思った。


 それにしても最後の一分の長さよ! 永い間、心ならずも阪神ファンという泥濘の道を歩んできて、幾度も幾度も煮え湯を飲まされたわたしは、「勝ちを意識したら負け」という警句が体内のあらゆる細胞に義春の彫刻刀で刻み込まれているため、前半押していたときから全く以て安心など出来なくて、もう胃の痛いこと痛いこと。今回に限らず日本代表の試合はいつも体に力が入って、気付けば変に顎を引いていたり、歯を食いしばったりしているので、終わったときにはたいがいくたくたになっているのだが、スコットランド戦は今まで見た試合の中で間違いなく一番疲れた。


 さあ、次はまたしても南アフリカ戦となる。すげえ、準々決勝やて! おそらく向こうのハーフにはわたしのフランソワが出てくるが、今度ばかりは応援しない。いや、今までだって別に応援してたわけちゃうし。そんなんとちゃうし。




(注1)「山の運動会」https://kakuyomu.jp/works/1177354054887731454/episodes/1177354054887732275

(注2)「ある男の吠え面」https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054887731454/episodes/1177354054887731718

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