不用意な発言は慎む所存で


 前回の駄文にも書いたが、自分は美空ひばりに諭されるまでもなく、物心ついたときから阪神ファンという来し方において、野球のみならず人生のあらゆる局面で、勝ちを意識したら負けだということを不必要なまでに念入りに学習してきた。不思議なことに、余人が主導権をもってしていることであっても、わたしが「勝つねこれは」とジャッジした途端に全てが崩壊する。そういえば、わたしが現地観戦しに行ったサモア対スコットランドの試合だって、序盤互角に渡り合っていたサモアの面々を見て、ハーフタイムに入る際、隣にいた夫に、

「今日サモアいけるんとちゃう?」

 とついつい漏らしてしまった結果があれだ。校長先生も言うてたさ。「おうちに帰るまでが遠足です」。おわかりいただけるだろうか、これほどの名言はない。もう家や、イエー!! と思ってスキップしたら門の前のマンホールの蓋が全開だったりする。人生とはなべてそういうものである。黙っておけばよかった。ごめんなジャック・ラム。

 と、そんなことを思い出しつつ、今もわたしの横にあるテレビ画面には世界のムキムキが映し出されている。予選は終わったが次の試合に備えるため(何を?)、南アフリカの試合を順々にチェックし、日本の遂行すべきゲームプランを考えているところである(夫が)。

 わたしに関して言うと、南アに限らずすべての試合を通して、ゲーム内容、細かい展開などに関しては、例によってそこまで理解が及ばないため、

「全部見た」「おもろかった」「ウルグアイのジャージ欲しい」

 以外の所感はこれといって湧かず(注1)、強いて言えばどのゲームでもファウルプレーを厳しく取るようになったなあ、ということくらいである。でも、そのことについて解説の栗原が、

「これでラグビーも、危険なプレーに対して厳しい規律のある、安全に配慮したスポーツだということが理解されて、子どもにやらせてもいい、と思う親御さんも増えるんじゃないですか」

 みたいなことを言っても、安全に配慮しててこれかよ、と世間は見るだろうということだけはわかる。栗原、甘い。「防具をつけずに全力でぶつかる」という根本がもう異常だということに、当事者はなかなか気付かないのである。

 安全アピールして競技人口を増やすのも大事かもしれんが、まずは持続的な観客動員を図るべきではないのか。日本のトップリーグはまだ企業スポーツの形を引きずっているから、そのへんはサッカーを見習って地域との関係を密にして、地の人たちに「うっとこのチームはここ」と応援してもらえるようにした方がいい。普段ラグビーを見ているわたしですらトップリーグのチームのホームがそれぞれどこだかなんて、近鉄と神鋼とヤマハとサニックスと、あと東芝くらいしかわからないし、実際どこの会社にも格別な思い入れはないから贔屓もなく、従って興味も薄い。聞けば、フランスのプロリーグであるトップ14は徹底した地元密着型の経営で、下位のチームの試合であってもスタンドは常に満員だそうである。だから儲かってるし、選手の年棒も高いし、高いからスター選手が来るしでますます繁盛するのだ。このW杯が済んだら日本にもスターは来る、でもそのスターを活かしきれるのか? 頑張れトップリーグ関係者、マルコム・マークスをがらがらのスタジアムでプレーさせたらんといてほしい。

 しかし今年のチャンピオンシップ(南半球四カ国対抗)、八月十日のアルゼンチン戦を見返していても、ファフ・デクラークの意地悪ぶりは際立っている。えらい鈍臭いミスキックをしたアルゼンチンの9番クベリに駆け寄って、ヘイヘイ、おーけー! おーきに! みたいにばんばん肩を叩くファフ。しかも、ひょっとしたら挑発ではなく、敵をも励ます美的行為(ラグビーでは、倒れた相手チームの選手を引き起こすなどの姿は結構頻繁に見られる)かもしれんとかいう風に見えなくもない、一瞬ラグビースクールのセンセも惑わされて一概に叱れへん、いっちゃんイヤらしいタイプのヤツや! 性格悪ー! こんな男が球出しをやるチームとまた当たるのか。いややなー。

 なんて、わたしがこれくらい弱気な方が、我が日本代表には有利なのである。頑張れニッポン。わたしはキックオフからフルタイムまで、黙って見る。無言の行。



(注1)後日、ウルグアイ代表は熊本市内の飲食店で店員に暴行・器物破損などの狼藉におよび、わたしが折角抱いた所感もちょっとしぼんだ。悪いことはしちゃいかん。

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