山の運動会
山奥に住んでいる。
過日、我が村と、近隣の村落とが集まって、恒例の地区運動会が催された。老いも若きも(圧倒的に老いが優勢)弁当持ちで朝から出かけ(作るのは女)、昼を過ぎれば酒が入り(飲むのは男だけ)、閉会式にはみんな真っ白になっている。そういう運動会である。
プログラムは、対抗戦(綱引き、リレーなど)とそれ以外(幼児小学生が参加する玉入れや駆けっこなど)に分かれ、対抗戦の競技には点数がつく。村の威信を賭けたかなり本気の戦いであると思って頂いてよい。勝った村では後日祝宴が張られ、大人たちはまた酒を飲む。
その運動会で、村の世話役から、夫婦で男女の「アベック競技」に出るよう言われた。兄妹とか赤の他人同士でもよいのだが、とにかく男と女とで、ビール瓶を一本ずつ持ち、それでバスケットボールを上手く挟んで二十メートルばかり先のゴールまで運べ、という内容である。
「あんさんら若いねんし、出てくれはらしませんやろか」
この場合の「出てくれはらしませんやろか」というのは、要請ではなく命令である。断れば即MURA8、火事と葬式の時しか付き合いしてもらえないというあれが待っているはずだ。
「いやぁ、出るのは構しませんけど、上手いこといけへんかったら、やっぱりあそこは夫婦仲いまいちやなあ、とか笑われますぅ?」
それはわたしの、夫はさておき自分のドン臭さを鑑みるに、まず日没までにゴールにたどり着くことは不可能であろうという予測に基づき、点が取れなくてもとりあえず「村一番の不仲夫婦」に認定されて小笑いを取り、ひいては赦される、という着地を狙っての、いわば予防線発言だった。
わたしがそう言うと、傍にいた人たちは、大丈夫や大丈夫や、と皆口々に笑った。
ところが、アベック競走第三レースに出された我々夫婦はあろうことかぶっちぎりで、圧勝してしまった。
大変恥ずかしかった。
しかも、第四レースを走った、いつもお世話になっているお家の結婚生活三十五年のご夫妻が、なかにしたバスケットボールをそらもう右へ左へごんごろごんごろ落としに落し、最下位でゴールした。
めちゃくちゃ気まずかった。
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